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止揚と対極主義〜「展覧会岡本太郎」をみて感じたこと〜

 「芸術は爆発だ!」そんな言葉で有名な岡本太郎。現在、大阪の中之島美術館で、彼の作品を振り返る「展覧会 岡本太郎」が開催されている。今回は、ここで考えたことについてまとめたいと思う。

 岡本太郎の代表作といえば、なんといっても『太陽の塔』だろう。1970年の大阪万博の統一テーマ「人類の進歩と調和」を具体的に示すテーマ館のプロデューサーを任され、作成された作品だ。例に漏れず私もこの作品から彼の魅力に惹かれ、「座ることを拒否する椅子」「明日の神話」「犬の植木鉢」「傷ましき腕」、特に「夜」に惹かれて、関東の美術館をまわった。しかし彼の言葉を聞くことはあっても、思想を追うことはしておらず、ちょうどこの展覧会で網羅的に触れることができたので、その発見を記録しておきたい。

 彼の思想の中でも、彼の提唱した“対極主義”を知り、なぜ私が岡本太郎が好きなのかを理解した。対極主義について、説明は図録を引用する。

これは抽象絵画の合理主義とシュルレアリスムの非合理主義という、近代精神の裏表ともいえる二つの立場を、矛盾と対立を強調しながらぶつけることにアヴァンギャルドの芸術家の使命があるのだという主張である。画面のうえでは、無機物と有機的要素、抽象と具象、静と動、美と醜といった対極が「調和をとらず、引き裂かれた形で、猛烈な不協和音を発しながら一つの画面に共存していた。」

『展覧会 岡本太郎』(2022)

 『空間』では布と棒の質感、『重工業』では緑のネギ(有機物・農業)と赤の機械(無機物・工業)を対比させたそうだ。

『空間』(1934)
『重工業』(1949)

 対立する価値観といえば、ドイツの哲学者ヘーゲルの弁証法で用いられる止揚(アウフヘーベン)を思い出した。Wikipediaの引用には、以下のように説明されている。

「あるものをそのものとしては否定するが、契機として保存し、より高い段階で生かすこと」「矛盾する諸要素を、対立と闘争の過程を通じて発展的に統一すること」

出典:Wikipedia

 私はこの考えをずっと持ってきたつもりだった(といっても、wikiを引用するほど曖昧に)。ある考えがあれば、その反証を考え、その二つが“調和”するように考えを発展させる。例えば、「相手を傷つけたくない」と「相手に自分の意見を言いたい」が共存するときに「相手が傷つかないように優しい言い方をしよう」や「自分の意見が伝わるように相手に質問しよう」というように、二つを調和させる思考だ。これがヘーゲルの弁証法になっているかは別として、このような考えを持っていた。

 しかし対極主義という、二つが調和せずに共存する考え方は新鮮であったのと同時に、マインドフルネスの考え方とリンクした。つまり、この二つの相反するものをそのままにして共存させるという考えは、“マインドフルネス”でいう、物事をありのままとして受け入れる考えと同じだと思った。先ほどの例でいえば、「相手を傷つけたくない」と「相手に自分の意見を言いたい」という気持ちがあったとき、その二つを調和させずに、そのままでも肯定できるのではないかと思った。相反する気持ちが調和するのが理想論だが、これがうまくいかないこともある。例えば、博愛主義でありたいと思う一方で、攻撃されれば反撃したくなるし、相手の自由を尊重したい一方で束縛したくもなる。対極主義は、この二つの感情を不協和音として肯定している。

 ここでひとつ言い訳しておくと、決して止揚を否定したいわけではない。むしろ、止揚の前に対極主義が存在することで、よりスムーズに止揚に向かうと考える。例えば、博愛主義でありたいと思う一方で、攻撃されれば反撃したくなるという考えを理論的にだけ考えると、一方の考えが出てくること自体を否定したり、無理に優しく繕おうとすることで、感情が置いていけぼりになり、頭で理解しているのに感情が追いつかず、言葉にならないモヤモヤや明確なストレスとして、それこそ不協和音を生み出す。つまり調和しなければならないという思考だけでは、不協和音を生み出し、思考と感情はアンバランスの海に溺れてしまう。しかし、その不協和音を前提とした対極主義の考えを踏まえることで、いったん相反する考えを受け入れ肯定し、調和する考え、つまり止揚へと導けるはずだ。 

 こんな対極主義を持っている岡本太郎に感動したことが言いたかっただけなのに、曖昧な定義と跳び跳びの議論のせいで思考の迷路に迷いこんでしまったが、マインドフルネスと岡本太郎の話をについても少し触れたい。彼は「ただ前に向かって心身をぶつけて挑む、瞬間、瞬間があるだけ」と述べており、“今、ここ”に集中するマインドフルネスな考えを持っている。これも対極主義とマインドフルネスが近い関係にあることを表しているのかもしれない。

 さらに呪術や曼荼羅、神秘主義に関心のあった岡本太郎だが、ユングや水木しげるなどにも通じるものがあり、これもまた私よ興味の範疇。私の自己理解のためにも、本当に考えがいのある人物だ。他にもずっと見たかった『夜』の線と色の対極主義的な私見や、可愛いものしか描けない岡本太郎と丸みの考察、オカルト的な思想や芸術に惹かれることを書き綴りたいのだけど、疲れたのでこのあたりで筆を止めます。

 最後まで読んでいただいてありがとうございました。『展覧会 岡本太郎』とても面白かったので、ぜひ行ってみてください!


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