意見 | ニッポンの製造業、再び輝くためには
以下の意見募集について私の意見です。
1. 外部環境
まずは製造業が置かれている状況を理解するため、各データを確認したいと思います。
①GDP構成比
「第1次産業」「第2次産業」「第3次産業」という分類がもはやどこまで意味をなすのか分かりませんが、GDP構成比で見ると第2次産業は日本が約30%、アメリカが約20%という状況です(※1)。第1次産業は非常に小さいため、残りの70%、80%は第3次産業です。注目すべきは中国やインドでも早くも第2次産業と第3次産業の逆転が起こり、特に両国の第3次産業は目覚ましい勢いで伸びています。2017年時点で第3次産業が50%です(※1)。
②世界シェア
次に世界の主要商品・サービスシェアを見ると、トップシェアに食い込めるのは精密機械など、つまり大きな括りでは製造業で、サービス業はほぼ見る影もないといった状況です。GDP構成比では相対的に低い製造業なくしては世界における日本のプレゼンスがないのが実情です。
一方、アメリカはクラウドサービス、金融サービス、ネット広告などがデータで見ても高いシェアを占めています。つまり実感の通り、サービス業が強くグローバル化が進展しています。その他、Uber、Facebook、Airbnbなどに代表されるように、製造業が作り上げたバリューチェーンの先で、低い限界費用の恩恵を享受し多額の利益や投資家の注目を独占している企業も多数あることも日本の危機感を煽っています。ご存知の通り中国とインドのような大国も、ものすごいスピードで米国を追従してきています。
一方、自動車業界のMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を始め、AmazonのEchoであったり、AppleのiTunesであったり、製造業とサービス業の融合は随分前から既に一般化しています。こうした潮流から、サービス業であるとか、製造業であるとか、または自動車メーカーであるとか、ITサービスプロバイダーであるとか、既定の業態や枠組みに捕らわれない企業活動が加速化しています。
③人口構成比
またデータとして無視できないのは人口構成比です(※1)。中国は徐々に日本の構成比に近寄りつつあり、インドはその10~20年後に同様の傾向が見られるようになると思います。両国へのイメージでは、圧倒的な若い労働力に依存していそうですが、高齢化の潮流は日本や欧米に限った話ではないということが分かります。世界屈指の超高齢化社会である日本が、健康や医療、また限界集落問題に対応したコンパクトシティ化などで世界をリードできる可能性は十分にあると思います。
④世界のテーマと目標
最後に数字ではないですが、世界的な目標の遵守は、企業内の方向性付けや投資家の呼び込みのためには重要だと思われます。「持続可能な開発目標(SDGs)」、それに裏打ちされたニッポンの「ソサエティ5.0」、また「ESG(環境・社会・ガバナンス)」経営など。いずれに共通するのは「サステイナビリティ(持続可能性)」であり、③とも親和性の高いテーマであり、ニッポンの製造業を始めとする全産業の永遠の課題であると認識しています。
いずれにせよ、ここまで多くの人がご存知の内容だと思います。では、上記を踏まえて改めてテーマである「ニッポンの製造業、再び輝くためには」についてです。
※1 GAPMINDER https://www.gapminder.org/
※2 日本経済新聞社 「ひと目でわかる世界シェア 市場争奪の構図」
2. ニッポンの製造業、再び輝くためには
①共通目標設定と自己定義
まずは世界の共通の潮流であり、ニッポンの「ソサエティ5.0」においても主要課題であるサステイナブルな社会の実現の中核を担うことだと思います。ただ、一言でサステイナブルな社会と言ってもイメージが湧きません。サービス業に先んじてグローバル化が進んでいる製造業の企業が中心となり、サービス業ほか全産業を巻き込み議論を呼び起こし、政府、企業そして投資家と共に具体的なアクションを通じて形作っていくしか無いと思います。
サステイナビリティとは多様性と生産性を期限なく継続できる能力のことですので、1社が富を独占するのではなく、ステークホルダー全員が富を享受できるシステムの構築を共通の目標とすることです。ただ富の分配では面白くないので、全員が儲かる仕組みをとにかく追求するのです。例えば自動車メーカーであれば、自動車を作って売ることが最終目標ではなく、コンパクトシティにおける道路を含む移動手段全体をデザインすることから参画します。その場合、最終成果物はもはや自動車ではないかもしれませんが、乗り物をインフラごとサービス化して儲けることを考える。建設会社やIT企業、行政と一緒になり、次世代のインフラを作り上げる。投資家は利用者が増えれば増えるほどリターンがある。まずは従来の業態の枠組みから飛び出し、その議論の中心になることが製造業復活のキードライバーになると思います。少し話は逸れますが、ここにおいて現在意見募集がかかっている「アート思考」を活かせないものかと考えています。
いずれにせよ、これは一両日でイメージを可視化しコンセンサスが取れる話ではありません。議論の最中はサステイナブルな社会の定義にバラつきが出るのは仕方がありませんが、各社がその社会像で提供されるべき付加価値に着目して、その付加価値から自分たちのミッションを定義することが次に求められると思います。サステイナブルな社会を構成するであろう自動化・自律化した社会システム、コンパクトシティ、高度な医療、それらを支える各要素技術に注力し、自分たちの強みがどこで活かせるのかのまず自己認識すること。自社と提供価値を再定義し、お金を集め覚悟を持ってリソースを投入する以外に無いのではないでしょうか。
現実的には、外部環境に応じてその社会に具備されるべきものは可変していくと思いますので、パナソニック・津賀社長のインタビューの通り「アップデート型」商品・サービスを、アジャイルで開発し提供することが第一歩だと思います。「モノ」または「コト」がなければ議論も進展しないでしょうから、作って、使って、壊して、調整して、をスピード感を上げて対応していくことだと思います。
そうした社会では、あらゆるものがサブスクリプション型(定額課金)になることが想定されるため、定期的に入ってくるお金の中で、アップデートを続けること、またステークホルダー間での富の分配がある程度可能になると思います。
②ダイバーシティーの促進
サステイナビリティが仮に多様性と生産性を期限なく継続できる能力とするならば、まずは多様性を受け入れることだと思います。上述の通り、異業種とアライアンスを組むこともそうですが、目先では海外の人、社外の人を積極的に登用すること、またバックグラウンドの異なる人を取り込むこと、そして受け入れるに当たっての各種システムを整えることなどです。
多様性で言えば、1国で数100の言語を有するインドなどから学ぶことも多いと思います。中国もまたしかりです。基本的なマインドセットや姿勢として、かつては日本を手本としていた国から、今度は日本が真摯に学ぶことが重要だと思います。実はこれが一番心理的な壁が大きいかもしれません。しかし、事実として私たちはもはや遅れを取ろうとしています。研究者のラム・チャランは著書「Global Tilt」において、今後のイノベーションは北緯31度線より南に集まるとしています。そこには中国の大半やインドが位置しています。
ただ言うは易し。実際は超難題です。しかしもう他に手立てはありません。人材をどんどん海外または異業種に送り出し、学ばせ、経験させ、人脈を作らせて、ダイバーシティーのつなぎ役・ハブを担ってもらう他ありません。これは投資です。ただ、これをまた各社で厳選して一人、二人、大企業でせいぜい数十人というのでは話になりませんので、大胆に、継続的に実施する必要があると思います。その逆もしかりで、海外や異業種の人材をニッポン・製造業に呼び込み一緒に働く機会を醸成することも同様に重要だと思います。実際問題として、アライアンスを組むにしても切った張ったやマウントの取り合いと言った生々しいやりとりはあるはずなので、そこで戦い抜ける組織と個人を作っていかないと何も始まりません。コミュニケーションのプロトコル(共通言語)も合わせていかないといけません。掛け声だけでは世の中は残念ながら動きません。ビジネスは無血のストリートファイトですので、そこで生き残る強い力と知恵が必要です。多様性のある社会を真に理解し、作り出せる骨太なリーダーを早く、たくさん生み出していくことも大変重要だと思います。ここは個人レベルに落とし込んで、自分のこととしてアクションが起こせる部分だと思います。自己反省も込めて、今回ここが一番言いたかったポイントかも知れません。
またバックグラウンドの異なる人たちから学ぶことで、多様性に加えて長年問題視されている生産性についても少しずつ是正できると信じています。
3. まとめ
改めて意見をまとめます。
a) ビジネスチャンス
いずれ大国の中国・インドにも高齢化社会が来る。超高齢化社会を迎える日本が世界に先んじてサステイナブルな社会システムを定義し、構築し、世界に展開するチャンスを有している。
b) 共通目標設定と自己定義
世界における日本のプレゼンスが高いのは依然製造業の寄与が大きい。製造業を中心に、実現したい社会像(サステイナブルな社会にもっと具体的なイメージを持たせたもの)に向けた議論とアクションを呼び起こす。その社会で提供される付加価値に着目して、自社のミッションを定義する。
c) トライ・アンド・エラー
とにかくトライ・アンド・エラー。自社のミッションに沿って、スピード感を持って、作って、使って、壊して、調整してを繰り返す。社会と会社がその仕組みを作り、また許容する。
d) ダイバーシティーの促進
多様性を受け入れる。異なるバックグラウンド(海外、異業種等)との接点をとにかく増やす。今までの価値観に囚われず、多様性の中で素直に学んで活かすことのできるリーダーを増やす。そして、そのリーダーが多様なステークホルダー全員に富が共有される(≒儲かる)仕組み作りをけん引する。
特にこれからの子どもたちが、従来通りの生活水準を維持するには、本当に大胆な変革が必要だと思います。製造業が輝くことが、子どもたちの未来にも繋がると信じて、とにかく今から上記のa)~d)を実践するしかないと思います。これらが実践される過程では正直、製造業やサービス業といった業態の区分けは曖昧になってくると思います。今回、日経新聞の意見照会を通じて、こうして考える機会、また行動する機会を得た人は多いと思いますので、メディアやSNSを通じてこういう議論をどんどん呼び起こせば良いと思います。
以上、読んでいただきありがとうございました。何かのご参考になれば嬉しいです。