はじめまして。
東京の京橋にある出版社、主婦と生活社の「ライフ・ケア編集部」です。noteでの最初の投稿となります。
私たちの編集部は、ミドル・シニア層向けの生活実用雑誌の編集部からスピンオフして新設された編集チーム。ミッションは、今までの雑誌づくりとは異なるアプローチで、超高齢社会に暮らす人たちに役立つ情報を発信していくこと。
この原稿を書いている私は、紙の出版物にこだわり、SNSでの情報発信を真剣にしてこなかった “時代遅れの編集者”です。
ここに至ってようやく試行錯誤し始めるような人間なので、おそらくこの原稿を読まれた多くの方々にしてみれば、「何を今さら……」という印象をお持ちのことかと思います。
なぜ自分は、SNSでの情報発信を、今まで真剣にしてこなかったのだろうか? noteを始めるにあたって、まずはそこから考え、書き始めてみたいと思います。
*実家は地方の小書店。閉店後の「店内読みホーダイ」で育った私
私の育った実家は、両親が個人経営する田舎の小さな書店。高度経済成長期には数人の従業員を雇いそれなりに儲かっていたようですが、近年は高齢になった父母の二人で、規模を縮小させながら細々と商売を続けていました。
小さい頃の私にとって、夜、店が閉まったあとの店内に忍び込み、さまざまな本や雑誌に囲まれ、こっそりと立ち読みをしていた時間は、なにものにも代えがたい幸せな時間でした。
この職業に就いたのも、おそらくはその時間を過ごしてきたことによるものなのだと思います。
本屋という空間で膨大な出版物に囲まれるなか “自分にウインクしてくれる本”を探したり、買った本をすぐに本棚にはしまわずに“積ん読”して味わったり、気に入った本のページを行きつ戻りつ効率など無視して余計なことを考えながら読んだり……。
本と向き合うそのような時間は、私の人生を確実に豊かにしてくれるものであり、生きていくうえで必要なことでした。
本との付き合いは私にとって、しばらく前までは、つねにリアルそのものであり、ネット書店も電子書籍もSNSでの販促情報の拡散も、“本との出会いの豊かさ”を何かしら失っていくことにつながっていく「必要悪のような存在」に思えていました。
*つぶれた書店の息子が、出版人の端くれとして、いま考えていること
現在、書店の数はますます減り続け、出版物の売れ行きも以前に比べると大きく減ってきています。
時代遅れの考えを持っていた私でさえ、今では仕事でもプライベートでも、「ネット空間での出版コンテンツのあり方」などという、味気ないことを考えざるを得なくなりました。
そんななか、コロナ禍が長引き、客足がすっかり途絶えた実家の書店に何度も足を運び、今年(2021年)の夏、60年以上前に両親が始めた実家の書店の店じまいを手伝い、完了するに至りました。
今まで実家の書店商売を支えていただいていた取次さん、地元の顧客の皆さんへ感謝を伝えつつ、不義理をせずに、自分の読書体験の始まった場所を閉じるサポートができたことを、とても幸運に思います。と同時に、私自身が出版人の端くれとして、次のステップに進まなければと強く感じたこの夏の出来事でした。
「ウチのような田舎の小書店は、将来が厳しい! 店は継がなくていい」
父は、昔からそう言い続けていました。
なので、継がずに実家の書店を店じまいしたことに自責の念は起きなかったのですが、関連するこの業界に足を踏み入れている者として、これからの時代に自分は何をすべきなのだろうか……と、今までとは違った角度で考え始めるようになりました。
「書店だった家」で育てられた息子として、今は書店とパートナーである職業に就いている者として………… 懸命に頑張られている全国各地の書店の方々へ声援を送りつつ、今の自分にこれから何ができるのかを、改めて真剣に考えていきたいと思っています。
私たちの心に刺さる「さまざまな物語・考え・知恵・体験・ノウハウ」などが、それを必要とする読者一人ひとりに、しっかりと届けられること。
単なる情報提供ではなく、その「読む」という行為そのものがワクワクするものとなり、濃密な時間が流れる貴重な体験となること。
「読書」が、多くの人の生活のすぐ隣に存在する社会を残すこと。
そのための小さな工夫を、この新設された編集部で、仲間の編集者たちと力を合わせながら、積み重ねていきたいと考えています。
どうぞよろしくお願いいたします。
主婦と生活社ライフ・ケア編集部
新井晋
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