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ライフ・イズ・カラフル!
98歳の今もなお現役で活躍しているファッションデザイナー、ピエール・カルダンのドキュメンタリー。
私はとりわけピエール・カルダンの大ファン!というわけでもなく、映画が始まってからなんかこのロゴ見たことあるかも…というレベルである。しかしながら、映画に登場するカルダンデザインの数々にひとたび魅了されてしまった。
ドキュメンタリー映画というと真面目で堅苦しい印象を抱く人は多いのではないだろうか。ドキュメンタリー映画=泣ける、重いといった偏見が多少なりとも私の中にもあった。特に直近で観たドキュメンタリー映画が『彼らは生きていた』なのも大きい。
だが、『ライフ・イズ・カラフル!』はそんなイメージを覆す。まるでファッション界に革命を起こしたピエール・カルダン本人のように、凝り固まった先入観を突き破ってきた。
まず、ファッションがテーマということもあり映画全体がひとつのファッション誌のようで楽しい。それでいて、ファッション史でもある。
第二次世界大戦を境に世界中の様々なところで変化があった。ファッションも例外ではない。カルダンがいなければ今日の私たちはどんな服を着ていたのだろうと考えてしまうほど、カルダンが与えた影響は大きい。
まず、女性のファッションではオートクチュールを幅広い階層に親しめるようにしたこと。それまでオートクチュールといえば上流階級の女性にしか着られていなかったが、カルダンはファッションは階級にとらわれず楽しむものだと考えて、庶民もおしゃれを楽しめるようにした。
そしてAラインのワンピース。女性のドレスやワンピースはコルセットでウエスト部分を締めつけて着るのが普通だったが、カルダンはより解放的なデザインを試みた。
女性のファッションだけではない。男性のファッションにも大きな革命を起こしている。それまで男性のファッションといえばスーツが基本だったが、普段着としてリラックスできるシャツやパンツをデザインした。さらに自らモデルを務めたりと、それまで蔑視されていた男性モデルの起用を大々的に行うようになったのもカルダンである。
モデルの起用といえば、カルダンは白人モデルの起用をあまり好まなかったらしい。日本人モデルを求めて森英恵の紹介で松本弘子を起用したり、褐色肌のモデルを起用したりした。服は肌の色に左右されるものではないと、カルダンは語る。
男性ファッション誌や褐色肌のモデルたちは、カルダンなくして存在し得なかったのではないかとすら考える。
とにかく仕事が好きだと語るカルダンが印象的だった。仕事は解放であり、バカンスは退屈とまで言っている。そんな彼の仕事への向き合い方として最も印象に残った言葉がある。
「仕事は人を気高くする。
正直に働けば高みに行ける。」
自分が本当に好きなことを仕事にしているからこそ言える言葉だと思う。それ以前に自分の人生に対しても正直であるからこそ、好きなことを素直に発信できるのだとも思う。
ピエール・カルダンのような成功者に誰もがなれるわけではない。だが、自分や周りの人間にいかに正直に向き合うか、自分なりの直感を信じて生きていくかで人生はガラリと変わると思う。
ピエール・カルダンにだって失敗はあった。その判断は間違っていると非難されたこともあった。それでも彼は自分の選択を信じ、突き進むことで成功を得られた。その背景には仕事と自分に常に正直でいるという姿勢があった。
繰り広げられるピエール・カルダンの挑戦と、次から次へと登場するユニークなファッションにワクワクする映画。「いつかピエール・カルダンの服を着る」がいつの間にかいつか叶えたいことのひとつになっていた。