深夜3時のプリンス・オブ・ウェールズ
ふと真夜中に目覚めてしまうことがある。暗がりで枕元のスマートフォンを探し、時間を確認する。光る画面の眩しさに目を瞑る。
細く目を開けて確認するとAM2:47の文字。なんでこんな時間に……と再び寝ようとするのだが、スマートフォンの画面の光を浴びたせいか、ありえない時間に目覚めたことに衝撃を受けたせいか、なかなか眠りに戻れない。
とりあえずトイレにでも行こうと、のそのそと起き上がりベッドを抜け出す。再びベッドに戻る途中、何気なくキッチンで立ち止まった。
紅茶でも飲もうか。
カフェインを摂取したら目が冴えてしまうタイプの人間なので、こんな時間に紅茶なんて飲んだら間違いなく二度寝は不可能だ。でも、なんとなく、このまま寝るのは惜しい気がしたのである。
電気ケトルに水を入れ、スイッチを押す。引き出しを開け、紅茶のパックが入った缶を取り出す。眠気眼でいろいろと出して、どれにしようか考える。アールグレイ、ダージリン、レディーグレイ、フルーツのフレーバーティー、ノンカフェインのハーブティー。イングリッシュブレックファストを手にしたとき、脳内ではテイラー・スウィフトの「22」が流れる。
For breakfast at midnight~と口ずさみながら、選んだのはPrince of Walesだった。パッケージの色味が今の気分だったからだ。それに、「深夜3時のプリンス・オブ・ウェールズ」ってなんかいい響きじゃない。あ、noteにでも書こうかな、なんて思ったのである。
深夜3時(ちょっと過ぎ)のプリンス・オブ・ウェールズはいつもよりあたたかく、身体の芯まで沁みていく。
眠れないときやふと目が覚めてしまったときは無理に眠る必要はない。
あたたかい飲み物を飲んでゆっくりしてみるのもなんだかいいなと思った夜であった。
外は寝静まり、今この世界にいるのは自分だけのような気分で、でも孤独は感じない。月と私とプリンス・オブ・ウェールズだけの世界を、もう少しだけ堪能していたい。
真夜中の世界というのは不思議である。明けない夜はないと人々は歌う。でも、もう少しだけこのままでもいいような、明けない夜があってもいいような、そんな気がした。
夜は必ず明けるものだと思っていると、いつになったら明けるのかと焦れてしまう。明けない夜だってあるかもしれない。悪い夜ばかりではない。俯いていたらただの闇だが、空を見上げれば月や星が瞬く。そうやって視点を変える余裕をもっていたいなあ、なんて漠然と考えながら、残りの紅茶を飲み干し、再び眠ることにした。