光を読む能力の鍛え方
今日は自然光についての話です。
この写真はマンションの一室を改装した、小さなハウススタジオで撮影しました。
さっそく図面をご覧ください。
壁の前にモデルが立ち、窓からは柔らかい光が入ってきています。
モデルの顔にかかる影が強く出るため、窓と反対側にレフ板を置いて和らげます。
しかし今回の場合、
外は大雨のため暗く、窓の幅も狭いため室内に入ってくる光が弱い
光がモデルの真横からも来ている
引きの写真も撮る必要があったため、レフ板をあまりモデルに近づけられない
などの条件が重なり、レフ板を置いてもまだシャドーが強い印象になる光の状態になっていました。
もちろん陰影が強く出ることが悪いわけではありません。それを活かした表現にするのも一つの手です。
ただ今回の撮影では、グレーヘアのモデルさんが持つ柔らかさ/優しさを表現したかったので、陰影が強いとその雰囲気が上手く出ないように思いました。
このような場合、いくつか改善策があります。今日はその中から三つのアイデアをご紹介します。
1:モデルの窓側にもレフ板を置く
真横からの光のみレフ板で遮ることで、相対的に正面寄りの光を強くするという方法です。つまりモデルに対する光の方向性を変えています。(窓にカーテンが付いているのであれば、モデルの真横のカーテンだけ閉める、というのもアリです)
例えば自然光が入らないスタジオで、ストロボなどの機材のみでライティングを組む場合であれば、光の方向性を変えるのは簡単です。もう少し正面寄りの光にしたいなと思ったら、ライトの位置を移動したり、もう一灯正面側にライトを足したりすれば良いだけです。
それは人工的なライティング機材だからこそできる「足し算のライティング」です。
一方このケースは、サイドからの光をカットすることで光の流れを変えるという、言わば「引き算のライティング」のような考え方です。
光は足すだけでなく、引く(遮る)ことでも方向性を変えることができる、と覚えておくと、ハウススタジオで光を調整する上で役に立つことが多いと思います。
デメリット
一方このやり方のデメリットは、単純に光量が落ちる、つまり暗くなってしまうということです。光を遮るので当然です。それでもある程度シャッタースピードを稼げる光量が残っているのであれば良いのですが、前述の通りこの撮影の日は大雨で室内がかなり暗く、三脚を使わないと手ブレしそうだったため、この方法は断念しました。
2:弱く天バンを打つ
前回の記事でも書いた天バン=天井に光をバウンス(反射)させる、という方法です。
これは先ほどの話で言うと「足し算のライティング」で、天井にバウンスした柔らかい光が、モデルのシャドー側をほんのりと明るくし、和らげます。つまり補助光としての天バンです。
デメリット
単純に、天バンを用意したり、光量を調整したりするのが少し面倒ではあります。この日はストックフォトの撮影で、大量のカット数を次々に撮っていく必要があったため、手間をなるべく省きたかったこともあり、この方法は取りませんでした。
また窓から入る光と、天バンの光は、同じ「柔らかい光」と言えど、光質は異なります。
前述の通りこのスタジオはマンションを改装して作っており、天井の高さも一般的な住居と同じく2.4メートル程度でした。
つまりストロボと天井の距離をあまり確保できないこともあり、窓からの光と比べると、天バンはある程度硬さ(光の芯)が残った光になります。
また厳密に言うと、窓からの光と天バンの光で色温度(光の色)も異なります。
一人の人物に対して光質や色温度の異なる光が異なる角度から当たると、条件や程度にもよりますが、不自然さが残って見える場合があります。
3:「カメラ→モデル」の軸と窓面の軸をずらす
「カメラ→モデル」の軸を少し回転させ、窓面の軸に対して平行ではなく少し角度のズレを作りました。こうすることで、モデルにとってはやや正面寄りの光になり、顔にかかるシャドーが少し和らぎます。
つまり「光の角度」ではなく「撮る方向の角度」を変えることで、結果的に光の方向を変える、というシンプルな方法です。「1」のように光量が落ちることはないし、「2」よりもセッティングの時間が短縮できるため、今回はこの方法で撮影しました。
デメリット
窓から離れた方の壁も画角内に入ってくるので、向かって右から左にかけて光の落ち方が強い印象の背景になります。
対策としては、背景にもレフ板を置いて光の落ち込みを軽減させる、もしくは後処理(lightroomのグラデーションツールなど)で背景を明るくするなどです。
最後に
ハウススタジオでの光の方向性が自分が意図するものと違う時、どのように改善するか。様々な対策の仕方があると思いますが、まずはその空間にどこからどのように光が当たっているかを把握することから始まります。
具体的には、まず自分がモデルの立ち位置に立ってみること。そして「この光を引けば(足せば/ずらせば)より良い光になるのでは?」と予測し、実践し、撮影することを繰り返すことで「光を読む能力」が身についていくのではないかと思います。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。