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すべては鏡でできている

アシスタント時代、ブツ(商品)撮りをしている師匠の手伝いをしている最中のこと。レフ板の位置を調整しようとした自分に対して、師匠がボソッと
「すべての物は鏡張りでできていると思いな」
と言ったことがありました。

実際に反射率が高い宝石や時計だけでなく、カバンも服も、そして人間も「すべての表面が鏡で覆われている」という仮想空間が一瞬頭の中に広がり、独立してからもそのイメージがずっと頭の片隅に残っています。


そもそも「レフ板で影を起こす」とは

さて、たとえばハウススタジオで撮影をしていてモデルの顔のシャドーが強くて気になった時、どうするでしょうか?前回の記事のように様々な方法があると思いますが、まずは「レフ板を置いて、影を起こす」ことが基本だと思います。

つまり、「窓(光源)と反対側にレフ板を置くことで光を反射させ、その跳ね返った光がモデルのシャドーをほんのりと明るくする」ということなのですが、今回はこのことを先ほどの鏡のイメージに照らし合わせて考えてみます。

「鏡のモデル」の場合

モデルがすべて鏡でできていると仮定します。

まず「シャドーが強い」ということは、窓と反対側の、室内の暗い部分がモデルの表面に映り込んでいる、ということです。
では今度は、シャドー部分を上げるために、レフ板を置きます。すると今度は白いレフ板の表面がモデルにくっきりと映り込みます。
(もしあなたの表面がすべて鏡でできていたら、この文章を読みながら、手に持っているスマホかPCがあなたの顔に映り込んでいると思います)

鏡よりは当然もっと弱いですが、実際、人間の肌も光を反射します。汗をかくとその反射率は少し上がるし、肌にオイルを塗ればさらに上がります。
つまりこの「すべて鏡でできた仮想空間」はあながち現実離れしたものでなくより弱く、かつ抽象的にはなりますが、実際にモデルの周囲にあるものはモデル自身に映り込んでいるのです。

たとえば草原の上に立てば、「鏡のモデル」には草原自体がきちんと映り込みますが、「現実のモデル」にも草原の緑色が下からほんのりと映り込みます。(これを「色かぶり」と言います)


黒締め

ではこれらを踏まえ、スタジオでモデルの両サイドに黒いレフ板を置いたらどうなるでしょうか?

モデルを鏡だと仮定すればすぐにわかりますね。モデルの肌に黒い色が映り込み、シャドーが引き締まります。結果、存在感が強い印象の写真になります。これを「黒締め」と言い、自分はよくこの手法をスタジオ撮影でおこないます。

https://stock.adobe.com/jp/stock-photo/id/737912401
カメラ:α7iii レンズ:sigma 85mm f1.4 設定:ISO100 85mm f2.0 1/125秒

どこからどのようなライトを当てるのか、と同じくらい、レフ板の置き方は重要だと僕は考えています。ライトのセッティングよりもレフ板のセッティングの方に時間をかけることもあるくらいです。

レフ板は白なのか黒なのか、モデルにどのくらい近づけて置くのか、何枚並べて置くのか、モデルより背景側に置くのとカメラ側に置くのではどう違うのか。など、撮影をする上でレフ板はとても奥が深い道具だと思います。

そういう時に、先ほどの鏡のイメージを頭に浮かべながらセッティングをすると、意図した光の状態を作りやすくなるかと思います。

最後に

アシスタント時代に師匠から言われた「すべての物は鏡張りでできていると思いな」とは、つまり、
人間や物の反射率を鏡のレベルまで擬似的に高めた状態をイメージすることで、モデル(物)に対する光の当たり方に、より敏感になれ
という意味だったのだなと、今となっては思います。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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