クロックスのスティッチ
小学生の時、9歳くらいだろうか、クロックスが大流行した。
脱ぎ履きしやすいデザインにシンプルな可愛さ。日本中のサンダルユーザーは超新星クロックスに飛び付いたのだった。
今でこそ、普通のサンダルと同等の扱いを受けているクロックスだが、当時は裸に履いてももオシャレと言わんばかりに、どんな所にも履いて行ったように思う。なんせ、オシャレにも流行にも疎かった僕がせっかく掴んだビックウェーブ、水戸黄門の印籠のように、本物のクロックスを履いてまわったのだった。
本物、というのも、あまりにクロックスが売れるものだから、形を微妙に変えて値段も抑えた、廉価版のような。通称“クロックスじゃないやつ“も流行した。友達同士が集まれば足元を覗き込んで「ワニおる?」ワニがおったらクロックス、おらんかった違うやつ。日常の挨拶となっていた。
こうなると他人のクロックス(ちゃうやつクロックスも)と自分のクロックスの差別化を図りたくなってくる。そこで登場するのがスティッチである(お待たせしました)
クロックスの穴にはめるストラップなのだが、店舗に行けば、壁一面に整列したストラップ達がひしめき合っていた。
「なんでもええで、一個買ってつけとき」
と母。当時サッカー少年だった僕は、無難にサッカーボールか、飛行機なんかもイケてるのでは? と悩んだが、青色のエイリアン、スティッチに目がいった。
その時スティッチについて知っている情報は、名前、エイリアンであるということ、ハワイアンな女の子と仲良し。程度しか知らなかったが、もちろんに人気があることは知っていた。ピカチュウやクレヨンしんちゃんだったら子供っぽくても、スティッチなら……
流行に疎かった僕は、まだ見ぬ人気キャラクター=オシャレと思い込んだのだった。
「なんや、変わったドラえもんやな」
お母さんそれドラえもんちゃうで、なんて言いながら、ワクワクで胸いっぱいになった思い出。あれから10年そこそこ経ち、愛用のクロックスはベランダのサンダルへと姿を変えスティッチも随分黒ずんだが、雨が降り、ベランダからクロックスを避難させる時なんかによく思い出すのだった。