或る記録.4
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夫が単身赴任になるかも、という話は以前から聞いていた。
それもあって、正式に時期が決まる前に
病院に行こうと話し合ってはいたのだ。
---今が4月、本格的な単身赴任は11月から。
5月からタイミング療法をしたとして、
6回くらいチャンスはある。
しかも単身赴任といっても、
K県だから、車で片道約2時間半。
「帰ってこれない距離じゃないよ」
夫はそう言っていたが、しかし、
それ以降もタイミング療法を続けるのは
正直厳しい気がしていた。
排卵日が平日だったら?
もしその日の夫の仕事が長引いてしまったら?
次の日の仕事が朝早くからだったら?
どんなにあたりをつけても、
正確な排卵日は直前にしか分からない。
そんな直前に、仕事の調整をするのは
きっと難しいだろうし、行ったり来たりの疲労もある。
やはり、単身赴任になる前に。
大丈夫、まだ半年ある。
6回もチャンスがある。
そう自分に言い聞かせた。
--そこからやれそうなことは、とにかく全部試してみた。
基礎体温の計測はもちろんだが、
自分でも排卵検査薬を使ったり、
食生活の改善、睡眠時間の確保、軽い運動、
妊活本を読んだり、
葉酸のサプリを飲んだり、
子宝祈願にさえ行ったりした。
1回目、2回目はダメだった。
でもそんなにすぐは難しいと自分でも分かっている。
それでも、外を歩いている妊婦を見るのが辛くなるようになった。
芸能人の妊娠、出産報告ですら、耳に入れたくなかった。
SNSにあがってくる「出産しました!」の投稿の、
小さな赤ちゃんの手を見ては泣いていた。
--今まで気付かなかったけれど、
自分がSNSになにげなくあげた内容が
どこかの誰かを傷付けているのかもしれない、と
はじめて思った。
そんなときだった。
いつも日数通りにくる生理が、
はじめて予定日を過ぎても来なかったのは。