或る記録.5
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……このまま来ないでほしい。
基礎体温も高いまま。
いつものPMSとはなんだか違う気がする。
下腹部もなんとなくチクチクするかんじ。
今度こそ絶対そうだ、と思った。
そう思うと、なんだか世界まで明るく色づいて見える。
なんだ、私もちゃんと妊娠できるんだ。
やっぱりタイミングの問題だったんだと。
そんな胸が高まる日々を過ごしたのも束の間。
その数日後、少量の出血があった。
「…うそ、いや、これはちがうちがう…」
検索魔になっていた私は、
着床出血のことを知っていたので、
今回の出血は絶対それだ、と自分に言い聞かせた。
まだ基礎体温も高いままだし、
量も多くない。
しかしその後、
無情にも出血は増え、基礎体温は急降下した。
命が、この血と一緒に
流れ出てしまっている気がした。
妊娠の兆候かと思った、
頭痛も胸の張りも下腹部の痛みも、
今はその全てが、忌々してしかたがなかった。
トイレに行くのが、こわい。
月1回、生理予定日前の数日が、
こんなにストレスになるなんて知らなかった。
そんな、誰にも言えない気持ちはモヤモヤと膨らみ、
風船のように張り詰めた日々が続く。
もどかしい、けれど、どうしようもない。
春、夏、秋と季節は過ぎていく。
不妊治療を開始してから半年が経とうとしていた。