托卵とは何なのか
さてこれはたまたま最近、托卵という言葉をSNSであるXで見かけるようになったことから、本稿では托卵というのは実際にどういう現象なのかについて確認をしたのちに、人間の営みの中に托卵に例えられる所業があるということで、それについても解説することにした。本稿は400円で全文読めるが最初の動物界でよくみられるほうの托卵については無料で読める。
1.托卵とは
托卵(Brood parasitism)とは実は寄生(parasitism)の一形態として様々な動物で見られる現象である。基本的に自分の子供(卵)を他の動物に託すことで、他の動物に自分の子孫を育てさせるという行動である。托卵する動物は同じ種または別の種の宿主(仮親)を操作して、仮親は自分の子供であるかのように子供を育ててしまう。鳥類が有名であるが魚類、そして昆虫などでも見られる。しばしば卵が仮親の卵と似ていることも多い(egg mimicity). この戦略は子育てコストから托卵する動物が解放されるという強みがある。
ちなみに鳥類では2011年の時点で234 種、托卵の習性があることがわかっているが、そのうち 3 分の 1 はアヒルである。アヒルの一種であるケワタガモ(Eider Duck)は同種に托卵する。ただし、ゲノム解析などを行って托卵およびそうでない小ガモのDNAを調べたところ、托卵が行われているのは基本的には近親者にあたるカモのところが多かったどうも年老いたメスガモのところに托卵することが多いが、かなり近親らしい。若いメスカモはたくさん卵を産むので、その卵を年老いた近親のメスガモに托卵して育てさせることで、育児コストを全体的に下げるようにして血族の繁栄をさせているのではないかという仮説が出されている。
魚類ではカッコウナマズ(Synodontis multipunctatus)が知られていて、こちらはシクリッド(Ctenochromis horei)という魚に自分の子供を育てさせるという異種に托卵するスタイルをとる。こちらの詳細は下のリンク先を読んでもらえば良いとして、少々気になったのは、シクリッドは卵の見分けが多少はつくけど生まれてしまえば母性本能が働いてカッコウナマズの子も育ててしまうというような記述があり、なかなか興味深いところである。
昆虫においては例えばミヤコカブリダニというダニが、キイカブリダニというダニの卵の近くに産卵し、キイカブリダニの親からついでに天敵から守ってもらうという現象が見つかっている。これは天敵が存在する時のみ起きる托卵ということである。
とにかく托卵というのは動物界では生物学的に色々と意義があったり考えさせられるようなところがある。
動物種の托卵はこのようにして見てきたので、次に、あくまで比喩表現と言うべきかもしれないが、人間の世界で起こりうる托卵のような現象についてこれから述べていきたい。
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