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ダンプリング

本稿は無料で読むことができる(最後に投げ銭200円の欄は用意しておく)。カバーの写真でどういう料理の総称なのかは察しがつくように思える。ダンプリングとは小麦粉を練って茹でて、肉・野菜・果物・チーズなどを入れた食べ物のことを指す。餃子、ラビオリ、大福、肉まん、小籠包など該当するので分かりやすいと思う。本稿では軽くダンプリングの歴史に触れた後、各国のダンプリングを紹介することにする。

1. ダンプリングの歴史

ダンプリングはどこから始まったのであろうか。ちなみに小麦の歴史については別の無料noteである、麺の歴史①に記述しているので気になる読者は読んでみるのがいいと思う。

本稿に関係があるところだけ抜粋すると、小麦の原産地が東地中海沿岸付近(イラクあたり)で、メソポタミア(紀元前9000年~7000年頃)で栽培がはじまり、紀元前126年に中国に伝わったとされる。ちなみに二世紀ごろには麺についての書物も出てくるのであるが、その頃に中国の医官である張機(ちょうき、または張仲景、Zhang Zhongjing)が最初のdumpling (まあ最初の餃子でもある)を作ったと言われており、西洋でもそのように信じられているようである(ちなみに本稿ではあまり触れないが、最新の研究によると中国大陸の春秋時代の紀元前6世紀頃に現在の山東省で誕生したとされている)。

張機(張仲景)は医師として『傷寒雑病論』を著し、それは後々まで漢方医学の最も重要な文献となったという。

張仲景はどのような餃子を作ったのだろうか。伝説によれば、厳しい冬の際には多くの人が寒さによる体調不良を経験していた。そこで人々の体を温めるために、張仲景は羊肉、ハーブ、唐辛子を生地で包み、蒸して全体をつなぎあわせた上で、暖かさを保たせるようにした。これらの湯気が立つ枕のような菓子(pillow-like treats)は、結果として人々が寒さを乗り越えるのに役立ったのであった。また張仲景がこの最初の温かい菓子の中に入れたハーブは血液循環を改善し、凍傷を防ぐ効果も発揮した。まさしくこの枕状の温かい菓子が最初のダンプリング、餃子ということである。
 イタリアのラビオリ(後述)は、伝統的な中国の餃子から派生したダンプリングと考えられている。ちなみに西洋のダンプリングについては4世紀ごろにローマの料理書であるアピキウスに登場しており、読む限りは現在の感覚であっても美味しそうに記述されている。1つは、キジをあぶり焼き(roast)し、細かく刻み、脂肪、塩、コショウと混ぜ、スープで湿らせ、味付けした水で茹でたものになる。このような単純な西洋水餃子もしくは茹でダンプリング(Boiled dumplings)は、今でもヨーロッパ各地で人気がある。ダンプリング(dumpling)という言葉が出てきたの自体は17世紀自体の英文書からであるが、由来はドイツ語ということである。

大元の由来が中国であったとして、現在ではdumplingは世界中でそれぞれ作られている。

ダンプリングマップであるが、これもまた一部である。

以下のページは世界中のダンプリングについての情報が書かれており、日本の店についての情報もある。興味がある読者は見て見ても良いだろう。

https://www.tasteatlas.com/dumplings?fbclid=IwAR1-2c4rxkO5F3a2ThalgnRZMWn1_9hBV7IbcjTG3Q0Kswx2VERn6BYtlbQ

さて次章から主要な東西各国のダンプリングを紹介していくことになる。

2. 中国

2-1 Jiaozi
まずダンプリング起源の中国から紹介をしていく。ちなみに上の張仲景の作った食べ物はjiǎozi (餃子)とよばれている。普通話での発音はジャオズであるが、まあ要はチャオズなので、中高年以降の読者であればリンク先のキャラクターを誰でも想像するのであるが、まさしくそういう名前である。

また張仲景の餃子は水餃子(水餃、shuǐjiǎo)のカテゴリに収まるものである。中国では基本的には水餃子がよく食べられており、いわゆる我々日本人がよく食べている焼き餃子よりも一般的である。また主食として扱われており、おかずではない。

主食としての水餃子
中国の華北の餃子は主食として一度にたくさん食べられ、水餃子(水餃、shuǐjiǎo)が主流。この水餃子は、皮は厚目にしてお湯で茹で、湯面に浮いてきたものをザルに上げ、湯切りをして食べる。日本的な表現をするならば「茹で餃子」である。形状も日本の餃子が長細く楕円に近いのに比べ、丸みを帯びて正円に近い。日本では水餃子はスープ餃子(湯餃、tāngjiǎo)を指すが、中国では水餃子と言えば茹で餃子のことを指す。餃子の中身に冷まして固体にした牛脂を入れる場合がある。これが熱でとろけて何ともジューシーであるが、皮が厚いので牛脂は漏れ出しにくい。

Wikipedia 「餃子」
shuǐjiǎo
https://cdn.tasteatlas.com/Images/Dishes/d454feac19d14319bac5f3021fe52252.jpg

以下に水餃子の作り方などの動画のサイトがある。ただ動画サイトのリンク先は中国のサイトになるので、気を付ける必要がある立場の読者の場合は慎重に対応しても良いだろう。その下は東京における水餃子を楽しめる店を紹介したリンクになる。

ちなみに中国の焼き餃子は、例えばguōtiē( 锅贴)というものがある(下図)が、台湾などでも食べられている。他にもjiānjiǎo(煎餃)と呼ばれて、中国の上海・江蘇省・浙江省を主に朝御飯や軽食の感覚で食べられている。小ぶりで日本の餃子のように皮が薄い焼き餃子は屋台などで売られているということである。豚の挽肉のジューシーさを感じる焼き餃子になる。

GuōTiē 锅贴 (Chinese pan-fried dumplings)

https://img-9gag-fun.9cache.com/photo/ayM6KVy_460s.jpg

蒸し餃子(点心)、揚げ餃子も中国人により食べられているが、華東や華南では点心の一種として、蒸し餃子が良く見かけられる。点心は小麦粉主体の皮で肉、野菜、魚介類の餡を包んだものである。ちなみに日本の餃子(日式餃子)については後述する。

2-2 bāozi
bāozi(パオズ、包子)は中国の点心の一種になる。小麦粉の生地を蒸して作る伝統的食品で、通常、中に具を包んでいるものを「包子」という、中に具のないものを「饅頭(マントウ)」と称する。

通常は生地は小麦粉に水を加えてこね、発酵済みの生地、または酵母を加えて寝かし、発酵させて作る。生地で中に入れる具や餡を包み、通常は半球形に成形し、蒸籠で蒸して作る。大きさは中身の大きさにもよる。

Wikipedia 「包子」

包子としては小籠包(xiǎolóngbāo)が有名である。伝統的に小さな竹製の蒸し籠(中華せいろ)で調理される小さな中華まんである。清の道光帝の時代(1820年~1850年)に江蘇省常州市の万華茶館によって誕生した。小籠包は伝統的に豚肉が詰められているが、現代にアレンジもなされており、他の肉、魚介類、エビ、カニ肉、野菜系の詰め物が入ったバージョンもある。

小籠包
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d2/Xiao_Long_Bao_by_Junhao%21.jpg

ちなみに生煎饅頭 (生煎馒头, shēngjiān mántou)とよばれる包子もある。こちらは、何かというと、日本人から見ると焼き小籠包である。実際には上の名前なのだが、日本では焼小籠包という名前でブランディングというか売られている。

生煎饅頭(日本では焼き小籠包)
https://prtimes.jp/i/27446/2/resize/d27446-2-181788-20.jpg

さて中国のダンプリング・包子は本当に無数にあるので、最後の一つとして、湯包(tāngbāo)を紹介しておく。湯包は皮の中に餡と共にスープが入っている食べ物で一口サイズの肉まんみたいなものである。小籠包と比較的似ているが、小籠包は「小さな蒸し籠(小籠)で蒸した」の意であり、湯包は「皮の中に湯(スープ)を含んだ」の意になる。

湯包(tāngbāo)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/2f/%E5%BC%80%E5%B0%81%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%A5%BC%E5%B0%8F%E7%AC%BC%E5%8C%85.JPG/800px-%E5%BC%80%E5%B0%81%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%A5%BC%E5%B0%8F%E7%AC%BC%E5%8C%85.JPG

3. 日本

3-1 gyoza
日本で最も有名なダンプリングとなると、一つには言うまでもなくgyoza (餃子、ぎょうざ)となる。日本人で最初に餃子を食べたのは徳川光圀とも言われていたりするが、その時の餃子はとても平民にはまだ遠かったと言われている。それが太平洋戦争後に満州国などからの引き上げ者たちが焼き餃子を食べるようになっていったという話である。日本の餃子は薄目の皮を使い、豚挽肉、キャベツ、ニンニク、ニラを入れることが多い。ちなみに元である中国東北部(満洲)では羊肉が主であり、日本に餃子が伝わった当時も満洲の製法どおり羊肉を使用していた。豚肉がメインで使用されるようになってからも餃子と相性の良いニンニクが好まれたため今日も多く使用されるに至っている。

英文ガイドの方に浜松餃子などの紹介なども書かれている。ちなみに私が好きな焼き餃子はこちらであり、我が家ではこちらを食べている。

3-2 中華まん
中華まんは名前の通り元々は中国で発明された包子からであるが、起源は中国の三国時代(220年頃)、蜀漢の宰相である諸葛孔明が作らせたことが始まりといわれている。形態は包子でありながら、名前は饅頭(マントゥ)から来ているという話である。小麦粉・水・砂糖・酵母・ベーキングパウダーなどをこねて発酵させて作った柔らかい皮で様々な具(豚肉など)を包み、蒸した食べ物である。日本で有名な中華まんとしては以下の豚まんが知られている。

今は色々なアレンジ(ピザまん、カスタードまんなど)がなされている。

セブンイレブンのピザまん
https://www.eatsmart.jp/image/food/02/39/01/1319527.jpg


3-3 大福
大福というのは薄い餅の中に餡子などが入っている菓子になるわけであるが、これも定義的にはdumplingである。歴史的には 「宝暦現来集」(1831年)にによれば、1771年に江戸の小石川に住むおたまという女性が砂糖餡入りの「おた福餅」を作り、これが現在見られる甘い大福の初期の形になったと言われている。現在ではイチゴ大福など、色々なバリエーションが知られている。

果物が入った大福
https://www.cial.co.jp/yokohama/img_thumb.php?f=files/store/3_1.jpg&x=500&y=500



4. 東南アジア

東南アジアにいても中国由来でも独自に発達したダンプリングがあり、簡単に紹介したい。

4-1 Thung thong  (タイ)
トゥントン(Thung thong) は、ヒシ、ネギ、マッシュルーム、豚ひき肉または鶏ひき肉が入ったカリカリのタイ風餃子として人気である。餡に使用する材料を、まず醤油、オイスターソース、魚醤、砂糖で炒める。そしてさらに別に、ニンニク、コショウの実、コリアンダーの根または茎で作られた香り豊かなペーストを使用する。この餃子はきつね色になるまで揚げた上で、スイートチリソースを添えて食べるのがおすすめとある。

Thung thong (タイ風餃子)


4-2 Bánh bột lọc(ベトナム)
バイン・ボッ・ロック(Bánh bột lọc)はベトナムのダンプリングである。小さくて見た目が良く、歯ごたえのあるタピオカ餃子であり、ベトナムでは前菜や軽食として食べられている。このダンプリングは通常、エビと豚バラ肉で満たされ、しばしば揚げエシャロットがトッピングされている。そして甘いチリフィッシュソースが添えられることで味付けが完成している。


Bánh bột lọc (ベトナムのタピオカ餃子)
https://cdn.tasteatlas.com//images/dishes/8ac65dd5099643c1b6b654c779ffa37d.jpg?w=905&h=510

4-3 Chai Kueh (マレーシア)
チャイクエ(Chai Kueh)は野菜蒸し餃子であり、マレーシアのダンプリングである。元々が中国由来の軽食的な食べ物で、前菜や軽食として楽しまれている。華僑の潮州族と客家の人々、特に年配の世代に人気がある。 柔らかく噛み応えのある皮と少し歯ごたえのある野菜がダンプリングに入って仕上がり、醤油、チリソース、酢で作ったディップソースを添えて食べると楽しめる。

Chai Kueh (野菜蒸し餃子)
https://www.ajinomoto.com.my/sites/default/files/content/recipe/image/2022-07/chai-kway-3.jpg


5. ヨーロッパ

ヨーロッパにおいてダンプリングは大変な発達を見せている。本稿でもいくつか紹介していきたい。

5-1 Ravioli (イタリア)
ラビオリ(Ravioli)は本稿の最初の方でも言及したが、祖先は中国の餃子にあるとされるイタリアのダンプリングである。ラビオリという言葉は、2 つの薄い生地の層の間に詰め物を挟んで作られるさまざまな種類のダンプリングを指す。作るために使用される麺・パスタは通常、小麦粉と卵をベースにしており、ラビオリを調理したり提供したりするソースやスープと結合しながら、囲いとして機能する。ラビオリは通常、ソースと一緒に煮て提供されるか、伝統的な冬の料理として煮てスープで提供される。ラビオリの具材にはさまざまな種類の肉、チーズ、野菜が含まれており、地域によって異なる。揚げた甘いラビオリも存在している。

Ravioli
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5-2 Pierogi (ポーランド)
ピエロギとは、詰め物をしたダンプリングを意味するポーランド語のpierógに由来している。かつては農民料理であったが、今ではポーランドの人気料理の 1 つへと進化した。各家庭には独自のバージョンのピエロギの詰め物があり、バリエーションは無数である。ピエロギには甘いもの、スパイシーなものなど色々とあり、最も一般的な具材にはチーズ、玉ねぎ、ひき肉、マッシュルーム、ジャガイモ、ザワークラウトなどが含まれる。甘いバージョンには、イチゴやブルーベリーなどのさまざまなベリーが含まれるのが一般的である。ピエロギという 言葉が初めて印刷物に登場したのは 17 世紀後半になってからである。

Pierogi
https://www.tasteatlas.com/pierogi


5-3 Palt (スウェーデン)
パルト (Palt)という名前は、すりおろした生のジャガイモとさまざまな具材で作られた、スウェーデンで人気のさまざまな種類のダンプリングを指す。これらは通常スウェーデン北部と関連付けられており、伝統的な特産品であるピーテオ市にちなんでピテパルト (pitepalt)と一般に呼ばれている。生地にはライ麦、大麦、小麦粉が含まれることが多く、最も一般的な詰め物はソテーした玉ねぎと揚げたベーコンの混合物になる。スウェーデンには村の数と同じ数のパルトの品種があると言われている。Paltが食べられるレストランは日本では見つけることがすぐにはできなかった。

Palt (スウェーデン)
https://cdn.tasteatlas.com//images/dishes/2a91c4f8e4ab4adaa29198ea81a786d8.jpg?w=905&h=510

5-4. Khinkali (ジョージア)
ヒンカリ(Khinkali)として知られるこれらのジョージアのダンプリングは、この国の国民料理の 1 つとみなされている。ダンプリングには肉とスパイスが詰められ、伝統的に上部でねじって結び目が作られる。地域差が具材に影響を与え、ジョージア州のどの地域にも独特の多様性があるヒンカリが作られている。。たとえば、山岳地帯では、最も伝統的な詰め物は子羊肉で知られる。ジョージア全体で最もよく使われるのは豚肉と牛肉の混合物となる。伝統的なイメレティアチーズやキノコを使ったベジタリアンバージョンも人気がある。形態は中国の点心のようではある。ジョージアの小籠包とも言われることがあるようである。

Khinkali (ジョージア)
https://cdn.tasteatlas.com//Images/Dishes/d9ae0ef06bc54f7cb4e6b5b928bc6f41.jpg?w=905&h=510


5-5 Pelmeni (ロシア)
ペルメニ(Pelmeni, пельмени)はロシアの国民的料理の 1 つで、繊細な薄い生地にひき肉や魚、キノコまで何でも入った小さなダンプリングである。さまざまなフレッシュハーブ、黒コショウ、玉ねぎなどの調味料の量に応じて、具材はマイルドにも非常にスパイシーにも作ることができる。ペリメニは、ほぼすべてのロシアのレストランで提供されているだけでなく、各家庭が独自のレシピを持っており、多くのロシアの家庭でも提供されている。

Pelmeni (ロシア)
https://cdn.tasteatlas.com//Images/Dishes/6e68f2f09cc84017959214917a02b574.jpg?w=905&h=510

6. 終わりに

実際には朝鮮半島、中央アジア、南米そのほかでまだまだ様々なダンプリングが存在しているのだが、挙げ切れないので今回はここまでの紹介としておきたい。大元は中国の餃子だったとして、世界中で大いに進化して、そしてどれをみてもとても美味しそうに私には見える。ちなみにダンプリングとされるものは私はdoughの中になにかしら詰め物がはいることが重要であると考えており、いわゆるfilled dumplingしか今回は掲載していない。つまりunfilled dumplingというのもあり、団子、饅頭(マントゥ)やニョッキ(これはショートパスタの方に分類した→無料noteの麺の歴史②参照)などがあるが採用はしなかった。ちなみに本稿で紹介したダンプリングはなるべく、食べられる場所をリンク先として探したかったが、東南アジアとスウェーデンのPaltは見つけられなくて残念ではあった。読者諸氏も本稿を見て、色々調べて大いにダンプリングを食べるのを楽しんでほしい次第である。人々には色々な信念や考え方の違い、立場の違いもあったりするものであるが、美味しいものが美味しいと思う感情はそれなりに共有できるところもあり、食べ物の記事と言うのも価値があるのではないかと考えている。本稿はここまでであり、投げ銭(200円)の御礼は以下の欄に用意してある。

追記:読者様の指摘でいくつか加筆修正しました。2024/3/14 0:30

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