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クリスマスとはそもそも何か

本稿は無料で読むことができる。12/24-25はクリスマスイブだとか、クリスマスだとかいうのだが、クリスマスってそもそも何なのか。少なくとも80年代生まれの私が物心ついた時にはクリスマスを祝うというのはあった。しかし日本文化にクリスマスがあるというのもおかしな話である。また海外はどうなっているのであろうか。本稿を書き始めたのが12/22の夜遅くであり、果たして12/24までに公開できるか心配であったが、なんとか間に合わせることができた。


1. クリスマスとはどういう意味か

クリスマスとは英語でChristmasと言うのであるが、これはイエス・キリスト(Jesus Christ)のミサ(Mass)に由来し、キリスト降誕祭や聖誕祭とも訳されている。フランス語ではノエル(Noël)ともいう。キリストの降誕(nativity)を記念する年中行事であり、主に12月25日に世界中の何十億人もの人々の間で宗教的・文化的に祝われるものとされている。ミサというのはパンとぶどう酒を聖別して聖体の秘跡が行われる典礼である。そんな説明をしてもキリスト教徒でなければとても分かりにくい話であり、下に日本におけるキリスト教会のミサの動画をリンクしており、多少見ていただければと思う。またnativityという単語はとても特殊でキリスト以外でしか基本的には用いられないとされる。

なぜ12月25日に祝うのか。別のその日がキリストの生まれた日だともいうわけでもない。キリストの降誕日はよくわかっていない。紀元前4-6年あたりに生まれたと推定されているが、その実際の日は不明である。ただし紀元325年のニカイヤ公会議にてキリストを祝う日について議論があり、ローマ歴の冬至の日である12月25日が見いだされ、その日に祝うことで定着していった。そして西方教会に含まれるカトリック教会や聖公会、プロテスタントなどでは、毎年グレゴリオ暦の12月25日に祝われるようになっている。一方で、東方教会のうちユリウス暦を教会暦として使用する教会では、グレゴリオ暦の1月7日に祝われる。これはユリウス暦の12月25日がグレゴリオ暦の1月7日に当たるからということである。
 ちなみにクリスマスの英語の略語としてXmas, X-masというのがある。キリスト(Christ)の語源はギリシャ語のΧριστόςであり、そのギリシャ語のΧが元の略語であるが、これがラテン語のXと一緒でそのまま使われている。ちなみにX'masというアポストロフィーを使った言い方もあるが、これを和製英語と誤解している人たちも日本にはいるが、それは誤りである。X'masは普通に英語圏で使われている(19世紀の書物にもある)。
 ちなみにクリスマスツリーは定番であるが、もともとはキリスト教とは関係のないもので、ゲルマン人が冬至の祝いで用いてた樫の木が由来の一つだという。樹木信仰の強かった彼らを改宗させる際に三位一体を現しているとしてもみの木が使われたといわれる。もみの木のクリスマスツリーがクリスマスに飾られたのは1400年代が最初であるとされ、実際にはかなり後から使用されるようになったものである。

19世紀に描かれたルター(16世紀)とクリスマスツリー
https://images.theconversation.com/files/500306/original/file-20221212-94462-k8glwk.jpeg?ixlib=rb-1.1.0&q=45&auto=format&w=754&fit=clip

さてクリスマスについての簡単な経緯はこんなところであり、次の章は各国のクリスマスを短く紹介していきたいと思う。

 

2. 各国のクリスマス

基本的に読者諸氏は大方は日本にいるだろうから各国のクリスマスについてはその概要を紹介するにとどめる。

2-1 欧米の場合
欧米圏の場合、割とよく知られていることではあるが、クリスマスというのは基本的には帰省するなどして家族と過ごす。基本的に欧米の宗教はキリスト教であることもあり、クリスマスは休日であったりすることがある。カトリック教会の影響の強いイタリア、フランス、スペインなどでは、クリスマス・イヴ(12月24日の晩)に始まり、1月6日の公現祭(エピファニア)に終わるということで割と長く続くイベントである。イギリスやイギリス連邦においても1月6日までクリスマス期間とされたりするという。

クリスマスを休日とする国々(日本や中国などは休日ではない)。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/35/Countries_that_recognize_Christmas_as_a_Public_Holiday.svg/1920px-Countries_that_recognize_Christmas_as_a_Public_Holiday.svg.png

ちなみにサンタクロース(Santa Claus)というのは我々日本人でも知らない人がいないキャラクターであるが、もともとはキリスト教における聖人である3世紀後半から4世紀前半の司教である聖二コラオス(Νικόλαος, ラテン語ではニコラウス (Nicolaus)、英語ではニコラス (Nicholas))からきているという説がある。

「ある時ニコラウスは、貧しさのあまり三人の娘を身売りしなければならなくなる家族の存在を知った。ニコラウスは真夜中にその家を訪れ、窓から金貨を投げ入れた。このとき暖炉には靴下が下げられていており、金貨はその靴下の中に入ったという。この金貨のおかげで家族は娘の身売りを避けられた」という逸話が残されている。この逸話が由来となり、「夜中に家に入って、靴下の中にプレゼントを入れる」という、今日におけるサンタクロースの伝承が生まれている。

Wikipedia 「サンタクロース」


The dowry for the three virgins (Gentile da Fabriano, c. 1425, Pinacoteca Vaticana, Rome).
3人の乙女(売春婦に売られそうな貧しい男の3人娘)のために聖二コラオスが持参金を投げ入れている絵になる。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/Gentile_da_Fabriano_063.jpg/1024px-Gentile_da_Fabriano_063.jpg

欧米では七面鳥を食べることも知られているが、それは以下の経緯があったかららしい:

もともと欧米では、牛肉や豚肉を使った料理やおいしい洋菓子がメインで楽しまれており、鶏を食べる場合も七面鳥ではなくガチョウでした。

実はクリスマスに七面鳥を食べているのは宗教的な習慣ではないのです。

ではなぜ七面鳥が食べられるようになったのでしょうか?

七面鳥が食べられるようになったのは17世紀までさかのぼります。当時、イギリスの移民たちがアメリカに移住したばかりの頃。イギリスから持ってきた作物がうまく育たず、食事がまともにできなかったそうです。これを見かけた先住のインディアンたちが七面鳥をはじめとする食べ物を分け与えたことで、飢えをしのぐことができました。

翌年、そのお礼としてインディアンたちに感謝するためお祭りを行いました。その中に七面鳥の料理が入っていたので七面鳥料理はお祝いの日の定番料理となったようです。

感謝祭が開催されるのは毎年11月の第4木曜日と決まっているため、本来はクリスマスではありません。ですが、感謝やお祝いの気持ちを込めて七面鳥を食べることが広く認識されることで、クリスマスなどのイベントの日にも七面鳥料理を食卓に並べることが増えたと言われています。

https://delishkitchen.tv/articles/1997

欧米のクリスマス事情について長く書きすぎても読み切れなくなるので、ほかの地方の話を以下に短く紹介していこうと思う。

2-2 オーストラリアなど南半球の場合
オーストラリアのクリスマスでは、ビーチや公園でのバーベキューが一般的であり、真夏の気候を活かし、多くの人々がアウトドアで過ごし、シーフードや肉類を焼いて楽しむスタイルが特徴だという。以下のリンク先は、オーストラリアにおけるクリスマスイベントになるが、出てくる写真の人たちが半袖であることがまさしく我々北半球と違う。

基本的にはキリスト教国の場合は、暑いことを除けばそう欧米と大きく異なる感じではなく、家族で過ごすということは原則らしい。以下はアルゼンチンのケースになる。


2-3 ロシアの場合
現在、ウクライナと戦争しており十分に不穏な状況である該当国であるが、あくまで戦争前のクリスマスはどうだったかというと、ロシアは正教圏に属しているために、降誕祭は1月7日(ユリウス暦での12月25日)である。サンタクロースも存在しているが、ジェド・マロース(Дед Мороз)と言われ、吹雪のおじいさんという意味になるらしい。

ロシア版のサンタクロース(吹雪のおじいさん)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/59/Ded_Moroz.jpg/800px-Ded_Moroz.jpg


2-4 中国のクリスマス

中国の場合、そもそもキリスト教国ではないのでもちろん特別な日でも休日でもないのであるが、若者たちはクリスマスを商業的な観点で楽しんでいるということである。しかし政府当局はあまりよく持っておらず、規制を試みることもあるらしい(以下は2023年の記事になる)。ちなみにロシアも旧ソビエト時代は政府はあまりよく思わなかったそうである。


2-5 イスラム諸国のクリスマス

イスラム諸国といっても国によってまったく体制も異なるためにさまざまである。アラブ首長国連邦の場合は、普通にクリスマスマーケットなどがあり、楽しくイベントが行われているようである。

国や地域によっては固く禁じているところもあれば、イスラム教は偶像崇拝を禁止しているのでそのあたりを配慮して楽しむことは許容されている場合もある。以下にイスラム圏でのクリスマスの体験談の記事がある。


基本的にキリスト教圏では家族で過ごすのがクリスマスで一般的であり、キリスト教圏ではないところでは、宗教的というより商業的な色が強く見えなり、場合によってはその国での宗教的な観点から許容されるにしても一定の抑制があったりすることはありえる。全面的に禁止の国ももちろん今回は紹介していないがあるだろう(アフガニスタンなどは現時点では明らかである)。さていよいよ、日本におけるクリスマスの話にようやく入ることになる。本稿の本題でもある。

3.日本のクリスマス

本稿の緒言でも書いたが、日本はそもそもキリスト教国家ではないのだが、クリスマスはとても一般的である。一体どのような経緯で日本にクリスマスが入ってきたのかについて説明していく。

3-1 クリスマスの来日
クリスマスは最初に述べたようにキリストのミサであるので、要は日本で最初にミサが行われたのはいつなのかということになるわけであるが、1552年に今の山口県の戦国大名であった大内義隆がフランシスコ・サビエルなど宣教師たちを受け入れたことにより、日本人信徒を招いてキリストの降誕祭のミサを行ったのが最初ということである。そのため12月には山口市では関連するイベントが行われているということである。


3-2 クリスマスの定着

読者諸氏の多くも周知のように、キリスト教自体は江戸幕府が始まった以降はほどなく禁止されたために、隠れキリシタンを除くと200年以上にわたりクリスマスが表立って祝われることは基本的にはなかった。ただ長崎の出島においてはオランダ人たちが、オランダ正月としてオランダ冬至を祝うという方便で事実上、クリスマスの降誕祭はなされていたようである。
 その後、鎖国が終わり開国がなされ、さらには明治維新がはじまり1900年にはクリスマス商戦が始まってきたという。1914年の児童向け雑誌にはすでにサンタクロースが登場している(ちなみにこの年は第一次世界大戦がはじまった年でもある)。

『子供之友』1914年12月号挿絵
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/67/1914_Santa_Claus.jpg

そして大きな転機として、1926年に大正天皇が崩御し、昭和天皇の時代になったのであるが、大正天皇の亡くなった日が12月25日であり、その日が休日になったのである。日本でクリスマスの習慣が広く普及したのは12月25日が休日となっていたこの時代からとされている。1928年(昭和3年)には「クリスマスは今や日本の年中行事となり、サンタクロースは立派に日本の子供のものに」と新聞に書かれるまでに普及していたという。
 そして1930年代からクリスマスは恋人のいる人にとっては着飾って一緒に過ごしたり、プレゼントを贈ったりする日となっていったのである。1931年(昭和6年)には、パートナーのいない不幸な青年たち、独身者たちのためにレストランが「1円均一」のクリスマスディナーを売り出すなどして歓迎したとも報じられた(当時の1円は今の価値で2500円程度と見積もられる)。恋人とのクリスマスは家族で過ごす欧米とは異なる日本特有的であるが、戦前からそうなっていたというのがこの国の面白いところではある。
 そして太平洋戦争がはじまり1945年の日本の敗北に終わったわけであるが、いよいよクリスマスは年中行事として定着し、行事も盛大に行われるようになっていったのであった。
 現在ではショッピングセンターなどで、早いところでは11月上旬からクリスマスツリーが飾られ、クリスマスセールが行われ始める。店内にはクリスマスソングが流れ、洋菓子店ではクリスマスケーキが販売されるようになり、街中ではイルミネーションなども飾られる。

東京駅前の丸の内仲通りのイルミネーション
https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783489/rc/2023/12/13/fb260b29191148cc4b9e60415d53c4b6dbea0dfd_xlarge.jpg

ちなみに七面鳥が日本ではあまり手に入りにくいのでローストチキンで代替されることもある。ただ12月26日を過ぎるとすぐに大晦日や正月のほうが意識されるようになる。そんなわけで、クリスマスは日本の場合はそこまで期間として長いわけでもなく、国外においてはクリスマスの騒ぎを避けるに良い国として日本がかなり上位にあがるということもあるようである。

4. 終わりに

本稿はちょうどクリスマスが到来するので、クリスマスの基本的なことを確認しようとも思って書いたのであるが、読者諸氏にはいかがだったであろうか。なるべく短くまとめたいという気持ちもあり、今の時点で5000字を超えてしまっているのだが、このあたりでまとめに入りたいとも思っているところである。
 日本は大半の人々はキリスト教徒ではないこともあり、クリスマスに対して宗教的な思い入れがある人はほとんどいない(そもそも宗教教育を受けていないので、そういう思い入れを得る機会も乏しいといえる)。そういう場合、上で紹介した中国やドバイと同じうようになるところがあり、要は商業的なイベントという扱いでとらえられるという。だから私が少し驚いたのは、その気持ちを上にも書いているが、恋人たちのクリスマスというのは最近の話ではなく90年くらい前の戦前の日本でもそうだったという事実である。実際にはクリスマスは、恋人と過ごす者もいれば、友達と過ごす者、家族と過ごす者、本当に多様なのであり、別に恋人に一緒に過ごさなければならない必要は全くない。私は長くクリスマスは実家に帰省して親や弟たちと過ごすようにしていた。結婚してからは新しく作った家族と過ごすようにしている。
  最近は欧米などではいろいろな多様性の配慮を考えることも増えたようで、"Happy Holidays"と言ったり、クリスマスツリーを"Holiday tree”と呼ぶなど宗教色が出てこないように気を付けた表現をすることも増えているのだが、日本の場合、そもそもキリスト教徒でもないのに楽しんでいるような感じであり、キリストを意識している人も少ないように見え、あまり深く考えなければならない状況にはまだなっていないように思える。
 さあ皆さんはどんなクリスマスを過ごすだろうか。このようなところで本稿は終わりしようと思う。Merry Christmas.

クリスマスは体重の増加には気をつけなければならないなとしみじみ思う。


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