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フランス大学院修士課程雑記①入学1ヵ月目

大学院に入学して、はや1ヵ月が過ぎた。あっという間に過ぎてしまったこのひと月で考えたこと・感じたことを認めておこうと思う。


前提条件

・かつて13個あったパリ大学のうちのひとつの修士課程に正規留学中。
・学部時代との取得学士とは異なる課程。
・入学前にDALF C1取得済み。
・学部時代、パリの他大学に1年間交換留学経験あり。
・2023年6月から夫の駐在帯同で2度目のパリ生活。

①日本人正規留学生が思いのほか少ない

私の大学は数あるパリ大学の中でも比較的大規模な方で、留学生の受け入れ率もそれなりに高い。
新学期にキャンパスを歩けば英語も聞こえるし、国際交流サークルが新歓イベントを開いている。

しかし、この広大なキャンパスで、私はいまだ自分以外の日本人正規留学生に出くわした試しがない。
※同大学の別キャンパスに一名だけ日本人の正規留学生がいるのは把握しているが、彼もまたキャンパス内で自分以外の日本人留学生に出会ったことがないそうだ。
また日本からの交換留学生の受け入れは盛んで、複数の方をお見掛けしている。

統計やデータに基づいたわけではないので個人の感想ではあるが、要因としては

  • まずもって、とにかくフランス語の語学的ハードルが高い(英語ではなくフランス語で留学していると言うと結構な割合で驚かれる)。

  • 社会人を経てパリに留学する場合、優秀なビジネススクールがあるのでそちらのMBAに流れるのではないか(HEC、ESSECなど)。

  • 官僚のように勤務先のプログラムで留学される方の場合、大学ではなくグランゼコールを選ぶ方が多いのではないか。

  • (一般的な要素として)そもそも円のレートが悪く、留学の金銭的負担が昔より大きくなっている。

……などがあるのではないかと思うが、特に中国の留学生は多数見かけるのに日本の人にはなかなか巡り合えず少し寂しい思いをしている。

ちなみに私の課程は20人ほどで、外国人は私ひとり。約7割が学部からの持ち上がりで、外部入学+外国人+最年長の私はめちゃくちゃイレギュラーな存在として若者たちに認知されていると思う。涙

過去の修士論文を漁ってみたら、7年前ほどに日本人らしき名前の方がいるのを確認した。この方が最後の卒業生の場合、私はかなり久々の日本人のようで先生たちに珍しがられ、一発で名前を覚えられている。

※24年11月追記:その後、5年ほど前に日本人の方がいらっしゃるのを発見しました。それでも5年前……。

②日々の勉強はハード。しかしフランス語口頭表現力が向上するかは未知数。

私がクラスで唯一の日本人だからこんなに苦しんでいる、というのはあるかもしれないが、真面目にやろうとすればフランス人でも良い評価で修了するのでは難しいのではないかと思うくらい勉強面はハード。

数字を出しながら詳述すると、
・1学期現在、必修の授業は約17時間/週
ひとつでも単位を落とすと2年生に進級できない。
・修士論文を2年で提出する日本とは異なり、まず1年生でミニ論文執筆⇒教授陣の審査⇒単位全取得とあわせ、審査でOKが出ればめでたく進級。
・2年生への進級時、Recherche(研究)コースに入るには論文の審査で20点中14点を、全必修科目の平均点を最低でも12点or14点(ここは要確認)取らないといけない。
・修士課程の修了には、2年次に100ページの論文を(もちろん仏語で)執筆しなければならない。

こんな条件なので気軽に授業を切るなど言語道断、なるべくいい成績を取る必要がある。授業がある日の中で一番きついスケジュールはこんな感じ。

8:00 家出発
9:00~11:00 授業①※そもそも日本と異なり授業時間は90分固定ではなく、60~210分とさまざまである。
11:00~12:00 図書館で授業の予復習
12:00~12:30 昼食・休憩
12:30~14:00 授業②
14:00~16:00 授業③(微妙に離れたキャンパスなので、小走りで移動しつつ毎回10分遅刻している)
16:30~20:00 図書館で授業の予復習
20:00~22:30 買い物、夜ご飯とお弁当作り、家事
22:30~00:00 終わっていない課題を半泣きでやる
00:00~01:00 入浴、就寝

もちろん合間合間に休憩は入れているが、ひどいときは本当にこんな感じで、多いと一日12時間以上勉強や課題に追われている。
(会社勤めで残業が続いていた時以来、久々に口唇ヘルペスが再発してしまい、免疫力の低下を感じざるを得ない)


約7年ぶりに今回勉学の道に帰ってきて、やるもやらないも自分次第、すべてが自分に返ってくる恐ろしさを日々痛感している。

労働の世界でははまずもって会社にいることがとても大事だし、正直気が乗らないときや体調不良時は100%のパフォーマンスが出せなくても、基本給は保証されていた。
また個人の業務もあるが、基本は部署やチームでの業務。大きな仕事は最終的に上司が責任を取ってくれた。

でも、今書類をチェックしてくれる上司はいない。
仕事を手伝ってくれる同期はいない。

もちろん、フランス人のクラスメートにちょっとした質問はできるけれど、彼ら彼女らも学部から上がりたての20そこそこの若者。地方出身で奨学金を借り、バイトしながら通っている子も多い。
彼ら自身の生活もあるから、長時間を割いてもらうことはできないし、私の成績に責任を負ってもらえるわけではない。

また、上記のようなスケジュールだと、フランス語”の”勉強に充てる時間はほぼない。
授業でかなり聴解力と読解力は上がっているが、表現(とくに口頭表現)がDALF C2受験時より下手したら下がっているのではないかという危機感を覚えている。一部授業ではエクスポゼもあるし、一日に一回は授業中に発言するよう気を付けているが、それでも25分の個人オンラインレッスンを受けていたころのほうが発話量が多かった気がする。

我が家の公用語は日本語なこともあり、このまま修士課程を運よく終えたとて、いわゆる日常の口語表現(やスラングの知識)はそこまで伸びないのではという予感に満ち満ちている。

③授業で垣間見える、社会進出を見据えた(エリート)教育

パリ市民講座に通っていたころ、先生がこんなことを言っていた。

「外国人はやたら”ソルボンヌ”と言うが、ソルボンヌ以外にも、例えばサクレーとか良い大学はある。」「ソルボンヌとパリ・シテは入学要件がExigeant(要求が厳しい)。」

そして、2月に行われた修士の入学説明会での教授のありがたいお言葉。
「うちの修士課程はSélectif(倍率が高い)です。でも少しでも入学したいと思ったら、遠慮なく出願してくださいね。ちなみに去年は書類で半分以上落として、面接でも半分落としました。」「うちは外国人であっても、フランス人と同条件で入学審査をします。ハンデの考慮はありません。」

つまり私は上記3校のいずれかに拾ってもらえた”イレギュラー★ラッキー★外国人”ということなのだが、フランスのことをご存知の方は「えーでもフランスのエリートはグランゼコールで教育されるのでは?」と思うことだろう。

しかし授業では、
「ここはグランゼコールではないけれど、君たちはトップ層にいる。その自覚を持ってほしい」
とグランゼコール(みんな大好きシアンスポ)出身の教授が学生に言い放っていたし、社会進出を見据えたinsertion professionnelle(CVや志望理由書の書き方、インターンの探し方などを教えてもらう)の授業ではCV執筆時、経歴に見合わない資格の書き方をしようものなら教授が苦言を呈する(君たちほどの経歴の人がこんなことを書くな!価値を下げるな!という言い方)。

私は日本の学部を就職の強さで有名な大学で終えているのだが、別に大学でこんな授業を受けた覚えはないし、みんなそれぞれ勝手に就活をして内定を獲得していた。キャリアセンターに助けを求めたこともない。

どう書けばいいか難しいのだが、そういったド直球の就職支援はもう少し入学難易度の低い大学のほうが手厚かった記憶があるのだ。

はて、この違いはどこから来るのだろうと考えているが、もちろんまだ1ヵ月では答えは出ないので、もう少し若者たちの意見を聞いてみたいと思う。

※ちなみに個人的には、日本の就活の早期化には学部時代からずっと懸念を抱き続けているので、今自分がフランスの大学院で必死にCVを書いている状況には、諸手を挙げて賛成はできかねている状況。でも自分名義の収入が途絶え、働かないと生きていけないことは重々承知。

おわりに

先週はじめての中間テストが終わり(外国人ハンデ考慮してとお願いしたら門前払いされ、フランス人と同条件で受験させられた……)今週も中間テストとエクスポゼがひとつ。

毎日目が回るようだが、新しい居場所・所属ができて、とても充実している。
夫の付属品としてだけではないフランス生活が始まって、本当にうれしい。
ここから何年間大学院に通うか、このマスターを取ったらもう一つ別のマスターを取るか、ドクターに進学するのか。まだまだ未来は分からないが、とにかくこのマスターを留年せずストレートで取得することを向こう2年の目標としたい。

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