スタートアップ経営者が経営者コーチングを通じて変わった自分の感情への向き合い方
*参照記事:日経新聞「有力新興の投資社数 グロービスとジャフコが首位」
支援先に選定した理由とお互いの第一印象
―GCP XがLibryを支援先に選んだ理由は、何だったのでしょうか?
小野:大きく3つあります。一番大きな理由は教育市場のデジタル化というマーケットにおいて、Libryが大きく伸びる可能性を感じたことです。
2つ目は「30人の壁」。当時のLibryは社員20人くらいでしたが、よくある話で社員30人を越えるのって結構大変なんですよ。社長が一人でなんでもやれていた状態から、チーム経営に移行しないといけないので。この壁を越える支援ができればと思いました。
3つ目は、GCPの担当キャピタリストからのコメントです。「とにかく後藤さんが面白い。伸びしろがたくさんある。いい意味で社会人擦れしていないところがある」と。一方で経営者として成長していくうえで方向性に迷っているところがあり、サポートをすべきだと言われてお会いしてみることになりました。
―実際に顔をあわせてみて、お互いの第一印象はどうでしたか?
小野:とにかくLibryのことが好きでしょうがないんだなと。自分の会社のことや、やっていることを話し始めたらもう止まらない。大好きなおもちゃを前にした子供みたいな印象を持ちましたね。
それから、異常なほどの好奇心だなと。あと僕が何者なのかをすごく知りたがっていましたね。
後藤:GCPの担当キャピタリストの方から聞いていた小野さんの経歴があまりにも輝かしくて、しかも「少ないコーチング枠に無理やりねじ込んだんだからね」と言われていたので、すごく緊張していました。小野さんは数えきれないほどの経営者を見てこられているので、そんな人から自分がどういう風に見えるのかという不安もありました。
小野:そうだったんだ。
後藤:でも話してみたら、すごく柔らかい感じ。話してて面白かったし。優しい。
小野:僕、あんまり優しくないけどね。けっこう厳しいこと言うし笑。
後藤:そう、厳しいんですよ。なんて言うんだろう…表現はすごく柔らかいんですけど、芯をとらえて離さない人だなと思いました。
自分と偉大な経営者との差を計るためにも、本音でぶつかる
―小野さんはなんでも本音で話しやすい感じでしょうか?
後藤:本音で話しやすいというよりは、本音で話していかないといけないと思っていました。僕自身が感じていた課題として「偉大な経営者ってどういうものなのかがわからない」ということがありました。日本の教育を支えていく偉大な企業を作っていくためには、自分自身がその器としてふさわしい経営者にならないといけません。でも、偉大な経営者って何なのか?僕と世界の名だたる経営者との差は僕が持っている物差しでは計れないです。
このまま事業や組織が大きくなっていったときに、僕より会社の方が大きくなってしまったら壊れちゃうので、「経営者としての器をどうすれば大きくできるのだろうか?」ということを常に自問自答していました。
小野さんは、その道すじをよくご存じの方です。僕のパーソナリティや感情を伝えることで、経営者として高みを目指すための気づきを与えてほしいと考えていました。だからこそ、僕が恥ずかしがらず、裸を見られるくらいの気持ちで話をしていました。
コーチングを通して、自分の特性と過去のトラウマに向き合い、自分のバイアスを知覚
―コーチングはどのように進めたのでしょうか。
小野:もともとコーチングのトレーナーの資格は取っているんですが、特定のメソッドにとらわれないやり方をしています。まずこれをやって次のステップは…というようなプログラムは一切やらない主義で。なので、後藤さんのニーズや状態を見極めながらスタートしました。
後藤:印象に残っているのは、最初にやった「16Personalities」という性格診断テストです。16個の性格タイプのうち、「討論者」という結果が出て、それをもとに小野さんとコミュニケーションをとっていきました。「討論者」が持つ強みというものがいくつかありまして、「これが強みって言われてどう思う?」と聞かれ、ほぼすべての項目について納得できたし、それが強みだと言われる自分が大好きですって答えていたんです。けれど「Charismatic」という強みについてだけは、直感的に『嫌だな』と思ったんです。「Charismatic」を言い換えると、「周りを巻き込んで、グイグイ引っ張っていく力」という意味だと理解しています。そういうことに対して怖さを感じていました。
僕は中学生の時にハンドボール部の部長をしていたのですが、部員に厳しくしすぎて練習をボイコットされてしまった経験があります。その時から、「こっちに行くぞ!」みたいに強いリーダーシップを発揮すると人が逃げてしまうと思うようになったんです。
その話を小野さんにしたら、「それって本当に事実かな?」と言ってくれて。世の中で言うカリスマ経営者の名前を挙げて「彼らの周りには人がいないんだろうか?」と聞かれました。
「いえ、いると思います」
「じゃあカリスマ性を発揮すると人はいなくなるのかな?」
「いえ、いなくならないですね...」
みたいなやりとりがあって。
教えてもらうんじゃなくて、会話しているうちに自分のバイアスに気づけました。自分ではすごくフラットにモノを見ようとしているつもりだったのに、こんなにバイアスにとらわれているんだなと。
成長を阻害するのは思考の癖や思い込み、『問いの力』で根っこを見直す
小野:後藤さんがすごいのは、こうやって悩みを自己解決していくところです。すごく飲み込みが早い上に、ひょっとすると自分は間違っていたかもしれないと思うと、根っこの部分を変えることも厭わない。その勇気がすごくあると思っています。私が出会ってきた経営者の中でも、これができる人はなかなかいないものなんですよね。
成長って、スキルや知識を身につけることで獲得する部分もあれば、考え方や行動パターンを見直すことで得られる部分もあると思うんですが、後者の方が難しいです。経営者という立場になれば、色んなことをやらないといけないからスキルや知識はどんどん高まっていきます。成長を阻害するのは、いつもの考え方の癖とか思い込み。そういうところを「本当ですか?」と問うのはコーチングで大事にしていることですね。後藤さんは、それに対する反応がめちゃくちゃ早いです。
後藤:気づくきっかけがないとなかなか変えられないものなので、小野さんのコーチングの中では『問いの力』をすごく感じています。毎回自分の価値観を揺さぶられ、変わるきっかけになっています。
理論武装の内側にあるパッションやエネルギーにアクセスし、本当の自分が解放された
―コーチングを通じて「Charismatic」という強みに対する意識が変わったという話がありましたが、行動面でも何か変化がありましたか?
後藤:コーチングを受ける前は、ロジックによって周りのみんなを一生懸命説得していたんですよ。「市場がこうなってるでしょ、だからここが大事でしょ、だからこうするとLibryって成長するでしょ。ほら、Libryって魅力的でしょ」というように。それが、「僕はこういう世界が作りたいんだ。こっちに行きたいんだ。だからついて来て欲しい」という想いを意識的に伝えるようになりました。
小野さんとの問答の中で、そういう強いリーダーシップを発揮してもうちの会社の人たちは受け入れてくれるだろうし、そういうやり方を欲している人もいるんだろうなと気づけました。今までの自分のスタイルを変えることで、自分が持っている強みの発揮の仕方を掘り出してもらえた感覚があります。
小野:コーチングの前半と後半で後藤さんの印象ってすごく変わったんですよ。前半は、コミュニケーションのスタイルとして、論理的ですごく合理的な考え方が中心でした。内面ではパッションとかエネルギーがすごくあふれているのに正確に伝えなきゃとか、論理的に納得させないと、という意識が強くて、内面の感情を表に出し切れていないように感じました。
後藤さんがもともと持っているエモーショナルな部分をストレートに出したらいいんじゃないか?と伝え、まずは手始めとして、後藤さんが考える「経営者はこうあるべきだ、こうはなりたくない」といった色んな思い込みや固定概念をちょっとずつ解放していきました。解放したことで、好奇心バリバリの「やりたいことこれです。これが面白いです」っていうおもちゃを前にした子供みたいな感情や本来もっている魅力や価値をそのまま出せるようになってきて。
自分の感情にアクセスすること、それを表現することをためらわないっていうこと、そこに時間をかけていきましたよね。
後藤:そうですね。例えば、「COOの浅野さんとCFOの櫟木さんを経営陣に迎えて、どういう感情になった?」「今の感情を絵で表現するとどうなる?」みたいなやりとりを繰り返してもらいました。
小野:最初は説明的なことを言うんですよ。「任せられるようになった」とか「安心できた」とか。それは事実であって、後藤さんは何を感じたのかを聞いていきました。そうすると「温かい」とかになってきて、それをさらに掘り下げて。
後藤:そうそう、「ずーっと鎖でつながれていたところから、晴天の広い原っぱで思いっきり走って良いって言われた気分」「そうそう、それだよ!」みたいなやり取りでしたね。
小野:本当はエモーショナルで温かくて人間的な人なのに、対人関係のコミュニケーションがちょっとロボットっぽかったんです。まじめで頭も良いし、経営者はちゃんとしないといけないと、ちょっとカッコつけてたところがありましたね。なんでも論理的に説明するのではなくて、感情にアクセスして自分はこういう風に感じているんですというのを素直に伝えてみたらどう、そしたらどうなると思う、という話をしていきました。
後藤:怖かったんですよね。学生ベンチャーでやってきて、自分より年上の人が社内にいっぱいいる中で、自分が変に感情を出してしまうとみんなの心が離れていっちゃうんじゃないかと思って。だから理論武装するし説得しなきゃいけないと一生懸命でした。それが自分の中でのバイアスだったんです。
だけど、「あなたはどういう人が信頼できるの?」と小野さんに聞かれたときに、「精神的なつながりを持てる人が信頼できる」と言ったら、「相手も同じだと思うよ。みんなきっと信じてるから、もっと自分の感情にアクセスしてそれを表現するようにして言ってみたら?」って言われて。なかなかどこまでできているかわからないけど、この1年で、自分の感情に対する向き合い方、スタンスがすごく変わったと思いますね。
周りに任せ、本当の自分を解放することで、自分らしい偉大な経営者をめざす
小野:お世辞抜きに僕が後藤さんをどう見ているかというと、後藤さんはすごく偉大な経営者になると思っています。偉大な経営者の資質として未来を描く力がすごく重要で、後藤さんにはそれがある。圧倒的な将来の姿を細かく描き切る、こうなるに違いないというのを心の底から信じている。それはもう、気が狂ってるくらいに笑。
それから、COOの浅野さんやCFOの櫟木さんが経営陣として入ってくれたことも、Libryにとって大きいと思っています。僕は、ユニクロの柳井さんとか楽天の三木谷さんとかテスラのイーロン・マスクとかいろんな経営者と会って来ましたが、みんな素晴らしいけどそれぞれタイプが違います。
その中で後藤さんがどういうタイプかと言うと、すごく太陽みたいな経営者だと思うんです。好奇心ドリブンだし、共感性が高い。だからこそ反対に、シビアになりきるとか合理的な判断でやっていくことが重要だと思い過ぎていたきらいがあるんですね。浅野さんや櫟木さんが入ってその部分を任せられるようになって、本来後藤さんが持っている力にフォーカスできるようになった。
完璧な人なんていないので、本来強みではない部分を任せられる仲間が出てきたということが大きいんです。今のLibryは体制として本当に強いと思いますよ。
優秀な仲間を増やし、主演からプロデューサー役になり、みんなが輝けく素晴らしい舞台を創る。
―今後を見据えて、「まだ変わりたい、足りない」と思っているのはどういうところですか?
後藤:経営者として貪欲に短期的に強い判断をして、強くアクセルを踏み込む思い切りの良さですかね。小野さんのコーチングの中で、それが足りていない部分なのかなと思いつつも、無意識にブレーキを踏んでいる自分がいる。そこをもっと取っ払っていかないといけない。それは自分の覚悟によるところでもあるし、周りに背中を預けられる優秀な仲間にどんどん仕事を任せていくことも必要です。この意識をもっと強めていかないといけないと思っています。小野さんから見るとどうですか?
小野:自分の描いている未来を信じて、“組織”で実現すること。そのための強い組織をつくっていくことが大事だと思います。今はまだ後藤さんの自作自演。監督も主演も大道具もって全部後藤さんがやってきたから、もっとプロデューサー役になってもいいかなと。総監督後藤、制作誰々、主演誰々、衣装誰々みたいな感じになっていかないといけない。この先Libryがもっと成長していくためのカギとして、舞台のメンバーをそろえていくことが大事だと思うな。
後藤:そうですね。メンバーが増えていって、徐々に役割がはがれていっている感じはあって、思い切り走れる日が近いんじゃないかなという手ごたえを感じています。もっとみんなが輝ける舞台を作って、僕のビジョンに心から共感して、一緒に走ってくれる人たちで溢れた会社にしていきたいと思います。そのためにもいろんな経営者の方に会っていきたい。会うことで、偉大な経営者とは何かをもっと知りたい。それが高みを目指すことにつながるんじゃないかと思いますね。