アフガニスタン情勢
ジョー・バイデン大統領は、アフガニスタン駐留の米軍とNATOの連合軍を2021年05月01日より撤退を開始し、同年09月11日(米同時多発テロから20年を迎える日というのが米国らしい)までに完全撤退させると宣言した。NATO連合軍は準備が間に合わないと難色を示し、また現地アフガニスタンの住民は連合軍撤退に憂慮していた。
というのもイスラム原理主義武装組織(タリバーンや、アル・カーイダや、イスラム国:ISなど)中でも旧支配勢力であった土着の反政府組織タリバーンが「世界最強の米軍に勝利した」と勢いづき、士気に任せて現地の撤収部隊への攻撃をする恐れがあるからだ。バイデン大統領はこのイスラム原理主義武装組織に対し、追撃戦等の企てをしないよう警告した。これにより長い戦争に終止符が打たれるかと思いきや、一方アフガニスタンの住民からは「米国が永遠の戦争への関与をやめても、永遠の戦争は終わらない。むしろこの戦争が悪化する」との声が多かった。
先日、2021年05月08日、アフガニスタンの首都カブールで起きた、女子高校生を襲った痛ましい爆破テロ事件に関しても、現時点で犯行声明はないものの、連合軍撤退の影響と言っても間違いではないだろう。
現時点ではタリバーンは関与を否定している。背景にアフガニスタンで進んできた女性の権利拡大の動きに対するテロではないかとも言われている。そう考えるとおそらくは原理主義色の強いISによるものかもしれない。
同年04月30日には、東部ロガール州プレアラムでトラックによる自爆攻撃があり、約30人が死亡し110人が負傷した。被害者の多くは生徒だった。アシュラフ・ガニ大統領は声明で、反政府勢力タリバーンの犯行と断定。「紛争を平和的かつ根本的に解決することに賛同しないだけでなく、状況を困難にし、和平の機会を無駄にした」と強く非難した。だがタリバーンからは声明は出ていない。
また、2020年11月3日には、首都カブール大学で銃撃があり22人が死亡したテロが起こった。襲撃が始まって間もなくタリバーンは関与を否定し、ISによる襲撃を非難した。その数時間後に、ISが「背教者のアフガン政府のために働く裁判官や捜査官らを狙った」との声明文を表明した。
この様に学生を狙ったテロは、もともと学生運動から始まったタリバーンよりも、イスラム教義に反していると判断したISによるものが多い。
一方、タリバーンが標的とする対象は連合軍に関与した者であり、中でも直接米軍に関与していた現地通訳者は格好の標的対象となった。米軍の撤退後には必ずタリバーンからの報復があると恐れ、一緒に米国へ連れて行ってほしいと懇願する者が後を絶たないようだ。
そんな連合軍に協力したアフガニスタン人の通訳も安住の地を得られずにいる。タリバーンから命を狙われ、なんとか欧米に向かったものの、自分が危険人物リストに載せられていることが判明するなど、移住を拒否されることが相次いでいる。
アフガニスタンをめぐっては2020年02月29日、現地に軍を駐留させている米国とタリバーンが和平合意を締結した。合意内容は、タリバーンがアル・カーイダなど国際テロ組織との関係を断絶することなどを条件に米軍は合意から14か月以内に完全撤退するというものである。
しかし依然としてタリバーンによるテロが相次ぎ、治安の悪化が続いている。同時に米軍は期限までの撤退が間に合わず、また今回のアフガニスタン撤退に関しても、タリバーンの攻撃を警戒し合意内容に反するB-52長距離爆撃機6機とF-18戦闘機12機が追加配備されたことも、関係をより悪化させている要因の一つとも言える。
今回の撤退がどの様に影響するか、世界の注目が集まっている。
【勢力について】
◆「タリバーン」(タリバン)
1979年 アフガニスタンの内紛に乗じてソ連がアフガニスタンに侵攻。当時、アフガニスタンでは共産主義政権が危機に瀕しており、ソ連としては、冷戦時にアフガニスタンが米国を中心とした自由主義陣営に取り込まれるのを防ぐ狙いがあった。ソ連(東方正教)に侵略されたアフガニスタンを解放する名目でアラブを中心にイスラム社会から義勇兵がアフガニスタンに集まった。タリバーン結成の起源はここにある。多くはアフガニスタンのイスラム神学校で教育・訓練された学生たちで構成された土着の勢力であった。
◆「アル・カーイダ」(アルカイダ)
イスラム主義を標榜する国際的な反政府ネットワークを意味する。つまり土着の組織ではなく国際テロ組織だ。アル・カーイダはそのネットワークによりさまざまな国・地域の人々が参加したため、国境を跨いだグローバルな国際テロ派組織となった。アル・カーイダとタリバーンは合同軍事訓練を行うなど密接な関係を維持していた。国際テロ組織のアル・カーイダはネットワークで繋がり世界中に分散しているため「組織なき組織」とも言われている。現在はいわば一種のイデオロギーとして捉えるほうがわかりやすくなった。
2001年09月11日、米国に深く静かに潜入したアル・カーイダが起こしたアメリカ同時多発テロ事件は記憶に新しいだろう。
◆「IS:Islamic State」(イスラム国)
イスラム教の教え以外を容認しないイスラム原理主義による国際テロ組織。主にシリア、中東にて活動を行う。国としては認められていない。指導者の「アブー・バクル・バグダディ」は、預言者ムハンマドの後継者とされる「カリフ」(正当なイスラム教の指導者)を自ら名乗り、イスラム国を樹立した。全世界のイスラム教徒に向けて「ジハード」(聖戦)を呼び掛ける声明を発しており、テロ組織の中では最も宗教色の強い組織。
参考サイト
https://www.cnn.co.jp/world/35170422.html
https://www.bbc.com/japanese/video-36659105
https://www.military.com/daily-news/2021/05/01/dont-leave-us-behind-afghan-interpreters-urge-us.html
https://www.mofa.go.jp/mofaj/page1_000844.html
https://www.bbc.com/japanese/57044778
https://www.bbc.com/japanese/57019159