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労働讃歌

“CUCHARÓN Y PASO ATRÁS”, COMPAÑÍA JOAQUÍN GRILO

ホアキン・グリロを四半世紀ぶりくらいに観た。
タイトルは”おたまと過去への歩み”、という感じだろうか。
クチャロンはスプーンの大きいのを指す。

過酷な仕事に従じてきた農夫や、炭鉱夫、鍛冶場の労働者などへのオマージュ。夜明けから日没まで果てしなく、汗を流し、苦難を重ねてきたひとたちへ想いを馳せる。
フラメンコはそんな虐げられたものたちの音楽であり、祭りだった。
フラメンコの起源へと辿るひとつの方法として示されたテーマは、「労働」の形が目に見えないものに取って替わられ、何かに操られているかのようなこの時代に、リアルな熱い身体感覚を投げかけてくれる。

ホアキンは、冒頭で地下足袋のような足元に、ホタの要素を取り入れた振り付けで農夫を演じる。土を耕し大地の恵みに躍るのだ。
炭鉱夫はもちろんレバンテの歌。鍛冶屋の場では、舞台上手(かみて)でマルティネーテと対峙し、激しく踊りきってカンテのホセ・バレンシアに向かって倒れこんだ。脇の席で見ていた自分からほんの数メートル先で、力強く燃え盛る炎がパッと燃え尽きたような瞬間だった。鍛冶屋の渾身の打ち込みだったのだと思う。
彼の踊りは、ときおり見せるマリオネットのような動きを含めて、硬軟の抑揚がとても心地良い。主張しすぎないコンパス感が、観る者を物語にいざなう。

反対側でカルメン・グリロのサエタが始まり、そして仲間と集うタンゴからの、舞台後方にテーブルが用意されて主題となったおたまで鍋からスープを掬いながら、ブレリア、フィナーレへと向かう。
後半の構成は正統派な感じで爽快であった。大絶賛に応え、隊列を組んでフィンデフィエスタを興じながら花道(パティオの通路)を抜け、去っていった。

Festival de Jerez, 26.02.2024, Teatro Villamarta


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