めぐみ友貴@Librardil

音や言葉と遊ぶ不定期個人活動『 Librardil(リブラルディル)』。 中でも言葉に…

めぐみ友貴@Librardil

音や言葉と遊ぶ不定期個人活動『 Librardil(リブラルディル)』。 中でも言葉に関するアレコレは『めぐみ友貴(ゆき)』名義でもそもそと。なお創作物の著作権は放棄しておりません。 趣味でやっていますので、事務所へのお問い合わせはご遠慮頂ければ幸いです。

記事一覧

ループライン#41

【電子書籍のお知らせ】 昨秋からここまで、ループラインの更新にお付き合い頂きまして誠にありがとうございました! プロローグを別としても、幕間も含めて計40回の更新…

ループライン#40

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(8) ――ここは思い切って、下手な鉄砲を数撃つことにするかな。  そう思い定めてからは、それまでの不調が嘘のように気に入る作品…

ループライン#39

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(7) 撮影は難航した。  写真は長いことやってきたものの、誰かに何かを伝えたいという明確な意思を持って撮影に臨むのは、今回が初…

ループライン#38

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(6) ――はいせん。  一瞬、守山が何を言ったのか分からなかった。ポカンと口を開けたままの直幹に、守山は繰り返す。 「廃線。…

ループライン#37

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(5)「直幹、頼む! 力を貸してくれ」  駅前のドーナツショップで、会社帰りのおじさんが二人向かい合っている。それだけでも尻の座…

ループライン#36

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(4)「あ、はい、こんにちは」 「これ、監督が渡してきてくれって」  差し出されたのは缶コーヒーだった。青年の持ち方的にどうやらホ…

ループライン#35

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(3) ――酒の席での話の流れだとばかり思ってた。  新年の賑わいがようやく落ち着いたとある週末、午前中。直幹は寒風吹きすさぶグ…

ループライン#34

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(2)「鷲(わし)神社じゃないか」 「懐かしいだろ?」  手渡したのはアルバムだった。紅葉や木漏れ日、霧雨などに包まれた古びた神社…

ループライン#33

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(1) この街が好きだ――と、三田(みた)直幹(なおき)はずっと思っている。  それこそ物心ついた頃からずっとだ。何しろ生まれ育った…

ループライン#32

【異風堂々 陸】 花が咲いている。俺の好きな花だ。  遠くから見ると綿菓子やポップコーンのようだけれど、下から見上げれば降り注ぐ花びらが雪のように見える。俺は…

ループライン#31

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(6) 病院にやってきた楸を出迎えたのは、予想に反して楽しげな妻の顔だった。妻自身に何もなかったとはいえ、付き添ってきたか…

ループライン#30

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(5) 窓の外に広がる空は晴れてはいるのにどこか霞んだように薄い。文句のつけようのない快晴が続く真冬が終わり、確かに季節が…

ループライン#29

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(4)「……見当たらん、なあ」  フラワーショップで時間いっぱい悩んで、柔らかな白とオレンジ色ベースのミニブーケを買った。…

ループライン#28

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(3)「……おや?」  二階の通路をひたすら真っ直ぐ進み、記憶にあった場所にやってきた。と、スキンケア小物の店舗がなくなっ…

ループライン#27

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(2) 最寄りのモノレールの駅までは徒歩五分ほど。駅の近くには中学校があり、広いグラウンドでは生徒達がパラパラと散って掃き…

ループライン#26

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(1) 「それじゃあ、わたしは先に行っていますから」 「ああ。電話は持ったかい?」 「一番最初に鞄に入れましたわ。あなたも…

ループライン#41

ループライン#41

【電子書籍のお知らせ】 昨秋からここまで、ループラインの更新にお付き合い頂きまして誠にありがとうございました! プロローグを別としても、幕間も含めて計40回の更新となりました。結構長くかかりましたね(笑)
 改めまして、如何でしたでしょうか。

 noteで更新していくに当たって、気楽に読める文字数・横書きで小説を読む場合に相応しい体裁など色々手探りな部分もありましたが、当人としては肩肘張らずに、

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ループライン#40

ループライン#40

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(8) ――ここは思い切って、下手な鉄砲を数撃つことにするかな。

 そう思い定めてからは、それまでの不調が嘘のように気に入る作品が増えていった。ちょこちょこ守山や藤岡にも見て貰って自信もついてきた。
 桜のつぼみも綻び始め四月はもう目前……そんな折、彼に出会った。

 その日も午前中から撮影に出ようと、ちょうど夕陽が丘駅のホームにやってきた時だった。直

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ループライン#39

ループライン#39

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(7) 撮影は難航した。

 写真は長いことやってきたものの、誰かに何かを伝えたいという明確な意思を持って撮影に臨むのは、今回が初めてだったからだ。自分ではいいと思っても、客観的に見たらそうでもないかもしれない。しかし、巧い写真を目指せばそれこそプロに頼めばいいという話になってしまう。自分にしか撮れない写真、自分だから撮れる写真とは一体何なのだろう。直幹

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ループライン#38

ループライン#38

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(6) ――はいせん。

 一瞬、守山が何を言ったのか分からなかった。ポカンと口を開けたままの直幹に、守山は繰り返す。

「廃線。なくなるかもしれないんだよ」

 ジワジワ言葉の内容が直幹の頭に染み込んでくる。だけどどうしてもピンと来ない。そんな噂は微塵も聞いたことがないし。

「ちょ、待ってくれ、どこ情報だよ」

 これまで細々と、だけど確かに

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ループライン#37

ループライン#37

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(5)「直幹、頼む! 力を貸してくれ」

 駅前のドーナツショップで、会社帰りのおじさんが二人向かい合っている。それだけでも尻の座りが悪かったのに、片方がテーブルに額がつく程頭を下げているときたらそれはそれは目立つ。悪目立ちにも程がある。直幹は慌てて頭を上げるように促した。

「ちょちょちょ、モリ、守山! やめろって」
「いいや! キミがイエスと言って

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ループライン#36

ループライン#36

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(4)「あ、はい、こんにちは」
「これ、監督が渡してきてくれって」

 差し出されたのは缶コーヒーだった。青年の持ち方的にどうやらホットらしい。

「ああ、どうもありがとう。これは嬉しいな」

 礼を言って受け取りそのまま土手に腰を下ろした。『どうするかな?』と様子を窺えば、青年も傍に座ってもう一本缶コーヒーを取り出した。自分の分はコートのポケットに入

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ループライン#35

ループライン#35

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(3) ――酒の席での話の流れだとばかり思ってた。

 新年の賑わいがようやく落ち着いたとある週末、午前中。直幹は寒風吹きすさぶグラウンドに立っていた。前日の夜にいきなり『直幹、明日どうだ?』と藤岡から連絡があったのだ。面食らったものの特に予定もなかったので、OKして本日素直にやってきた。

「藤岡の昔馴染みの三田といいます。よろしくお願いします」

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ループライン#34

ループライン#34

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(2)「鷲(わし)神社じゃないか」
「懐かしいだろ?」

 手渡したのはアルバムだった。紅葉や木漏れ日、霧雨などに包まれた古びた神社の写真が、数ページに渡って何枚も並んでいる。
 直幹は学生時代から写真にハマり、今に至るまでずっと趣味にしている。時間を見つけては色々な写真展に足を運んだり、自分で撮影に出かけたりもする。カメラはお金がかかると言われるけれど

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ループライン#33

ループライン#33

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(1) この街が好きだ――と、三田(みた)直幹(なおき)はずっと思っている。
 それこそ物心ついた頃からずっとだ。何しろ生まれ育った街であるから、大分贔屓目に見ているのは否定しないけれども。職場まで往復三時間以上かかる道のりを、入社以来ずっと通い続けている。直幹は実家から出たことがない。両親を早くに亡くして、思い出の詰まった家を離れ難かったのもあるし、二

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ループライン#32

ループライン#32

【異風堂々 陸】 花が咲いている。俺の好きな花だ。

 遠くから見ると綿菓子やポップコーンのようだけれど、下から見上げれば降り注ぐ花びらが雪のように見える。俺は風流を解するたちだから、根元に陣取って見上げているのが好きだ。寒さの厳しい季節は通り過ぎたし、何時間でも眺めていられる。飽きることなく、ずっとずうっと。

 ――ああ、春だなあ。

 そうなのだ。春なのだ。こんなに眠たくなるのは、春眠

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ループライン#31

ループライン#31

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(6) 病院にやってきた楸を出迎えたのは、予想に反して楽しげな妻の顔だった。妻自身に何もなかったとはいえ、付き添ってきたからにはもう少し表情が曇っていたりするかと思っていたのだけれど。

「楸さん! すみませんね、来ていただいて」 
「いやそれはいいんだが。結局どういうことなんだい?」

 出入り口で立ち話をしていても邪魔になるので、隣接してい

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ループライン#30

ループライン#30

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(5) 窓の外に広がる空は晴れてはいるのにどこか霞んだように薄い。文句のつけようのない快晴が続く真冬が終わり、確かに季節が春へと移ろっているのを感じる。
 じっと外を眺めている間に運転士がやってきて、すぐにモノレールは夕陽が丘駅を出発した。歩けばそれなりに時間がかかる距離を、モノレールは空を滑るように結ぶ。焦れる思いを宥めていればあっという間にスカ

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ループライン#29

ループライン#29

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(4)「……見当たらん、なあ」

 フラワーショップで時間いっぱい悩んで、柔らかな白とオレンジ色ベースのミニブーケを買った。桜色と迷ったのだが、お菓子の包みが菜の花色だったからそちらと合わせてみてより気に入った方を選んだ。
 自分でもなかなか満足のいく買い物が出来たと、ホクホクしながら映画館のロビー階まで上がってきたのだが、そこにいるはずの妻の姿

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ループライン#28

ループライン#28

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(3)「……おや?」

 二階の通路をひたすら真っ直ぐ進み、記憶にあった場所にやってきた。と、スキンケア小物の店舗がなくなっている。すぐに近くの店員に尋ねてみる。

「すみません。以前ここにあった、ハンドクリームやらを扱っていたお店なんですが……」
「ああオーガニックコスメ専門のですよね?」
「そうですそうです」
「先月末にいくつかのお店の配

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ループライン#27

ループライン#27

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(2) 最寄りのモノレールの駅までは徒歩五分ほど。駅の近くには中学校があり、広いグラウンドでは生徒達がパラパラと散って掃き掃除をしている。
 最近の学校では清掃員を雇っているところもあるなんて話も聞くけれど、昔ながらの竹箒で自ら学び舎を清める学生の姿はとても美しいと思う。何がいいとか悪いとかではない。変わっていくことは自然なことだ。ただ、変わらない

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ループライン#26

ループライン#26

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(1)
「それじゃあ、わたしは先に行っていますから」
「ああ。電話は持ったかい?」
「一番最初に鞄に入れましたわ。あなたも忘れないでくださいね」

 玄関先で靴を履いている妻にマフラーを手渡しながら、根岸(ねぎし)楸(しゅう)は居間を振り返った。確か携帯電話は電気ケトルの傍らで充電中だったはずだ。大丈夫、大丈夫。

 妻の椿(つばき)と

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