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BACKGROUND
旧帝国期
Early era (and Fall of the old-empire)
――はるか昔。
その頃の人類は、今とは似て非なるもの、百の姿と千の名を持つ完全無欠の存在〔イデルニ〕であった。
イデルニは、森羅万象を解き明かす叡智と、それを具体的な力に変える高度な技術をもって、世界を覆い尽くすほどの一大文明を築き上げる。
しかし、イデルニは神にあらず、人であった。
ゆえに、自らの力に酔いしれ、溺れ、この世界の禁忌に触れてしまった。結果、聖霊の加護を失い、わずか一昼夜にして滅んだという。これを〔終焉の日〕という。
崩壊後
Late era (After catastrophe)
礎の時代 / Basis period
イデルニのうち、正しい行いをした一部がわずかに生き延びた。
そして、イデルニに仕えるため「永き民」が現れる。
アールヴの使命は、イデルニの叡智と技術を学び、後世へ受け継ぐこと。
しかし、イデルニはアールヴに全てを教えなかった。世界がふたたび滅びへ向かうことのないように。
イデルニはこのとき、深い深い森の奥に聖域をさだめて眩く光る結界を張り、その内側では時の流れが早まるようにした。これを「光の舎」という。アールヴに叡智を授け終えるには、時がいくらあっても足りないと考えたからである。そしてアールヴは無限の命を授けられ、永きにわたって教えを受けられるようになった。
一方で、永劫の学びの途中にもかかわらず、少なくない数のアールヴがリセを離れることになる。彼ら彼女らは「旅の民」を名乗った。荒廃した地上に残るイデルニの遺産のうち有益なものは守り、有害なものは壊し、後の人々が穏やかに平和に生きていくための礎を築くことに尽力した。
ゆえに、この時代を〔礎の時代〕と呼ぶ。
鉄と麦の時代 / Mine and Farm period
礎の時代ののち、〔鉄と麦の時代〕が訪れる。
イデルニの教えを行いとするにあたり、多くのアールヴが難儀をした。リセでの永きにわたる学びは、アールヴの手足をすっかり痩せ衰えさせるに充分であったから。
アールヴらが無力ゆえに流した血と涙から、やがて頑健なる民があらわれる。これを「剛の民」と呼ぶ。ドゥオルフは鉄を鍛え岩を砕き大いに活躍するが、その出自ゆえ弱さやもろさを嫌い、憎み、許せず、アールヴとは相容れることがなかった。
また、ドゥオルフの一部は、土を耕し畑を作り、麦を育て、豚や牛を飼うようにもなった。これを「育みの民」という。
グノムも当初はアールヴと反目したが、早くに和解した。森、山、川、海のありようを理解し、天候を読むことに長けたアールヴは、グノムとともに田畑を護ったからである。
奇跡の時代 / Calm period
鉄と麦の時代ののち、穏やかで安定した時代があった。
これを〔奇跡の時代〕という。
忌むべき妖魔や邪鬼の中でもわりあい善良で、かつ、暴れても害は少ないとみられた矮躯のものが、アールヴ、ドゥオルフ、グノムらの間を行き来し、中には里に住み着くものも出始めた。
これらは学び手としても働き手としてもまるで役に立たなかったが、歌と踊りがうまく、酒や煙草を作ることに長けていたため、世が穏やかな時は重宝された。これが「愉楽の民」の祖となる。
ただし、ヨッケの多くはその出自ゆえ、善悪の区別に疎かった。その場が楽しければ、今が面白ければそれで良しとして、他者を驚かせ、困らせ、怒らせ、平気で嘘をついた。他者から幾度となく諭され戒められても、この性質はついぞ変わることがなかった。
血の時代 / Strife period
イデルニは、秩序と平穏が戻りつつある世を前に、自ら課した禁を破り、変革を志すようになった。それは、イデルニが完全なる存在であるがゆえの宿命でもあった。
今こそ、かつての過ちを改むらん。永久の繁栄を取り戻さん。より良き世を作り、治めん。そう欲する者が現れたのである。これを「狭間の民」という。
イデルニより転じたニエドは、完全なる存在には程遠かった。さほど美しくはなく、とりわけ強くも賢くもなかった。優しさや愛嬌にも欠けていた。長くも生きられず、死と病に悩まされ続ける運命にあった。禁を破りし自らを省みず、かつて世を滅ぼした咎を負ったがために。
しかしニエドは、何者でもない狭間にあり続けることを是としない。完全なる姿と力を取り戻すべく、互いに競い合い、高め合おうとした。即ち、騙し合い、殺し合ったのである。
多くの血が流れた。あまりに多くの血が流れた。が、その血の海の中から、誰もが驚くような聖者や英傑が生まれ出ることとなる。
これがニエドであった。
もっとも新しい氏族であり、もっとも古い氏族である。
血の時代は、今も続いている。
より多くの血を流したものが勝者となり、この世を治めぬかぎり、この時代は続く。
寺院の聖典には、外典や予言の類も含めて、血の時代が終わる術は記されていない。
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この物語の舞台となるのは、メセラン大陸の南東部。
聖ヨナン連盟に列する諸領の中でも指折りの軍事大国〔オード大公領〕は、異教徒による王朝〔ルガ・キニ〕と国境線を接する戦地でもある。
また、この地域は〔屍海〕の多さでも知られる。
屍海は、旧帝国期に無尽蔵の魔力を生み出していた炉が溶け落ちた跡とされる。湾内は波もなく、冷え切った泥のようで、船も、魚も、一切の生命を寄せ付けない死の海となっている。