INTRODUCTION
斬術の遣い手であるシオンは、五人の仲間たちと共に軍の最終試練を突破した。実力において先任の近衛隊を凌駕し、あらゆる脅威に対処可能な精鋭部隊であるという証を立てたのだ。
民間あがりの促成栽培。どこの馬の骨とも知れぬ愚連隊。あんな兵隊もどきが使い物になるものか。シオンたちに向けられていたあらゆる悪評は一日にして覆った。文字通りの快挙である。
だが、後に設けられた祝いの宴席で。
「……魔人エイドゥの討伐?! まさか志願したってのか?!」
「奴の潜伏先は〔混沌の魔窟〕だと聞いているが」
「旧帝国期の遺構。瘴気に満ちた穢れた地。人喰い鬼、怨霊、邪竜、ありとあらゆる化物が棲み着く文字通りの魔境」
「極力戦闘を避けて、偵察や哨戒に徹するとしても……ちょっと」
「考え直せ、死にに行くようなものだぞ!」
騒然となる仲間たちに、シオンは言う。
「これは、正式な命令。大公オーガスⅢ世の名において下されたもの。私たちが近衛隊に列せられた以上、絶対に拒否できない。どうしても嫌だと言うなら、誉士の位は返上。もらったばかりの騎士章も剥奪。軍規違反で何年かの監獄暮らしになる。そうして……残った私は、たった一人で行くことになると思う。その〔魔窟〕にね」
────そうして、幕を開ける。
地獄に落ちるよりもなお悪い、あまりに過酷な戦いの日々が。