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モンスター紹介1:オード軍の試練場

 旧ドワーフ氏族の住居兼鉱山の跡地を利用し、B5にある4基の炉心(精霊界から召喚した炎竜を捕縛したもの)から魔力を供給することで成立している公営の迷宮である。かつて〔狂王の試練場〕と呼ばれた大魔導師ワードナの大迷宮を手本として作られている。
 ただし、ワードナの大迷宮はかの有名な〔魔法の魔除け〕のもたらす膨大な魔力を前提として維持管理されている。オード領にあれほど強力な魔法のアイテムは存在せず、この試練場は「かなり無理をして」作られたといっていい。そのため、大小さまざまな問題を抱え込むことになった。
 たとえば、巨大な地下空間にありがちな地下水脈への対応。まれに炉心が不安定になること。魔力供給B3のゴブリン騒動に代表されるモンスター管理の甘さ、など。
 だが、人為的に作られた迷宮であるが故に、棲息するモンスターもそれほど剣呑なものはいない。優秀な賢者たちによって設計された迷宮は探索のイロハを学びつつ実戦訓練を積むのに適しており、才能のある者やダンジョンダイバーの基礎ができている者はあっという間に成長していくことだろう。

オード軍の試練場 B1

自生:
 バブリースライム ブラックバット ポルターガイスト
放し飼い:
 オーク コボルド
手厚く管理:
 クリーピングコイン
管理外:
 ローグ ブッシュワッカー アンデッドコボルド

 【自生】のモンスターは、放っておいてもこの手の地下空間に湧いてきて棲み着く類の生物(および下級霊)である。間違ってもこれらのエサにはなりたくないものだ。屍肉を食うことで維持管理のための清掃作業をかなり楽にしてくれるので、軍関係者にはけっこう可愛がられているらしい。
 【放し飼い】は、定期的に実行される召喚魔法や転移呪文によって遠くの場所から連れてきたものを迷宮内に放り込んだだけのもの。オークもコボルドも人里離れた洞窟や放棄された鉱山跡に今も住んでいるつもりだろう。
 ただ、クリーピングコインだけは、冒険者たちの絶好の練習相手として専門のスタッフがついて【手厚く管理】されている。一種のゴーレム(人造魔法生物)だが修繕・復活が比較的容易なので管理できているらしい。
 【管理外】のローグとブッシュワッカーは、どちらも勝手に迷宮へ入り込んだ不届き者。傷を負い弱った冒険者を襲って金品や装備を巻き上げようという不貞の輩なので返り討ちにしてやろう。アンデッドコボルドはコボルドの白骨死体が勝手に動き出したもので、おそらくポルターガイストなど低級霊の仕業と思われる。
 

オード軍の試練場 B2

放し飼い:
 ジャイアントスラッグ ガスクラウド
軍の関係者:
 マンアットアームズ フライア ウィッチ
手厚く管理:
 ゾンビ ダスター
管理外:
 ルーター ハイウェイマン
駆除対象:
 ボーパルバニー

 近衛兵志願の冒険者にはほとんど知られていないが、この階では【軍の関係者】が冒険者たちの敵役を務めている。
 徴兵制で集められた一般兵の中で問題を犯したもの、酒場や往来で軽率に魔法を使った魔術師見習い、戒律に触れる罪を犯した修道僧などがこの階に閉じ込められ、恩赦を得るため苦役についているというわけだ。斃されても遺体は回収され蘇生させられるが、灰化や消滅のリスクは皆等しく負っている。一人でも冒険者を斃せば罪状取り消しで原隊復帰、もしパーティを討ち取れば兵役免除も考慮されるとあって、全員目の色を変えて戦いを挑んでくる。くれぐれも油断のないように……というかオード軍はブラックが過ぎませんかね?
 そして、麻痺など特殊攻撃を持つ敵として配置されたゾンビ(死体)とダスター(刑場で火葬された罪人の灰を固めたもの)は貴重な練習相手として【手厚く管理】されている。死体にかりそめの命を吹き込んで使役するネクロマンシーは外法も外法なので賢者たちも使いたがらず、一度作られたゾンビははニコイチ、サンコイチされながらいよいよ使えなくなるまで大切に運用されている。苦役中の軍関係者よりよっぽど大事にされているとか。マジ大丈夫かオード軍。
 あと、賢者が召喚したわけでも放し飼いにしてるわけでもないのに、なぜか例の首刈りウサギがこの階では稀に出没する。見かけたら軍で責任をもって対処するので連絡せよとのお達しだが、うかつに背中を向けたら殺られるのは冒険者たちのほうなので発見したら全力をもって即刻駆除されたし。
 

オード軍の試練場 B3

管理外:
 ゴブリン ホブゴブリン ゴブリンシャーマン(+ゴブリンプリンス)
自生:
 カピバラ コヨーテ
手厚く管理(ゴブリンが):
 ジャイアントトード
不明:
 ドゥームトード(突然変異?)
遺憾ながら放置:
 キラータイガー ジャイアントゴリラ

 この階の現状については特に語ることもないだろう。実際に探索した冒険者たちのほうがよほど詳しく知っているはずだ。こんな環境で【自生】しているカピバラやコヨーテは本当に逞しいというか何と言うか。できれば常に見逃してやりたいものである。
 なお、この階に登場するキラータイガーとジャイアントゴリラは、冒険者たちの敵役として使役できないか検討されている最中だった。ミゼル小隊をはじめ世話をしていたオード兵たちの顔を覚えてそれなりに懐いていたらしいが、この階がゴブリンどもに占拠されてからは満足に餌も与えられていないだろう。見知らぬ冒険者たちに襲いかかってくるのもむしろ道理で、可哀相だが探索の妨げになるようなら殺処分するしかない。
 

オード軍の試練場 B4

獣人:
 ワーウルフ ワーベア ワーラット
放し飼い:
 ジャイアントスパイダー ヒュージスパイダー ドラゴンフライ
召喚:
 オーガ ロークレイナー(+ワーフィッシュ)
手厚く管理:
 ドラゴンパピー アタックドッグ
上の階から流入?:
 ジャイアントトード ドゥームトード
自然発生:
 ファントム

 この階層限定の固有種がやたらと多いが、どうやら迷宮の各階は設計を担当した賢者がそれぞれ違うらしい。たぶんモンスターマニアの賢者がいたんじゃないかな。知らんけど。
 特筆すべきは獣人の多さだ。地方で退治されたものを運び込んで蘇生したり、あるいは捕縛したものを放り込んだりしているのだが、実は人間への擬態能力を持っているワークリーチャーの生態についてはほとんど解明されていないので、修練場の運営ついでにデータを取ろうという魂胆なのだろう。一時は「ワークリーチャーはもともと皆ふつうの人間で、変身し凶暴になる因子が伝染病のように広まって誕生する」という説が有力視されたこともあったのだが、この階で長期観察されたことでほぼ否定されるようになった……ってやっぱモンスターマニアの賢者がいたんじゃねえか。
 獣人の生態について現在もっとも有力視されているのは「変身能力を持つヒューマノイドタイプの怪物で、人間を襲ったあとにその人物に偽装、家や財産を奪って殺害したものに成り代わり、油断している村人を値踏みして闇夜に紛れて人を食う」という説である。まさに赤ずきんちゃんのオオカミそのもの。くわばらくわばら。
 あと、ロークレイナーは「湖の王」の意を持つが、ぶっちゃけリルガミンのお堀とかに自生してたモートモンスターと種は同じ。生育度で大きさや強さが違うというだけらしい。
 

オード軍の試練場 B5

自生:
 ボーリングビートル
割と適当に管理:
 ヒポポタマス オークロード
厳重に管理:
 ウィルオーウィスプ ガスドラゴン ブレードベア
召喚:
 メデューサリザード バジリスク コカトリス
召喚のおまけ:
 ハーピー ジャイアントバイパー コモドドラゴン
自然発生:
 ファントム

 この階の主役は【召喚】された魔獣たちだ。【召喚のおまけ】とされているものは、本命の魔獣を召喚したついでに呼び込んでしまったもの。さらに自生も同然で棲み着いてしまったボーリングビートルも、卵が魔獣の糞に紛れていて気がついたら相当な数に増えていたらしい。下手したらこの周辺の生態系ぶっ壊れるな。
 【割と適当に管理】とあるものは、上層階のために呼び込んだモンスターのおまけで入り込んだものを利用していると考えてよい。ロークレイナーを遠方から召喚したらお呼びでないのにでっけえカバがついてきて、仕方ないのでB4に捨てとこか(ガスドラゴンの餌になるかも)とか、オークの中に突然変異のアルファ種が混じってたのでこんなの一階に放し飼いできないからB4に放り込んじゃえとかそんなノリ。わりと運営ザツだなオード軍。
 そんな中でも【厳重に管理】とあるモンスターは少々別格だ。もしもモンスターを戦力として自由に使役できればかなり役立つのではないか? と考えた前大公オードⅡ世が自ら飼い慣らしたものなのだとか。これらは冒険者たちが斃しても厳密には死んでおらず、回復呪文などで養生させて繰り返し再配置をしているらしい。
 たとえば、物理的に四散させたウィルオーウィスプは放っておけば元通りになる。ガスドラゴンは三つある心臓すべてが同時に止まらない限り勝手に蘇生する。ブレードベアは知能が高く抜群の演技力で「死んだふり」をするので冒険者が去ったあとに回復呪文をかけられる。それぞれ前大公にはよく懐いていて、今の飼育員の言うことも聞いてくれるそうだ。
 ただ、モンスターを飼い慣らしたり手懐けたりすることは宗教的に禁忌とされている(聖典にも人類とは相容れない存在だと明記されている)ので、オード軍にモンスターを飼育している部隊があることは執政官や軍関係者の中でもごく一部の者しか知らない。明るみになれば前大公は宗教裁判にかけられ、たとえ死後数十年の時を経ていようと墓を暴かれ処刑されたのち全ての栄誉を剥奪される可能性が……ってホントに大丈夫なのかオード軍。

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