シェア
エリート崩れの核弾頭 東京都中央区、築地。 場外市場商店街の一隅にある大衆食堂、そのカウンターで、二十代半ば過ぎの青年が遅い昼食を摂っていた。店内に客は彼だけだ。ネクタイを緩めてシャツの第一ボタンを外し、店の看板メニューである海鮮丼をほおばっている。 「美味しいかい?」 食堂の厨房から、店番をしている店主夫人が声をかける。青年の食べっぷりが気に入ったらしい。 「……はい」 口中のものを飲み下してから、青年は答えた。 「うちは狭くて汚い店だけど、出してるもんに
男の意地を貫いて 日は沈み、夜の帳が街に降りる。 午後六時。一応の退庁時刻である。 「今日も、何もせずに終わるのか……」 久瀬は暗澹たる思いで鞄を手にして、席を立つ。 天井の蛍光灯を消して廊下へ出た。 驚くべきことに、情報調査室の薄暗い廊下に並ぶ扉のほとんどがすでに施錠されていた。 開かれている部や班も天井の明かりが落とされていて、闇の中でぽつぽつとデスクライトの点いた机が散見できるのみ。それすらも空席が多く、かろうじて管理職らしき職員の姿を見つけても、ラ