温厚な人とはどんな人なのか。優しい人は温厚な人と言えるのだろうか。
「温厚な人」と聞くと、どんな人を思い浮かべるだろう?
一般的には「温厚な人」というと、怒らない人や心が広い人、器が大きい人や優しい人などが挙げられる。
自分もこれまでは、温厚な人は優しくて心が広い人だと漠然と思い込んでいた。
でも、本当にそうなのだろうか?
優しいことが本当に温厚の証になるのだろうか?
心が広いことは人間として優れていることなのだろうか?
どんなに嫌なことがあっても怒らない人は、本当に温厚な人だといえるのだろうか?
現代では言葉の意味が自分たちの都合のいいように解釈する人が多い。
温厚な人というのも、現代人の都合に合わせて「優しくて心が広い人」だと解釈されているだけだと考えられないだろうか。
というのも、私が思う温厚な人は「しかるべき人に対して、しかるべき方法で、しかるべき時に、適切に怒る人」である。
優しい人が好かれる世界
社会の中ではなぜか「怒らない人」が尊敬される。
嫌なことをされても笑顔を保ち、挑発されたりバカにされたりしても笑い飛ばし、怒りに振り回されず感情をコントロールできる人が人間的に優れていると思われている。
たしかに、むやみやたらと感情に振り回されないことは大事である。
感情に振り回されると冷静に物事を考えられなくなり、自己中心的な言動を取りがちになる。
恋愛において感情が致命的となるのは、自分目線でしか物事を考えられなくなってしまうからである。依存などはまさにその典型例だと言える。
職場や友人関係の中にも、感情的で怒りっぽい人が何人かはいるだろう。
怒るほどのことでもないのにすぐ不機嫌になったり、いつも感情的で冷静に話ができなかったりなど、そうした人と付き合うのは疲れると思っている人も多い。
だからこそ、「優しい人」や「心が広い人」がみんなから好かれやすくなっている。
優しくて心が広い人は感情的な行動も少ない。理性を使って冷静に物事を考えることができる。
一般的には、そうした人こそ「温厚な人」と思われている。
人間関係には自分の利益が存在する
でも、優しい人や心が広い人は、本当に温厚な人だと言えるのだろうか?
近年は、車のあおり運転やら無差別殺人など事件やトラブルが絶えない世の中だが、なんだかんだいって優しい人や心が広い人のほうが多い。
特に日本人は道を聞けば親切に教えてくれるなど、他人に優しい国として他国からも人気である。
みんな自分に良くしてくれる人と付き合い、自分が気持ちよく関係を築ける人と仲良くし、気の合う人を友達と呼ぶ。
温厚な人はまさに、友達や恋人にぴったりの人間だと思うかもしれない。
でも、肝心なことを忘れてはいけない。
人間関係の根底には少なからず「自分の利益」が存在しているのだ。
温厚な人が社会的に評価されるのは「怒らないから」「優しいから」「心が広いから」である。
しかしそれは、自分の利益に叶う相手だからそう評価しているに過ぎない。
つまり、「自分の利益になる人⇒温厚な人」という解釈になっているのだ。
だから人は温厚な人が好きなのである。
温厚な人とは適切に怒りを用いる人
あくまで私の考えではあるが、本当の温厚な人とは何をされても怒らない人のことではない。
誰にでも優しく、気遣いができ、心が広く、常に笑顔を絶やさない人のことでもない。
人生哲学の祖とも呼べるアリストテレス風に言うと、温厚な人とは「しかるべき人に対して、しかるべき方法で、しかるべき時に、適切に怒る人」である。
温厚な人は怒るべきタイミングを間違えず、本当に必要なときに「怒り」の感情を適切に用いる。
感情に振り回されるのは恋愛や友人関係において致命的となるが、しかるべきときに怒りの感情を使うのは間違いではない。
たとえば、友人が何か間違ったことをして周りに迷惑をかけたり、犯罪に手を染めたとすれば、しっかりと怒りの感情を使って適切に怒る。
「どんなことでも受け止める」というのは聞こえはいいが、それは優しさではなく甘えである。
社会的に評価される優しい人は、何があっても笑顔で受け止め、許してくれる。
でも、長期的に見るとそれは本人のためにはならない。
温厚な人は目の前の優しさを差し出すのではなく、将来のことまで考えた上で、怒りの感情を本人のために使う。
それができる人こそ、本当に温厚な人なのだと思う。
過度な優しさは人をダメにする
優しい人や心が広い人のことを悪く言う人はいないだろう。
優しい性格をしていれば他人からも好かれやすく、友達もたくさん増える。
だから私たちは子どもの頃から、「人には優しくしなさい」と親や学校の先生から教えられる。
でも、優しさは時として人をダメにしてしまうことがある。よく言われるように「甘やかしてばかりいると人はダメになる」のだ。
他人から優しくされすぎたり、何をしても許してもらってばかりいると、どんどん調子に乗って自分に都合のいい人間関係しか求めなくなる。
そして、他人が常に優しい態度で接してくれるのが自分の中の人間関係のデフォルトモードになる。
そうすると、ちょっとでも自分に気に食わないことがあったりキツいことを言われれば、「そんな些細なことで怒るなんて気が小さい」と思うようになる。
「優しい」という言葉を自分に都合よく解釈している人にありがちなことである。
優しさに囲まれている環境では、自分がいかに恵まれているのかがわからなくなってしまう。
それが人を傲慢にし、人間的にも弱くしてしまうのだ。
優しい人は他人の思い通りになる人のこと
「些細なことで怒るなんて気が小さい」という言葉は、自分の思い通りにならなかった言い訳として使われていることが多い。
もちろん、中には本当に些細なことで怒鳴り散らす人もいる。
コンビニにお気に入りのパンが売ってないだけで不機嫌になる人もいるし、電車に乗り遅れてイライラしたり、ちょっと肩がぶつかっただけでイチャモンをつけてくる人もいる。
でも、多くの人は「優しさ」を自分に都合よく解釈し、自分の思い通りのことをしてくれない人は「優しくない」「冷たい」「性格が悪い」とレッテルを張り付ける。
つまり、世間的に優しい人になるためには、他人の思い通りになる必要があるのだ。
他人が期待している行動をし、他人の嫌がることはせず、他人の思い通りに優しく接する。これが世間的な優しい人である。
だけど、「温厚な人」と「優しい人」は違う。
優しい人は他人を甘やかし、人間的にダメにしてしまう可能性があるが、温厚な人は怒りの感情を適切に使うことができる。
他人のために本気で怒れる人こそ、温厚な人なのである。
温厚な人は感情のコントロールが上手い
温厚な人とは適切に怒りを使うことができる人だが、それには感情のコントロールが欠かせない。
アドラー心理学では「怒り」などの感情はコントロールが可能だと言われており、「嫌われる勇気」という本の中で、怒りという感情がコントロール可能である例を見事に描いている。
例えに使われているのは、以下のような状況である。
怒りという感情がコントロール不可能だったなら、電話に出た瞬間に対応を変えることはできない。
この例からわかるように、人は怒りを含めた感情のコントロールが可能であり、感情に振り回されないように対処することもできる。
温厚な人とは、こうした感情のコントロールに長けた人間である。
温厚な人は万人には好かれない
何度も言うが、多くの人は言葉の意味を自分の都合のいいように解釈している人が多い。
「性格がいい」という言葉も、「自分にとって気持ちのいい相手かどうか」で性格の良さを定義している。
それはつまり、温厚な人でも万人にとっては温厚な人とは思われないということである。
でも、温厚な人が温厚な人だと思われないからといって、それは温厚な人に価値がないというわけではない。
たとえ周りからどう思われていようが、温厚な人は人間的に優れている人格者である。
SNSのフォロワーでマウント取りしている人にはわからないかもしれないが、人間的な価値は決して数値化できない。
それと同じく、学歴や職歴、肩書きや地位といったものでも相手の人間性なんてほとんどわからない。
犯罪者のいつも通りの日常を観察していても、その人が犯罪者かどうかはわからないのだ。
人の本当の人間性が表に出るのは、追い詰められたときだけである。
温厚な人は表向きが優しい人のように世間的には評価されないかもしれないが、わかる人はきちんとわかってくれる。
100人の愚者に理解されるよりも、10人の人格者に理解されるほうが価値がある。
温厚さとは人間性
人間と動物が違うのは、人間には自分の感情をコントロールできる理性がある点だ。
欲求や欲望、嫉妬や怒りの感情に振り回されるのは動物と変わりがない。
ライオンには牙が、クマには爪があるように、理性は人間にのみ備わっている武器である。
でも、その武器も普段から磨いておかなければすぐに錆びついてしまう。
温厚な人になるには、自分の感情をコントロールできなければならない。一時の感情に振り回されるのではなく、理性で感情をコントロールする。
中年の大人が欲求や欲望、嫉妬や憎しみといった感情から悪質な事件を起こして捕まったりしているのは、感情のコントロールができないからである。
私たち人間は理性を使って動物から脱皮し、社会の中で生きる者として感情を手懐けなければならない。
温厚さとは、言い換えれば人間性である。
感情を手懐け、冷静に物事を判断し、自分にも他人にも適切な感情を用いることができる人。
温厚な人とは、優しさを履き違えず、感情を適切かつ巧みに利用する、人間性に優れた人なのである。
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