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老人ホームでストーンズを

僕は人並みには音楽好きだと思っている。高校時代(今から 60 年近く前)はロックバンドをやっていたし、楽器もメチャ下手だけどベース、サックス、ギター、三線(あとほんの少しキーボード)ぐらいは少し弾ける。

現在71歳だけど、実は我々の世代には楽器を弾ける人が多い。僕の中学高校時代、つまり昭和40年代前半はビートルズ、ベンチャーズ、そして加山雄三、フォークソングが流行っていたので、それらに憧れて楽器をやるようになった人間が多かったからだ。言わば自分で楽器を演奏する、というパターンが拡がった時代である。これは我々の前の世代にも後の世代にもあまり見受けないような気がする。

当時はフォーク派とエレキ派に分かれていて、私はエレキ派だった。今でもフォークソングはあまり好きじゃない。ただ、エレキ派と言っても大きく分けるとビートルズやストーンズなどのブリティッシュロックとインストゥルメンタルのベンチャーズが好きなグループに分かれていて、僕はビートルズ、ストーンズ派だった。

当時のブリティッシュロックグループはアメリカのブルースやソウルミュージックの影響を大きく受けていて、それらのカバーもよく演奏していた。

そのせいか、僕も次第に60年代のアメリカのソウルミュージックに惹かれていった。今でも一番好きなジャンルはソウルとブルースだ。 

ジェームズ・ブラウンのアルバムで最も好きな一枚。この派手な品の無さがたまらない。
アレサは色々悩むが強いて一枚を挙げればこれ。
この「Aretha Now」は70年代の全てのポップアルバムの中でも、僕の中では間違いなくベスト3に入る

モータウンのような都会の洗練されたソウルも良いけど、やはりどちらかと言えばアトランティック系のコテコテのソウルが好き。
アーティストで言えばジェームズ・ブラウン、アレサ・フランクリンが双璧で、少し遅れてダイアナ・ロス、マーヴィン・ゲイ、スティービー・ワンダーといったモータウン勢が続く。

そんな中で白人男性歌手の Billy Vera と黒人女性ゴスペルシンガーの Judy Clay がデュエットした「Storybook children」という曲がある。いかにも 60 年代後半のソウルバラードで、高校の頃、レコードを買って持っていたのだが、学生時代、お金がなくて、その他諸々のレコードと一緒に売ってしまった。

ジュディ・クレイはもう亡くなってしまったが、これは間違いなく名盤

40 歳ぐらいになって、どうしてもこの曲が聴きたくなったが、当時は iTunes も Spotify も無い時代。東京中のレコード屋、CD ショップを時間があれば探し歩いたがどこにも売ってなかった。

あきらめかけていた時、1998 年、僕が 46 歳の時にアメリカに amazon というサービスがあることを知った。

本や CD を通販で買えるということだったので、試しにこの「Storybook Children」を検索したら、一発で出てきた。すぐにアカウントを作ってクレジットカードを登録し、注文したら 3 週間で家に届いた。

それまで 5~6 年の間、大型 CD ショップを回っても見つからなかった盤だ。正直言って素直に感動した。もしその時(1998 年)にアメリカで上場間もない amazon の株を買っていたら、その後高値は 3 千倍になっている。もし10万円で買っていれば3億円だ。

もちろん買ってはいないし、むしろ買わなくて良かったと思っている。もし買っていたら恐らく 2 倍ぐらいになった時点で、大喜びで売っていただろう(笑)。買わなくて 3 千倍になったから笑い話でいられるが、もし買って 2 倍で売っていたら、恐らく一生悔やんでも悔やみきれないところだ。

マーケティングの観点で言えば、モータウンのような白人でも親しめる曲風の方がビジネスとしては成功するだろう。事実、ベリー・ゴーディ Jr.はポップミュージックの世界では大成功を収めた。

モータウンの興隆を描いたドキュメンタリー的な映画

でも僕はモータウンのような計算され尽くした美よりも、モダンになろうとしてなりきれない純粋の黒人音楽が好きなのだ。共感してくれる人がいれば嬉しい。 

音楽の好みというのはあまり変わらないものだ。いずれ自分が高齢者施設に入ることになっても童謡なんか歌わされるのだけは勘弁してほしい。ストーンズやジェームズ・ブラウンを歌わせてくれる高齢者施設ならいくらお金を出しても入りたい。


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