壮麗と孤高の国
#どこでも住めるとしたら
私はアイスランドに住みたい。
アイスランドへの憧れが始まったのは祖母が見せてくれた葉書。日本にはない大きな崖が両端に見え、その間には急流がある。川のそばには苔が美味しぎり、普段目にするものよりも濃い緑をしていた。触れれば壊れてしまいそうな冬の朝の空気が、そこには広がっていた。幼い頃の私はそれに心揺さぶられ、いつかアイスランドに行ってこの美しい風景の中に飛び込んでみたいと夢見ていた。
そんな思い出を記憶の彼方から引き摺り出したのは、「北北西に雲と往け」という漫画に出会ったことがきっかけだ。美しくも冷酷なアイスランドの自然を繊細なタッチで描いており、漫画の中の自然は生き物そのものだ。主人公とその旅路を見守り続けるアイスランドという島の大自然は互いに呼応し合い、そして自然は人間に生きる権利を与えている風に私の目には映った。それは人工物がこの地上に溢れる以前にあった自然と人間の密約のようなものを垣間見ているような気さえ私に起こさせた。特に私は苔と岩のタッチが好き。そういえば祖母の葉書を見て最初に目についたのは苔だった。森の中というより野晒しで地平線の向こうまで見えるような場所で、冷たい風に耐え忍ぶ苔がカッコ良く映る。
なんだかここまで書いてみたけれど、ありきたりな言葉でしか今の自分を語ることができない。場所を変えたい。どこか遠くへ行きたい。そういう思いが強くなるたびにアイスランドが広がる。私にとってアイスランドは遠い世界で、行ったことがない故に心の逃避場所としてあるのかもしれない。
しかしやはりは私はアイスランドの地を踏みたい。心象ではなく、現実の。
そしてそこで生活する人たちや自然の思考に寄り添いたい。内部ではなく、私の外部にある世界に触れ続けたい。
私はそのためにアイスランドに住みたい。