いちごジャムを煮ながら考えること
スーパーでいちごが安かった。
2パック分の徳用サイズで500円。
帰って半分ジャムにしようか、と購入を決める。
一番おいしそうなの選んだよ、と夫。
どれも変わらないのでは、と思いつつ、
「ほんとだ、ありがとう」と受け取ってカゴに入れる。
私はいつものお決まり程度にしか思っていないけど、
夫は本気で「これが一番美味しそう」と思っているのだ。毎回。
微笑ましい人だなと思う。
次の日の昼、冷蔵庫に放置されたままのいちごを手に台所に立つ。
「○○作ろう」と提案があるものの
それを実行するのは私の係なのだ。毎回。
まぁ、私も賛成に票を投じた身なので仕方がない。
スマホでレシピを調べて、材料を集める。
いちごと砂糖とレモン汁。
ごろごろとボウルの中でいちごを洗う。
続いて、ヘタを指先でむんずとちぎり取る。
包丁で切ったりなんかはしない。
鍋にいちごを並べて、鍋ごとはかりに乗せて、砂糖をどんどん入れる。
予定より5グラムくらいオーバーしたけど気にしない。
砂糖がとけるまで、放置する。
この間は、息子を抱っこしてあやす。
着替えたばかりのパーカーの肩口が冷たい。
つい最近まで横抱きだったのに、もう縦抱っこだもんなぁ。
子どもの成長速度を噛み締めながら、少し大きいスタイを付けなおす。
数十分もすると砂糖がとけているので、
いよいよ鍋を火にかける。
はじめは中火、煮立ったら弱火でくつくつ。
部屋中に甘酸っぱい香りが立ち込めると、
外国の、小さいけれど綺麗に整えられた庭がある家の、ほどよく乱雑なキッチンに立っている気分になる。一瞬だけ。
見慣れた自宅台所の引き出しから、お玉と木べらをだす。時折、アクをすくってやって、こげないようにゆったり混ぜる。
鍋の中はいちごの水分だけのはずなのに、
火をいれるとけっこうシャバシャバになるので煮詰まるのには案外時間がかかる。
この時間が、いい。
やることといえばお玉と木べらを交互に動かすくらい。
かといって目を離すわけにはいかないので
鍋の中をじーっと見張る。
このとき、頭の中は別の場所にいる。
息子は何時にミルクを飲んだっけなとか
夫が花見に行きたいと言っていたのはどこだっけとか
外は晴れてて花粉がとんでそうだとか
今日こそは早く寝るぞとか
そろそろ爪を切りたいなとか
そういう、なんでもないことを、ぼーっと考えられるから、私は料理が好きだ。料理が好きというか、料理に集中して、他のことをぼんやり考えているあの感覚が好きなのだ。
このところ料理といえば、息子がぐずりだす前にちゃちゃっとできるものばかりで、時間をかけるとは真逆だった。
というか、「何かに集中すること」自体
息子を出産してからほとんどなかったのでは…?
そこまで考えて、慌ててレモン汁を入れて火を止める。危うく黒々しいジャムになるところだった。
熱いうちに瓶に入れ、入りきらなかったぶんは明日の朝食用に小皿にあける。
ここで完成を嗅ぎつけた我が家の提案大臣がやってくるので、まだ洗う前の木べらを味見として差し出す。
「濃いー!」と興奮する夫と、
抱っこされながら不思議そうに父を眺める息子。
今はこの2人との時間に集中できればいいか、
と私に提案。
可決して、今日のお散歩ルートの決議に向かった。
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