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ドキドキする気持ち/青春物語2
21時近くになると社内の人たちはそれぞれ帰り始めた。
ひとつ、またひとつと部署の明かりが消えていった。
永尾さんは戸締りに行ったまま、まだ戻っていなかった。
1階のショールームを始め、2階の7つの部署、第一応接室、第二応接室、第三応接室、
3階のA会議室、B会議室、C会議室、
資料室、食堂、給湯室、男女トイレ、すべて隈なく確認しているのだろう。
私はパソコンから離れて、受付の後ろの自分の席に戻ると彼が点検ファイルを抱えて走って来た。
「仕事、片付いた?」
「まだです。だってこんなに請求書があるんだもの。今月からコンピューター管理になって、てんてこ舞いです」
「そうなんだ?コンピューターって難しいでしょ?」
「みんな初めての試みだから戸惑っているんです。でも今月を乗り越えれば来月から処理が楽になるんですよ」
「それって東京本社と繋がっているってヤツ?」
「そうそう。本社と全支社が繋がっているとか。支社間が一目瞭然ですよね」
「じゃあ俺たちの営業成績もすぐわかるんだ?」
「今、誰がサボっているのか社長にすぐわかるそうですよ」
「えっホント?そんなにそれ、凄いの?」
「ウソに決まってるじゃないですか。そんなのわかるわけないです。わかるのは数字だけですよ」
そう言って私は笑った。
いつの間にか社内には誰もいなくなっていた。
「すぐ着替えてくるから戸締り、待ってて下さい」
私はそう言いながら3階の更衣室へ向かった。
急いで着替え、裏口へと続く階段を一気に駆け下りた。
そこにはすでに彼が鍵を片手に立っていた。
「すいません」
「大丈夫だよ」
彼はそう言って私の頭をポンと叩いた。
「ねぇ、バスあるの?」
「はい、まだ22時前だから大丈夫。永尾さんは男子寮ですよね?」
「そう、そこの。送っても行けないね」
「そんなこといいですよ。じゃあ、おやすみなさい」
「バス停まで一緒に行こうか?」
「大丈夫ですよ。目の前だもの」
「じゃあ、気をつけて。おやすみ」
バス停に着いてすぐ、後方からバスがやって来るのが見えた。
そのバスが近づいた時、会社前で彼が手を振って立っているのがライトに映し出された。
「あっ」
私は小さな声を上げた。
バスが来るまで彼が見守ってくれていたのかと思うと、またドキドキが止まらなかった。
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