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Vol.26 ベイ・シティ・ローラーズ

70年代に日本で洋楽が大きなブームになった背景のひとつにアイドルバンドの存在があります。
スコットランド出身のベイ・シティ・ローラーズはその代表格と言えるバンドで当時はティーンエージャーを中心に社会現象レベルの人気を博していました。
タータンチェックというスコットランドの伝統文化が日本で認知されたのは間違いなく彼らの功績です。

ティーンエージャーをターゲットにして演奏力やよりもビジュアルやムードを優先するいわゆる「ボーイバンド」と言われるジャンルですが、これには60年代後半のアメリカでモンキーズという成功例があって、彼らがフロンティアというわけではありません。
ただ70年代の世界的「ローラーズブーム」はこういったロックバンドのあり方のひとつを確立したといえるほど大きなものでした。

甘いルックスに「楽器が出来る」という付加価値を与えることで「一味違うカッコいい男の子」としての存在感や個性を演出する。そしてそれを追いかけるワタシ(ボク)って最先端だな、とファンに感じさせる。
顧客をターゲティングするには非常に効果的な手法であって、80年代以降も同じようなようなブームはいくつかありましたし、いまでもある程度は通用しています。
ただ、最近はありとあらゆるメディアがあふれる時代ですから、女の子・男の子たちもこういった「大人の仕掛け」に簡単にハマらないようになってきているようにも感じます。演奏でもダンスでもあまりにレベルが低いとそっぽを向かれてしまう。仕掛ける大人もしっかりせねばなりません。
文化レベルの熟成。たいへん良いことです。

初期のベイ・シティ・ローラーズはおそらく演奏能力もそれほど高くなかったでしょうから(楽器が全然できないというわけではないでしょうが)レコーディングは別人だったと思います。テレビ出演はもちろん、ライブですらカラオケや口パクもかなりあったはずです。まあ当時のファンにはそんなことどうでもよかったわけですが。
とはいえ彼らはとてもキャッチーな曲を数多く生んでいますし、ビジュアル演出とも見事にマッチしていて今見てもなかなかの完成度です。とても独特な古き良き70年代の雰囲気を感じます。

70年代後半になると彼らも徐々にスキルを上げ音楽性を追求するようになります(この頃のベイ・シティ・ローラーズを高く評価する声もあります)。ところが楽曲の完成度が上がるとともに人気は下がっていくことになります。
旬を過ぎたと言ってしまえばそれまでですが、これは「アーティストのやりたいこと」と「ファンの求めるもの」は違うのだ、という非常に残酷な例だとも言えます。

ポピュラー音楽(あるいは映画や演劇も)とはいえ芸術のひとつですから、売れれば良いというわけではないですが、売れたものにはそれなりの理由があります。
作品としての完成度というのはテクニックや芸術性だけではなく、その時代の求める空気感など多くの要素が奇跡的なレベルでマッチしたときに生まれるものなのかもしれません。


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