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南の島も笑ってる 第1回
新連載始めます。
1994年にオーストラリアへ単身乗り込んだ平凡な1大学生は無事に帰国した後大学を卒業し、東京のとある会社に就職。
社会の荒波に多少揉まれながらもお気楽なサラリーマン生活を送っておりました。
今回はそれから4年後、1998年の夏のお話です。
舞台は沖縄となります。
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「だから沖縄なわけですよ」
東京・池袋のとある居酒屋。
目の前には大学時代の先輩であるエガミさん。通称エガさんが座っている。
今日は6月とは思えない暑い1日だった。
俺たちは生ビールをぐいぐいと飲み、塩辛をつつき、焼き鳥を食べながら来たる夏の話をしていた。
京都の大学を卒業した俺はとある外資系のメーカーで働き始めた。
紆余曲折あって今は東京に住んでいる。社会人になって5年目、社会人生活にもすっかり慣れ、忙しくもそれなりに充実した日々を過ごしていた。
この頃、独身の気楽さで稼いだお金は好きに使っていた。
もらった夏のボーナスは全て夏休みの旅行につぎ込む。行先は再訪を誓ったオーストラリアではなく日本国内。各地の離島を巡るというのがなぜか毎年の恒例になっていた。
そして昨年訪問したのが沖縄の端っこに位置する西表島であった。
「島のほとんどがジャングルで覆われているらしい、幻のヤマネコも一度は見てみたいな。」
その程度の認識しかなく、東京から離れているという理由だけでぶらっと訪れた1人旅だったが、西表島はそんな隙だらけの俺に対し、圧倒的な大自然が醸し出す迫力に満ちた存在感をぶつけてきた。
大自然に包まれるというより、大自然に攻められるという表現がぴったり。
島に蹴られ、殴られ、極められ、俺は西表という島にすっかりやられてしまい、東京へと送り返されたのであった。
「うーん、これはいかん。島に対して失礼であった。今度行くときはコンディションを万全に整え、心してかからねばなるまい。」
・・・やや大げさな表現ではあるが、その「今度」が早くも翌年に巡ってきたという次第である。
そして理由は後述するが、今回は同行者を連れて行かなければならない理由があった。それが今回の旅最大の目的に大きく関わっていた。
そこで俺が白羽の矢を立てたのが、大学時代同じサークルに所属していた、同い年だけど学年的には1つ上のエガミさん、通称エガさんである。
サークル内でも屈指の軟弱者で通っていたエガさん、趣味は麻雀、競馬、モルモットの世話。大阪のど真ん中に実家があり、生粋の大阪人らしく手よりも口が先に動く人。
どちらかというと冒険旅行とは対極に位置する人ではあったが、この際贅沢は言っていられない。
「南の楽園」「リゾート」「トロピカルジュース」「パイナップル」「白い砂浜と青い海」「ビーチには青木裕子似の美女」 なのです!
俺は塩辛をつつきながら、思いつく限りの沖縄を飾るポジティブなワードを繰り広げ、沖縄の魅力を語り、説得にあたった。
そして「まあ、南の島で過ごすのも悪くないかもな」という言葉を引き出すことに成功したのである。
よっしゃ!これで「目的」を達成することができる。
本当は西表島に青木裕子似の水着美女などいない、というか女の子はこの島には来ないのだが、連れて行ってしまえばこっちのものである。
日程も決まった。前半の5日間は西表島に滞在、テントを持参し現地のキャンプ場でキャンプを行う。
後半3日は、さすがに観光地も回りたいというエガさんの希望もあり、沖縄本島で過ごすことにした。
7泊8日の旅程である。
準備は整った。
8月某日、エガさんと俺はそれぞれの期待を胸に羽田空港を飛び立ったのである。
(続く)