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南の島も笑ってる 第11回

終わったと思っていた西表島縦断ハイクですが、まだまだ続きがありました。
今回は自分のやったことなのに書いてて興奮してきました。
これだけしこたま歩いてから、宿じゃなくてテントに帰って寝るんだから。。。今目の前に本人がいたら「何してんのお前!?」って笑顔で聞いてしまうかもしれません。

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登山道の終点に着いた。
あとは集落まで歩いて、そこでバスなりタクシーに乗ればキャンプ場まで帰れる。我々は今、島の南側、キャンプ場のある浜辺とは真逆の場所にいるのである。地図によると最寄りの大富という集落までは徒歩で2時間とあった。結構あるなと思ったが、なんたって登山道を抜けた以上もう着いたも同然であろう。さっきまでとはうって変わって車が1台くらい通れるような整備された広い道を、これまたうって変わったようにはしゃぎながら歩いていく我々であった。

途中に簡素な展望台とこぢんまりとした休憩所があった。
そこからは島の北から南に向かって流れている仲間川とその周りのジャングルがよく見えた。
隣接している休憩所の壁には落書きがいっぱいしてある。そのどれもが島縦断成功の達成感に満ち溢れたものであったが、ほとんどが「○○大学探検部 踏破!」だの「○○山岳会○月○日縦断成功!」といった猛者ばかり。我々のような軟弱サラリーマンが踏破したという書き込みはどこにもなかった。探検部が喜ぶような屈指の難所を一日で踏破してしまった。どうやら結構すごいことをしてしまったようである。
ところが上には上がいるもので「3年連続3度目の縦断成功!」なんて書き込みもあった。あんな道を懲りずに3回も歩くとはとんでもない冒険野郎もいたものである。

展望台を後にしなおも歩いていった我々であったが、目指す集落がなかなか見えてこないことに焦りを感じてきていた。口数も次第に少なくなってくる。道は少しずつ広く、良くはなってきているのだが、相変わらず人気というものが全くない。生き物と言えばイノシシに会ったぐらいである。そして我々の不安をさらにあおるように辺りがどんどん暗くなってきた。恐れていた夜がもう間近に迫っていた。
やはり一日で踏破することに無理があったのだろうか?
特にエガさんの疲労ははなはだしかった。エガさんは山中の驚異的なスピードで既に体力、気力を使い果たしていた。足も相当痛そうである。「もうあかん」「タクシー呼ぼうや」そんな弱音ばかりが聞こえるようになってきた。
俺は山中での苦しさに比べれば多少元気ではあったが、それでもエガさんの気持ちはよくわかる。タクシーを呼びたかったが、こんな場所ではどうしようもない。集落まで歩くしかなかった。

沖縄特有の形をした墓石の並ぶ墓地を抜けると、いつしか道は舗装路になっていた。あたりはもうすっかり真っ暗である。それでも周囲に人家は見えない。畑が広がるばかりである。
長く伸びたきれいな農道を、ボロボロの体を引きずりながらとぼとぼと歩く2人。するとその背後に小さな光がポツンと現れた。
これは、もしやあれか?
我々の淡い期待に応えるかのようにその光はどんどん大きくなっていく。それは我々にとっての希望の光であった。その軽トラは一瞬我々の横を通り過ぎていったが、少し離れたところで止まってくれた。
我々は叫び声をあげながら車に向かって走っていった。
その時俺は、猿岩石やドロンズがヒッチハイクで車を捕まえた時の気持ちはこんなだったんだろうなとなぜか考えていた。

軽トラのおっちゃんは親切な人で、大富まで乗せてあげるよと言ってくれた。
車の荷台に乗せてもらった。風が気持ちいい。しばらく走ると街の明かりが少しずつ見えてきた。大富集落が現れてきた。
売店の前で降ろしてもらうと、目の前はすぐ海だった。
それが今度こそ、本当にこの西表島縦断ハイクの終わりであった。総時間10時間、長い長い道のりの果てにようやっと我々はこの島を縦断することに成功したのである。

帰りのタクシーを待つ間、売店でオリオンビールを買い乾杯した。
500mlの缶ビールを文字通り一気に飲み干した。
この前にも後にも大量のビールを飲んできた人生であったが、未だにこれ以上の美味しいビールを飲んだことは、ない。

(続く)

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