高校の文芸誌的なのに載せたやつ
「もし私が明日死ぬって言ったらどうする?」
親友の問いはいつも突然で恐ろしい。
「何、いじめでもあるの?」
親友と私は別のクラスだし講座も違う。だからお互いの日常はあまり理解してない。
「いや、少し退屈」
美味しそうな昼ごはんを食べながら死んだ目でしゃべっている。
「死ぬ、ねぇ」
退屈だったら楽しいことを探せばいい。
でも彼女にとって退屈とは探し尽くした退屈かもしれない。
「死んだらどうなるんだろうね」
そう言った親友は、携帯を取り出し推しの動画を見てたから、明日死ぬことはないだろうと思った。
「死んだら、何も残らない気がする」
つい先日倫理で学んだことなのだがschool とは閑暇という意味をもつ「スコレー」から来てるらしい。
先生は言った。
「みんなは暇だから学校に来てるんだよ」
そして、暇な先祖は「対話」をし、学を広げていった。
もしかしたら、この親友との死についての会話も、学を広げて、倫理の教科書に載って行くかもしれない。
ソクラテスは自分の思想を書いたいわゆる書物は残さず、対話でのみ学を広げ、それを聞いたりした弟子などが書物に残したらしい。
先生が喋って、生徒はノートを取る。
もし、ソクラテスがこれを見たらどう思うのかな。
親友が疑問を呈し、私がそれについて言葉を発している昼休みを見て、拍手とかしてくれないかな。
なんて思っていたら、昼が終わるから帰れと言っているようなチャイムが鳴った。
「死んだらさ」
推しを見てたからか、少し輝きを戻した親友が喋る。
「推しに会えない」
そんなの常識だわ。
なんて言いたかったけど、これが親友にとっての学なんだろうな、って思ったら、
笑みがこぼれた。
今の私から一言:私この時死にたいなんて思ってなかったんだ。
「ピアス開ける時ってさ」
彼女の見慣れない短い髪が風に揺れている中、太陽の光に照らされて耳たぶが少し光る。
「痛かった?」
「失恋に比べたら、全然」
幼馴染は最近振られた。
3歳上の見た目悪そうな男に。
振られた理由は、君が受験生にだから。
と聞いたが、僕はつい先日、その男が君と正反対の露出女と歩いてるのを見た。
つい先日まで君は典型的な文学少女という感じだったが、失恋した途端、髪をバッサリ切り、ピアスなんて開けてきた。
でも、コンタクトだけは怖くてまだできないらしい。僕にとっては耳に穴を空ける方が恐ろしいと思うのだが。
「まあいいじゃん、これで勉強に打ち込める」
「煌夏爛漫できないじゃん」
窓にかかったカーテンを2人でかぶりながら、
ダンス部の踊りを見る。
「煌夏爛漫ねぇ…」
煌夏爛漫、桜花爛漫の最初の2つだけ変えた
今年の文化祭のスローガン。
桜花爛漫の意味が、満開の桜の花が、みごとに咲き乱れているさま。また、非常に明るく華やかなさま。
なら、煌夏爛漫の意味は、きっと、
「僕とだったら煌夏爛漫できるんじゃない?」
カーテンが少し大きく揺れて、また耳たぶを輝かせる。
「え、なにそれ。インキャの代表みたいな君と?」
「つい先日まで、君もインキャ文学少女だったじゃん」
そんな君が好きだったけど。
「えー。たしかにチャラ男にはこりごりだけど、インキャは嫌だ。自分見てるみたいだもん」
そう言って、いたずらに笑う。
ヨウキャ少女の君も好きだと気づく。
別に僕だってインキャになりたくてインキャになったわけじゃない。
君に近づきたかっただけ。
「じゃあ、明日びっくりすんなよ?」
本当はピアスの痛さなんで知ってるし、コンタクトレンズは案外怖くないことだって知ってる。ボサボサの髪をいかに遊ばせるかのコツもだって。まあ全部あのクソチャラ男兄貴のせいだが。だが、振ってくれてよかった。
それに幸運なことになぜか、チャラ男の弟ともバレてない。顔もほぼ前髪で隠してるし、バレようがないか?
「よっ」
朝早い教室に入り、本を読む君に声をかける
「…誰?」
「インキャの代表」
「いや、見たことある」
「お前が好きだった人」
「…苗字一緒じゃん」
「いつバレるかヒヤヒヤした」
なにかが我慢できなくなったのか、君は不気味な笑い声を発し始めた。
「あー…最悪」
「まあ、気まづいだろ」
「いや、そうじゃなくて」
「めっちゃどタイプ、付き合お?」
なんだこいつアホかよ。
ツッコミを入れるようにカーテンがまた揺れた
今の私から一言:いや夢見すぎ