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ホテルで栄養循環。天神LFCは、お客様や社員とのつながりを強固にする活動/ホテルグレートモーニング様

福岡市の中心部、博多・天神エリアで持続可能な食循環の実現を目指す活動「天神LFC」

今回お話を伺ったのは、ホテルグレートモーニングの二枝徳英(よしひで)さん。ホテルグレートモーニングは、2020年から天神LFCの活動に参加し、宿泊するお客様に提供する食事の残さを堆肥化し、屋上のスペースに菜園を作りハーブや野菜を育てることで、栄養循環を実現しています。

二枝徳英さん(写真左)。ホテルグレートモーニングの入り口前で

なぜ会社としてコンポストに取り組もうと思ったのか、活動を始めて起こった変化などについてお話しいただきました。


環境配慮や健康などホテルが大切にしているコンセプトに沿う活動だった


——ホテルグレートモーニングでコンポストに取り組むこととなったきっかけを教えてください。

二枝さん:2019年の年末にローカルフードサイクリング代表のたいらさんと知り合う機会がありました。当時はまだ、たいらさんがどんな取組みをされているのかを存じ上げていなかったのですが、当ホテルの取組みやこだわりについてお話しする中で、ホテルで出す食事の残さの話になったんですね。

その話題をきっかけに、日本のフードロスの状況やたいらさんがこれまでに取り組まれてきたコンポストのことを教えていただきました。

私たちのホテルは全25室。決して室数が多いわけではありませんし、食事のご提供は朝食のみですが、それでも毎日1kgほどを生ごみとして廃棄していました。もったいないなと感じてはいましたが、ほかに何ができるかも分からないといった状況がずっと続いていたので、たいらさんのお話を聞いてぜひホテルとして取り組みたいと思ったんです。

私たちホテルグレートモーニングでは環境配慮や健康を大切なテーマとしており、フードロスについても知った以上は無視する選択肢はなく、ホテルとして取り組むべきことだと自然と思いました

コンポストとプランター設置は2020年4月のこと。ホテルとしてオリジナル商品の開発など色々な企画を進めていますが、実施を決めてからスタートまで非常に短い期間で実現できたと思っています。

堆肥と土を混ぜたプランターにハーブを植えた
2020年4月のプランター設置作業終了時に、天神LFCのメンバーと


育てた野菜やハーブを喜んでくれる顔が見れること


——現在、ホテルグレートモーニングでの栄養循環の取組みを詳しく教えていただけますか。

バックヤードに設置したコンポストに、毎日出る残さを入れています。できた堆肥は屋上にあるプランターで活用します。屋上にはプランターを12基を設置していて、季節ごとの野菜やハーブを育てています。

育てたハーブはお客様に提供するウェルカムドリンクに使用しています。夏はたっぷりとフレッシュで使用して、冬は夏場に乾燥させておいたハーブを使ってホットのハーブティとしてお出ししています。

博多のど真ん中に広がる屋上菜園では、無農薬のハーブや野菜が育つ

——お客様の反応はいかがですか?

喜んでいただいています。正直にお話しすると、私自身、以前はハーブティをおいしいと思ったことはなかったんですが(笑)、取れたてのハーブを贅沢に使ったフレッシュハーブティは本当においしいんですよ。

ウェルカムドリンクはフロントのスタッフからお客様へサーブしていますが、その際にコンポストのこと、屋上菜園のことをお話しすると、コンポストをご存知の方は喜んでくださるし、知らない方は興味を持ってくださいます。

私自身も以前はフードロスの現状や「コンポスト」について知らなかったので、たいらさんが私に与えてくださったようなきっかけになればという思いで、ホテルのエレベーター内でLFCコンポストや弊社の取り組みなどを紹介しています。そういった小さなきっかけから、コミュニケーションが生まれ、お客様との関係が築ける点をとても魅力に感じています。

——ありがとうございます。お客様の反応を直接見られるのは嬉しいですね。

本当にそうですね。自分たちで育てたものをお客様にご提供して、感想や反応を目の前で受け取れるのは、宿泊業の良いところだと思います。この取り組みを継続できているのはスタッフも一生懸命に取り組んでいるからですが、お客様の反応を見られることでスタッフのモチベーションが保たれているのかもしれないとも思います。そういった意味で宿泊業や飲食店と、コンポストの相性はすごくいいと思いますね。

——野菜はどんなふうに活用されていますか。

葉物野菜はサラダとして提供したり、大葉を焼き魚と一緒に提供したり、根菜類はお味噌汁に使ったり、ピクルスにしています。自然のことなので、根菜類が一気に収穫できることがあります。そんな時はスタッフが持ち帰ることもありますし、近隣の飲食店にお挨拶かたがたお裾分けすることもあり、すごく喜ばれていますね。

——生ごみをコンポストに混ぜるのはどなたが担当されているんですか。

まずは私自身がやろうと決めて、導入から1年ほどは私が担当していました。現在はスタッフみんなでやっています。担当を決めたり、ルールを定めて運用するのはどこか違う気がしていたのですが、結果としてスタッフの自発的な運用として続いているのが嬉しいです。

私たちのホテルが大切にしているコンセプトに共感して集まってくれる方たちなので、フードロスやコンポストにも自然に興味を持ってくれるんだと思います。最近では入社される方にコンポストの使い方もお伝えしていて、少しずつ触れる機会を作っていくような感じですね。

——無理がなく、心地よい順番ですね。

そうですね。コンポストも自然のものですし、野菜ももちろん農薬などを使っていないので、虫に食われてしまったりすることがあります。ただこういった体験も今まで見えていなかっただけで、微生物や小さな生き物が動いて生きているんだと間近で感じられたこと自体が不思議な体験でもありました。これが本来の自然の姿なんだと思うようになりましたね。

——プランターが置かれている屋上には、もともと水道が設置されていなかったと聞きましたが、今はどうされているんですか?

違うフロアからホースを引いて水やりをしています。また、天神LFCのクルーの方からのアドバイスもあって、今後は雨水タンクの活用もチャレンジしてみたいなと思っています。

——天神LFCのメンテナンスクルーからは他にどんなサポートがあるのでしょうか?

基本的に水やりも収穫もホテルのスタッフみんなで行っていて、クルーの方には2週間に一度メンテナンスに来ていただいてます。プランターについては「水が不足気味ですね」とか「この作物が収穫の時期ですよ」といったコメントや、これからどういったものを植えていこうかという相談をしたり、コンポストについては「いい感じですね」とか「混ぜ方をもっとこうするといいですよ」といった、きめ細かいアドバイスをいただいています。

クルーが記入するボードで、プランターの様子や必要な作業がわかる

活動をはじめた頃は、コンポストやプランターの設置だけしてもらえたら、自分たちでもできるのではという気持ちがあったんですが、今はメンテナンスの時にいただけるアドバイスが本当にありがたいなと思っています。身内同士では気づかない部分を優しく笑顔で、でも内容は鋭くご指摘いただいたり、ときどきこれをやってくださいねという宿題をいただいたり。2週間に一度のメンテナンスサポートがあったから今まで続けてこれたのかなと思っています。

今後はもっと自立していけたらと思っていますが、一気に変わろうとするより、少しずつチャレンジしていきたいですね。

コンポストと屋上菜園をはじめたことで生まれた変化


——天神LFCの取組みを始めてから、何か変化はありましたか?

私自身の話になりますが、食材に対する寛容さが出てきたように思います。この活動を始める前の方がもっと安易にオーガニックや無農薬野菜を求めていたと思うんです。小さな面積でも自分でやってみることで、無農薬で野菜やハーブを育てることの難しさを実感しています。オーガニックや無農薬で育てられた野菜のありがたみをこれまで以上に感じますし、それが全てではないなと考えるようになりました。

たとえば、社内で使う野菜を全て自分たちで栽培した野菜で賄えるようにしようとは今も思っていないんですね。それを実現しようとすれば、使いきれない分が出て逆にロスを生んでしまうし、それでは本末転倒ですよね。自分たちで取り組む屋上農園と生産者の方が作るお野菜、両方をいいバランスで取り入れていくのが一番いいのかなと考えています。

——素敵な考え方ですね。

私たちの提供する朝食についても、提供した後のロスはどうしても発生してしまいますが、提供前の段階でのロスは少ないことにも気がつきました。もともとは健康という視点から採用した食材でしたが、生野菜と比べて発酵食品や梅干しはすぐに傷んでしまうものではないですし、日本古来のお味噌や酢などの発酵食品はフードロスが少なくなるような知恵が生かされていたんだなと気づくきっかけにもなりました

ホテルグレートモーニングで提供される和朝食

——普段接する食材への見方が変わっていかれたんですね。

そうなんですよ。少しかじった程度でもこれだけ意識が変わるんだなと自分でも驚いています。なので、これから始めようとする方も、できることからやっていくのが大事だし、それでいいんじゃないかなと思います。

——職場に菜園があることでのリラックス効果などは感じていますか。

あると思います。私たちがコンポストと屋上菜園に取り組み始めた日に、ちょうどコロナの非常事態宣言が出たんですね。お客様の宿泊のない無人のホテルで、一人で水やりをしていたのですが、あの時屋上菜園がなかったらもっと辛かっただろうと思いますね。

水やりや草取りを行う30分は、瞑想に近いようなリラックスした状態になります。業務に追われるだけじゃなくて、植物に向き合う時間で気分が変わりますし、ハーブは特に良い香りがするのでリフレッシュの効果を感じています。

都心では貴重になった、土や緑に触れる体験も日常的になる

植物との時間が自分の大切な価値観を思い出させてくれる


——天神LFCの活動をはじめて4年半。これからどんなことに挑戦していきたいですか。

屋上菜園には希望されるお客様に私たちスタッフが付き添ってご案内していますが、安全面を整えて、屋上農園に気軽に入れて植物と触れ合っていただけるような場所にしていきたいと思っています。

また、この取組みが福岡市内のもっと多くのホテルに広がっていけばいいなと思います。一緒に取組む方が増えていくことで、福岡という街全体の価値が上がるとすごく思うんですよ。東京や大阪のホテル事業者の方から視察したいというご連絡はよくいただくのですが、福岡のホテルの方にももっと気軽にお声掛けいただけたら嬉しいですね。喜んでご案内します。

半期に一度クルーから渡されるソーシャルインパクト通知書、効果が数字でわかる

——福岡市内の屋上に、緑のガーデンが広がっていくと良いですよね。

そうですね。この取組み自体はサステナブルとかフードロスに効果のあるものですが、働く人たちにとってもいいなという実感があるんですね。

仕事のすき間に、屋上の植物と向き合う時間を作る。その時間で自分とも向き合う。福利厚生というわけではないですが、毎日忙しく働く仕事の中に、自然や自分と向き合う時間や場所が必要なんじゃないかと、実際にやっていてすごく感じているんですよね。

特にホテル業はルーティンが多く、運営のルールに沿って効率的に進めていく流れになりがちですが、それとは逆の大切な価値観につながっているように思います。屋上で野菜を作って、収穫して水で洗って、提供する。すごく時間がかかる営みなんですよね。外から買った方が早いじゃないかというご意見もあると思うんですけど、時間やコストといった数字だけで測れない、大事なものがあるように感じています。

価値観とか生き方、本質的にいいものとは何か、自分は何が好きで何を大切にしているか、そういったものを考える機会になっていて、だからこそここで働く人や宿泊先としてこのホテルを選んでくださるお客様との関係性を確かなものにしていく力があるように感じています。ここを選んでくださるお客様や働く人と長く関係を結んでいきたいと考えている宿泊業や企業にとってはすごく相性の良い取り組みだと思います。

——ありがとうございます。あらためてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。


半径2kmの栄養循環、一緒に取り組みませんか?

天神LFCから、栄養循環の輪をより大きくしていくために、活動に参加いただける企業、店舗を募集しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

お問合せ先
天神LFC事務局(NPO法人循環生活研究所)
tenjin.lfc(a)jun-namaken.com
(a)を@に変えて、メールでお問い合わせください。

天神LFCプロジェクトは、NPO循環生活研究所およびローカルフードサイクリング株式会社の共同事業です。


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