ひとりぼっちの街クジラ #シロクマ文芸部
街クジラのピピは抜けるような青空に浮かんだ雲の間を楽しんで泳いでいました。ビルの谷間も自由自在です。この街で生まれ育ったのですから当たり前かもしれません。父クジラも母クジラも、ピピがこうして上手に泳げるようになって、しばらくしてから隣町に引っ越していきました。それからはずっと一人です。少しだけ寂しい時もありました。そんな時は夕焼け空を思う存分泳ぎました。ピピの名前は「薔薇色のほほ」という意味です。だからでしょうか、薔薇色の夕焼け空で泳ぐと元気が出ました。それに、時折、手紙が届きました。街クジラたちはは背中から潮を吹いて手紙を空に書きます。
今日は母クジラからの手紙が届きました。
届いた昆布でお腹いっぱいになってうつらうつらしながら夢を見ました。ピピは日が沈みしっとりと青褐色になった空に浮かんで眠るのです。寝返りを打つたびに星が瞬きます。それは、両親クジラと一緒にくっついたり離れたりして空を泳ぐ夢でした。目を覚ますと、ピピはぽろんと涙をこぼしました。ずっと忘れていたお父さんとお母さんの優しい眼差しと尾びれが触れ合う時の温もりをありありと思い出したからです。もうとっくに大人になってひとり立ちしているのに、しっかりしなくちゃとピピは自分を鼓舞しましたが、そう思えばそう思うほど涙が止まりません。その日は街の天気予報は外れて雨の一日になりました。ピピだってそんな日もあっていいんですよ。草花は雨を喜んでいましたしね。
ある日のことです。こんな手紙が届きました。
差出人の名前は書いてありません。だれかしら、とピピが首を傾げていたその時、尾ひれの方から「よいしょよいしょ」という声を聞きました。その声はだんだん近づいてきます。しばらくすると汗をびっしょりかいた一匹のヤドカリが背中に小瓶を乗せてやってきました。ずいぶんと綺麗な薔薇色のジャムがちょっぴり入っています。便にはラベルが貼ってあり「あかね海ジャム」と書いてありました。小さな頃、眠る前に母クジラが聞かせてくれた人魚のモナミの話をピピは思い出しました。人魚のモナミは海砂糖と波のかけらで海ジャムを作って届けてくれるのです。それを一口で食べるとピピはなんだかうっとりとした気持ちになって、その日はいつも以上に何度も宙返りをしてしまいました。
その晩、ぐっすりと眠っているピピに「やってきたよ」という囁きが聞こえました。目を覚ますと、満点の星空から、たくさんの流れ星が降ってきます。一匹のキリンがニコニコとこちらにやってきてこういいました。「僕、星キリン、友達になれるかな?」と。
翌朝の街の新聞の片隅には、昨夜天文台では10年ぶりにキリン座流星群が観測されたと、小さく載っておりました。
🐳
小牧部長、今週もありがとうございます。
街くじらが泳いでいるところが目に浮かんできて、空ばかり眺めています。
6月のシロクマ文芸部活動録
そして、海ジャムの話はこちらから。本当は銀河売りのハヤトさんも出してあげたかったのですが、無理があってやめました。なんとなくこの三つは三部作です。(アンケートがあったから)
毎週、シロクマ文芸部の作品を書くのは、わたしのチャレンジです。
それまで定期的に物語を書いたことはなかったので、これからも続けていきたいです。
いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。