涙月 #シロクマ文芸部
今朝の月はびしゃびしゃで帰ってきた。
子気味良いくらいの雨がアスファルトを跳ね返ってあっという間に水溜りができていく。その雨の粒が、まるで宝石のように綺麗で、子どもの頃そういえばよく水溜まりを覗き込んだ。そこには、黄色い傘をさしたおかっぱアタマの私が映っているだけだったけれど、飽きもせず雨が降るたびに同じことをしていた。
電気を落とし、私がうとうとと仕掛けた深夜0時前に、月は黙ってどこかへ出掛けて行った。心配だけど、眠気の方が優っていたから、そのまま寝てしまった。明け方4時に目を覚ましても、いつも隣にいるはずの月がいない。それからは心配で玄関ドアを開けたり閉めたり、窓から外を眺めてみたり、そうこうするうちに夜が静かに、けれどキッパリと身を潜めた。そこに朝立ちが降る。早朝の街は、この世の中に私ひとりぼっちなのかもしれないと錯覚してしまうほどひとの気配を感じない。雨の日はなおさらだ。
だって、まだ朝は来たばかりだもの
孤独に腰掛けて、水溜りの向こう側の世界へのドアを探していると、月が帰ってきた。びしょびしょの体で私に擦り寄ってくる。
やめて、あっち行ってよ
と言っても、無視してくっついてくる。仕方ないので、バスタオルでわさわさと拭いてあげる。ぶるんっと身震いして、こちらに水飛沫まで飛ばしてくる。
ねえ、もう勝手に一人で出かけるのやめてよ。
知らん顔してキッチンに入っていく。もう白い靴下は乾いたのか、脱ぐ気はないみたい。何してたんだか。
ねえ、月、誰かに会いに行ったの?
私を捨てるつもりなの?
月は何も言わない。こちらをじっと見つめるだけ。まんまるの瞳に吸い込まれそう。
ひどいオトコ!
ここまで言ったところで、涙がポロポロとこぼれ落ちた。月は近づいてきて罪滅ぼしのように離れない。そうして珍しくにゃ〜んと小さく鳴いた。
三ヶ月前、本物のひどい男が出ていった。それと入れ替わりにやってきたのが月だった。あの頃は、私は嫌なことがあっても黙ってニコニコとしていた。そうすればいつかは彼が私だけをみてくれると馬鹿みたいに信じていた。そうして、とうとう、私は捨てられた。月に文句を言いながら、言いたいこと言えばいいんじゃん、と思った。それでダメな方がなんかいいんじゃない?と。
我慢なんて次のゴミの日に出してしまおう。あの人の残していった荷物と一緒に。
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小牧部長、滑り込みセーフ(あれ、アウトかも)よろしくお願いします。
思考能力が著しく低下中のため、タイトルがうまくつきませんでした。
後ほどつけ直すかもしれません。