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今あえてT1 2ndを選ぶ

生産が終了して久しいBeyerdynamicのT1 2nd Generationを購入しました。
大変な名機で、今更私が何か書くことはないかなとは思いましたが、時折中古品をお値打ち価格で見かけることがあるので、後継機種の3rdが登場し、ベイヤーというメーカーが大きく方向転換した今あえて紹介することにします。

初代T1は2009年頃の登場だったと思います。
当時は今ほど高価なヘッドホンは多くなく、K701やHD650が5,6万くらいでハイエンドと呼ばれた時代に、プロ向けモニターで10万円というのは大変なインパクトがありました。

その5,6年後にT1をベースにした後継機種、T1 2nd Generationが登場します。

昨年2020年、3rd Generationが大変な期待の中登場し、多くの人がそのサウンドの変化に戸惑ったことと思います。


近年ヘッドホンの高級化が進み、10万円を超えるモデルも珍しくなりましたが、T1, HD800,820, K812は今でも根強い人気を誇っています。

私個人としては、上記3モデルの登場で、所謂リファレンスのモニターヘッドホンというものの歴史には、一区切りついたのかなと思います。

10年ほど前、K701,612やDT880がしのぎを削っていた頃、DENONやウルトラゾーンのような家庭用高級ヘッドホンを除けば、どのモデルも「如何に原音を忠実に鳴らすか」というところを目指していたように思います。
T1、そしてK812やHD800の登場で、原音の再生表現はこれ以上ないところまで到達したと感じます。これらのモデルは、プロ用業務用機器メーカーが数十年とかけて開発してきたラインの、一つの到達点なのかなと感じます。
ここから先は、ハウジング内の音周りをうまく使ったり、Hifimanにみられるようなヘッドホン内で倍音を付加したりすることでより表現力を際立たせるような、気持ちよく音楽を聞くためのオーディオライクな部分で差がでてきます。


Beyerdynamicは元々、バリバリのスタジオ機器メーカーで、DT〜等の非常に評価の高いモニターヘッドホン作ってきました。
家庭向けのモデルもありましたが、数年前から開発の主軸がホームオーディオ向け製品に移ったようで、それまでアルファベットと数字だったモデル名も、Amiron等色々と名前が付くようになりました。
ゼンハイザーのように、ゲーマー向けのヘッドセットもリリースする等、経営的に苦しむ音響メーカーが多い中かなり上手に立ち回っている感じがします。

T1の3rdが出た際にも、そういった会社の方向性からか、大幅にサウンドチューニングが変わりました。
T1のサウンドは、非常に広大な音場を持つHD800系や、上から下まで音がきっちり出揃い、360度すべての方向から音がでてくる、如何にもヘッドホンな鳴り方をするK812とは違います。
音像は自分の全面に展開し、縦の音場は狭く、吸音材の敷かれた録音ルームの音をレコスタのモニタースピーカーで聴いているのと同じ雰囲気を感じます。

モニターヘッドホンと一口に言ってもレコーディングの際にクリップやオケを聞くためのものなのか、野外収録のモニターバック用途なのか Mix時にバランスやノイズを見るためのものなのかで全然違います。

T1は恐らくMixやマスタリングの時、スピーカーの補助として使うことを想定されたものだと思います。
原音の再生表現はピカイチで、原音の以上の音は絶対に出ない、音楽を聞くとエンジニアの意図が見えやすく、どんなジャンルの音楽でも破綻することなくT1というスタジオブースに詰められた音楽を聞くことができます。
インピーダンスが非常に大きく、出力さえ確保できれば出音がアンプの種類に左右されにくいという特徴もあります。機材が変わっても、慣れ親しんだ音で作業できるというのは大きな事です

K812も再生コンセプトは非常に似ています。ただあちらはヘッドホンらしく頭の後ろまで回り込んでくる感じなので、またキャラクターは違った感じです。
2ndまでのT1は、非常にきれいに抜けるような高音が特徴で、ピアノやドラムのアタック感の表現は素晴らしく、非常に生っぽく聴こえます。
反面低音は見えるものの全く響かず、一聴しただけでは非常に腰高な感じに聞こえます。
K812は上から下まで非常に幅広く聞こえます。音の真ん中に自分が立っているような、非常に広いステレオ感の中にあって、一切破綻することなく聴こえてきます。
K712のコンセプトをそのまま引き上げたような、非常にレベルの高い音です。
先述の通り、どちらも非常にモニターライクな音で、家庭用オーディオ向けヘッドホンのような聴かせ方は全くない音源を忠実に再生するといった感じです。
これをいい音だと判断するには、ある程度の経験と知識が必要かと思います。
楽しく音を聞きたい 手軽な機器でカジュアルに聞きたい という場合には、もっと違う選択肢があると思います。

T1 3rdはどうでしょう
ネットのレビューをみると、2のほうが好きだったという意見をよく目にします。
3rdはT1の音を踏襲しつつ、低音をだそうとする努力が見て取れますがあまり上手く行っているとは言えず、従来のT1の音にその上からぼわぼわした中低音が覆いかぶさってしまっているような感じがします。
T5の方は非常に上手くまとまっているそうなので、その辺りは半開放型の宿命かなと思います。
そもそもヘッドホンのような1つのダイナミックドライバで強力な低音を出すのは難しく、世にある低音のよく出る密閉型ヘッドホンであっても、実際そこまでの音量は出ておらず、ハウジング、イヤーパッド内の反響を利用したり、他の周波数帯の強調度合いを変えることで低音が強く聞こえるように仕上げているものが殆どです。
正直設計意図というか、どこをターゲットにしたものかが私には理解しきれませんでした。

ベイヤー社の方向転換で、しばらくはT1やDT1950のようなヘッドホンは出てこないのかなと思うと、少し寂しいところがあります。しかしAmiron homeのような非常に挑戦的な、素晴らしい製品を出してきているので、技術力の高さは相変わらずです。
DTシリーズのように非常に息の長いモデルは、今後も販売を続けると思うので、これまでのベイヤーの音もこれから手に入れることはできるでしょう。
ですがT1が3rdで方向転換を図った今、スタジオモニターの完成形としてT1 2ndを手に入るうちに手に入れておく というのはありかもしれません。

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