役者として作品の中でさまざまな人生と向き合い近年メキメキと輝きを放つ島村龍乃介。その進化に欠かせない舞台が、この夏、シリーズ最終公演を迎える
2012年にスタートした舞台『弱虫ペダル』。現在のキャストとなって新たに物語を紡ぎだしてきたシリーズは、いよいよインターハイ3日目の最終戦へと歩みを進める。総北高校の小野田坂道としてカンパニーを引っ張ってきた主演の島村龍乃介さんが改めて向き合う「ペダステ」。最終公演をまもなく迎える今の心境と、昨年からさまざまに挑戦してきた難役から得た役者としての経験、そして未来への展望を聞く。
■小野田坂道との出会いは、信じて頑張った先の景色を見せてくれた
——2022年に出会った舞台『弱虫ペダル』でした。ここまで共に歩んできた小野田坂道からどんなことを得たなと思いますか?
島村 初めての舞台がこの作品でしたし、小野田坂道が(ひょんなことから)自転車競技を始めるという物語でもあったのが自分の状況と合わさって、より向き合いやすかった役だと思っています。反面、小野田坂道はどんな人なのだろうかと考えたときに、これまで三作品やってきましたが、まだ理解しきれてはてはいないとも感じるんです。向き合っていく中でこれまで出会ったどの役よりも難しい役だなと思っています。それくらい僕とは性格が真逆の人物でもあります。僕は暗くなってしまう時があるのですが、小野田はめっちゃ明るいですし、すごくまっすぐなんですよね。「やる」と決めたならやり抜きますし、少し人間離れした感じもありますが、信じる大切さと言いますか。僕も演じさせていただいているなかで「信じて来たなら、こういう景色が見られるんだ」というものを坂道に見せてもらったなという実感があります。舞台で小野田を演じながら、そういったことに気づかされたなと思います。
——初舞台としてこの作品に出会った島村さんですが、共演のみなさんとの時間も濃かったのではないでしょうか。
島村 めちゃめちゃ濃かったです。本当に、部活でした。男性しかいないですから。物語のなかに女性は出てきますが、「ペダステ」ではすべて男性が演じていますし、本当に男子校の部活のようでした(笑)。男くさいなかでの時間でしたが、だからこそカッコ悪い部分も堂々と出して、何事にも挑戦できました。男性しかいないからこそ、いろいろとやれることもありましたし、全体としては「ペダステ」を作り上げる一つのチームなのですが、総北、箱根学園、京都伏見と(学校が)分かれているぶん、公演を重ねていくごとにお互いをライバルとして見ていましたね。ゴールの瞬間に誰が勝つのかは台本として決まっているけれど、「俺らが勝つ」という気合やライバル心はどんどん芽生えていって。だからこそ最終公演である、舞台『弱虫ペダル』Over the sweat and tearsはめちゃめちゃ熱い舞台になるんじゃないかと楽しみなところがあります。みんなとは、めちゃめちゃ仲がいいです。
■最終公演では真波山岳役の拓人くんと物語を熱く引っ張っていきたい
——前作・舞台『弱虫ペダル』THE DAY 2の前に、リーズンルッカでもお話を伺いましたが、最終公演を前にした今、振り返ると前作はどんな時間でしたか?
島村 「The Cadence!」や「THE DAY 1」に比べると、走る量が少なかったので、より客観視出来ました。「The Cadence!」に関しては初めての舞台なこともありましたし、わからないことだらけで、自分のことしか頭にない状態でがむしゃらにやっていました。芝居としては一人で出る場面が多かったので、一人での表現を徹底しようと思っていました。「THE DAY 2」に関しては田所さんを引っ張るというか。田所さんとの会話もありましたし、(田所役の滝川広大と)「こうやっていきたいですね」という役者としての会話もありましたし、(舞台上に)出ていない時間も前回に比べてあったので、一人のお客さんとしても(作品を)見られたなという経験でもありました。自分はこう見えるようにやっていたけれど、実際にはこんな風に見えていたんだな、とか。舞台袖から見るのとはまた見え方の違いも感じられましたし、「ペダステ」のローリング(※舞台上での走り方のひとつ)の見え方にしても「ここを早くしたら、もっとこんな風に見せられるかもしれない」という気づきもあって。自分だけではなく周りのことを考えることが出来た作品でした。
——それを経た最終公演をどんな時間にしたいと思っていますか?
島村 とにかく楽しみたいです。それが一番大事なのではないかと思っています。小野田も、自転車が好きだから坂でしんどくても、どうしても笑ってしまうことがあると思うんです。その感情を失わないように心掛けていきたいという思います。おそらく小野田と真波にとってはしんどくなるステージになるでしょうから、体力作りはもちろんですが、(中島)拓人くんとがっつり走るので、そこでのコミュニケーションもしっかり取りたいです。「THE DAY 1」のときに拓人くんと話をしたのですが、カンパニーでは僕と拓人くんが最年少なので、いい意味でも悪い意味でも、僕ら(の頑張り)次第で(作品の)印象が変わっていく気がしていて。だからこそ2人でめちゃくちゃいい作品にしようと話をしていたんです。今回は、2人で舞台を引っ張ることの出来るチャンスでもあるので、それも楽しみにしています。
■共演の杉咲花さんの自然な芝居を間近に感じて得たものは大きかった
——最近はさまざまな作品に出演されています。ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」でも「左半側無視」となる鎌田亮介という非常に難しい役柄に挑戦されましたが、どんな経験となりましたか?
島村 とても難しい役でしたし、役との向き合い方も悩んだ役柄でした。監督とたくさん話し合いをしましたし、医療従事者の方も常に現場にいてくださったのでシーンをやるごとに「このときには目は動きますか?」「ここではどうですか?」と徹底して確認しながら役作りをしました。亮介は波の激しい青年だったのですが、物語の流れに沿って撮影スケジュールを組んでくださっていたので、役に入り込みやすく、とてもありがたかったです。終盤に亮介が泣く場面があるのですが、撮影は最後に撮りました。もしも最初にあのシーンを撮影していたら、役作りは相当困難になっていたと思います。亮介として過ごさせてもらったからこそ、あの場面の涙に繋がったと思います。主演の杉咲花さんと共演させていただけたことも大きかったです。撮影のスタートが掛かっても、お芝居なのかリアルなのかわからないくらい自然な立ち振る舞いだったんです。そのおかげで僕も自然にお芝居をさせていただきました。演じながら「あれ?これはどっちだ?演技か?違うのか?」とどちらかわからなくなるくらいリアルだったので、杉咲さんのおかげで亮介として生きられたという実感があります。
——さらには「海と日本プロジェクトinかながわ」と題したTVK制作のドラマ「アイメイド・マーメイド」にもご出演されるとのことですが。ここでは主人公の幼馴染である漁師の颯太を演じています。これまでにない役どころだと思いますが、実際に演じていてどのような想いがありますか?
島村 撮影のために毎日早朝から漁港に通っていのですが、本当に漁をすることが生活の真ん中にある場所なんです。颯太は漁師に対して一途な想いを持っている子で、僕もきっとあそこで生まれ育っていたら漁師になっていただろうな、と思います。町に都会のような娯楽は少ないけれど、だからこそ漁に没頭できるんだろうなと思いました。漁師さんって男らしいんですよね。演じていてカッコいいなって思いますが、撮影で実際に漁にでるシーンがあったわけではなく、実際にやらないとわからないことはたくさんあると思うので「これで正解なのだろうか」と日々葛藤があり監督ともたくさん話し合いながら役を作り上げていきました。
——颯太役も含めてこのところ大きな経験となる作品と数多く出会ってきた島村さんですが、この経験を得た先、8月には22歳になられますが、ここからどんな役者になっていきたいですか?
島村 以前「いろんな役を演じられる人になりたい」という目標を口にしたことがあるんですが、今は「怖い」と思われる役者になることが目標です。本性がわからない役者になりたいです。いい人の役でも悪い役でも、僕が演じる人物を見て「本当の島村龍乃介はどんな人なんだろう」と思われるような、役によってまるで印象の変わる役者になりたいです。
——では最後に舞台『弱虫ペダル』Over the sweat and tearsへの意気込みをお願いします。
島村 「ペダステ」シリーズ最終公演ですが、インターハイ自体は3日目。おそらく冒頭に3日目を迎えるまでのダイジェストもあると思うので、これまで見たことがない方にもわかりやすい舞台になっています。気軽に足を運んでいただきたいですし、最終公演なのでみんな気合も入っていると思います。こんなに熱い舞台はほかにはない、という自信もあるので、その瞬間を目に焼き付けていただきたいたいです。
【リーズンルッカ’s EYE】島村 龍乃介を深く知るためのQ&A
Q.最近、心を動かされた瞬間は?
A.劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』を見てきました。とても面白かったです。コナンの映画は毎回見ているのんですが、ただ犯人捜しをするだけではなく、“そっちもあるの!?”驚かされますし、予想を裏切られるところがすごく好きです。今回も映画を見て、元気が出ました。なんといっても音楽を出すタイミングがばっちりなんです。久々にすごく鳥肌が立ちました。ペダステでもそういう、“今、この瞬間にこの音楽!”みたいな瞬間を、お客さんにお届けしたいなって思いました
Q.今年の夏の過ごし方。理想と現実。
A.理想でも現実でも日焼けをしたくないです。漁師の役をやっていますけどね(笑)?ほかに理想としては、プールに行きたいです。普段から夏になれば海に行きたいタイプなんです。でも現実ではペダステの稽古に本番。さらに小野田坂道は色も白いですから、絶対に焼けられないので、外出するときにも完全防備で、基本的には家に籠っていようと思っています
<編集後記>
取材のタイミングでは毎日早朝から漁師役の撮影で海に出ていた島村さん。朝早い撮影にもわくわくとした想いを抱いて参加していると楽しそうに話してくれる様子が印象的でした。ここからさまざまな役に挑戦していきたい、というお話に、今後の出演作も楽しみだと感じました。
<マネージャー談>
島村の毎夏の悩みは日焼けです。 「アイメイド・マーメイド」の撮影では、「絶対に焼かない!」と本人は意気込んで日焼け対策をしておりましたが、努力むなしく、撮影初日から、見事にこんがり焼けておりました。漁師役なので、日焼けは役作りになるとは思いつつ、8月31日からはペダステで色白の小野田坂道を演じさせていただくので、それまでに、白くなれるのでしょうか…。 皆様、今後の島村の活躍と共に島村の日焼けが治るのかにもご注目ください!!
<撮影の様子はこちら!>
公式X https://x.com/y_pedalstage
取材・文/えびさわなち
写真/番正しおり
スタイリスト/藤長祥平
ヘアメイク/Aki
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