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「今が一番調子が良い」E.scene、充実したバンドの現在地から放たれた傑作ファーストアルバム

午前から雨雲が覆い、肌寒い気温となった9月29日。新潟を拠点として活動するE.sceneが出演した『𝐲𝐮-𝐢𝐧𝐧』が渋谷HOMEにて開催された。ar syura、shikiと、これからの音楽シーンを創っていくバンドとの3マンとなったこの日のライブの模様を、メンバーインタビューとともにお届けする。

■徐々に体を揺らすお客さんが目についた

「皆さんこんばんは。E.sceneです。よろしく!」
 
真琴(vo)による、必要にして十分な挨拶からはじまったE.sceneのライブは「About me 」から鳴らされた。2022年に配信シングルとしてリリースされたこの曲。たっぷりと間をもたせたイントロから、真琴の淡く太い声が乗り、それまで静寂な空間に身を置いていた人ならゾクッとさせられたことだろう。
 
「ありがとう」とだけ伝え、立て続けに演奏されたのは「Gift」。10月23日にリリースされる彼らの記念すべきファーストアルバム『All Around You』(名作と言って良い。後のインタビューで触れる)の最初を飾る曲で、近年J-POPの流行として挙げられるサビからはじまる新境地の1曲。横を向いて歌ったり、手を揺らしながらソウルフルに歌う真琴の表現力も印象深い。
 
「みんな好きなように揺れていいんですよ」と、真琴が観客に一言添えた後「3」を演奏。その言葉とリンクするかのように「カーテンの揺れる影」という歌詞から始まるメロウなナンバー。先ほども書いたように、E.sceneの曲には心地よい「間」が存在する。確固たる歌唱力、演奏力を備えていないと成り立たないことだろう。それを結成以来から実現できているのは真琴しかり、CHIPPI(Ba)、Yoshinao(Dr)の技術が高いことの証だろう。まだ、平均24歳というのだから末恐ろしい。
 
3曲間髪入れず演奏された後は「東京でのE.sceneのライブは久しぶりです。あっ、自己紹介します」と、MCに入る。先ほどまで空間を掌握していた真琴とは打って変わって、たどたどしく喋り、それがなんとも人間味あふれる光景だ。
 
「今日のお客さんは落ち着いていて、思わず身を委ねたくなる」と微笑みながら曲に戻り、しっとりとした音像を感じる「Cozy」、そして真琴の高音で伸びやかなボーカリゼーションが印象的な「Highlight」へ。1、2曲目はじっとして聴いていた観客も、「好きなように揺れてもいいんですよ」という声がけ以降、思い思いに体を揺らしている姿が目についた。
 
「あなたらしくあればいい」と、そんな姿を肯定するかのような歌詞が印象的な「わたしと私」のあと、「最後二曲やって終わりたいと思います」と、映画『SOUND of LOVE』の主題歌となった「vector」をはさみ、「みんな改めて今日はありがとう。このあとも楽しんでいってください。E.sceneでした」とのMCを経て「いいじゃん」へ。
 
 デビュー曲にして、彼らの代表曲のひとつでもあり、歌詞には「私だけ知る感覚に 言葉なんか無意味だわ これからも素直に生きること やめられないな」と記されている。今日のライブ同様「好きなように楽しんでいこう(私たちもそうするから)」と感じ取れる、秀逸な「前向きソング」でこの日を締めていた。

<セットリスト>

9月29日 @渋谷HOME
 
1. About me
2. Gift
3. 3
4. Cozy
5. Highlight
6. わたしと私
7. vector
8. いいじゃん

■E.sceneインタビュー「今が一番調子が良い」

※インタビューはライブ前に実施
 
ーー2018年の結成以来、初となるアルバム『All Around You』のことを中心に聞こうと思うんですが、本当に一聴しただけで「良いな」と思える作品でした。メロディラインを筆頭に、歌唱も演奏力も音作りも、すべての面でレベルアップしているなと。
 
CHIPPI「ありがとうございます。このアルバムでは曲の作り方をこれまでとは変えていて、今までは自分がDTMで原曲を作って、それをバンドでブラッシュアップしていく流れだったんですけど、それをまるっきり逆にしました。セッションをスマホのボイスメモとかで録音して、持ち帰ってDTMで編曲して……という感じで、それがだいぶ曲に変化を与えたかなと思っています」
 
ーー曲の構成もこれまでのE.sceneとはガラッと変わったのがありますよね?1曲目の「Gift」、2曲目の「Spotlight」なんかは冒頭からサビが来ていて、いま主流のJ-POPっぽさが出ていて。
 
CHIPPI「今回、制作にあたっては自分の部屋に3人で集まってプチ合宿みたいなことをしたんですね。みんなでご飯食べて曲作って『こういうこともやってみようか』っていうことをゆるっとした空気感の中で制作したら、曲の幅が広がったんですよね」
 
真琴「最初は私も『これで大丈夫かな』って不安になったんですけど、すり合わせをちゃんとしていくうちに『あ、大丈夫だ』って納得できる仕上がりにまで達することができました。J-POP自体は、元々メンバーみんなが聴くジャンルでもあるんですよね」
 
CHIPPI「それを意図的に作ろうとすると難しくて、それこそ商業感が出ちゃうんですけど、これまでEPを何枚か作ってきて、自分たちのやりたいことが明確になった上で作っているので、良い形で昇華できてるなと思います。今がバンドとして一番調子が良い状態かもしれませんね」
 
ーー本当その言葉を裏付けるような完成度だと思いますし、これまでE.sceneを「ジャズっぽい音楽をやるグループ」ぐらいの認識でいる人からしたら驚くと思います。「こんなバラエティに富んでいてキャッチーな曲もあるんだ」って。
 
CHIPPI「個人的にはYoshinaoの言葉が結構大きかった感じがします。6、7年ぐらいやってきて、E.sceneの音楽性をよりコアに突き詰めていくのか、それとも広く聴いてもらうような作品性に振り切るのかっていう話題になったとき『幅広く聴いてもらうほうに振り切ろう』って言ったんですよね。曲を作る自分としては、それが指針になりました」
 
真琴「結構それははっきり言ってくれたよね」
 
Yoshinao「結果良いと言ってもらえているので、安心しています(笑)」
 
ーーもちろんリリースツアーもあると思うんですけど、以前インタビューしたときはあまり西のほうで演奏していないとのことだったので、それが叶いそうですね。
 
真琴「この前はじめて大阪でライブしたんですけど、めっちゃ緊張してて、あまり友だちもいないし……でも打ち上げでみんなこんなに喋ってくれるんだと思って、すごい嬉しくてめちゃくちゃ楽しかったです」
 
CHIPPI「でもそれで酔っ払っちゃって、サポートしてました(笑)。まこっちゃん(真琴)はお酒に酔う方、Yoshinaoはあまり飲めない、僕はそれなりに飲めるので良いバランスなんですよ」
 
真琴「バンドとしては、またフジロックに出たいねって話しているんですが、もし出れたらその日は絶対酔うと思うので、見える範囲でCHIPPIにいてもらいます(笑)」

<編集後記>

2023年春ごろ以来のE.sceneとの再会。インタビューでも語ってくれたように、あらゆる経験がバンドの血肉となり、ファーストアルバムにして最高の名刺代わりになった『All Around You』が完成した。それこそ人としての魅力も増したのだろう、明るくリラックスした姿で話す様子は、「全員インドアな性格」(真琴談)と言えども、きっと応援してくれる人が増えていくことを予見させた。

<マネージャー談>

YouTubeで公開中の「vector」(映画「SOUND of LOVE」主題歌)のミュージックビデオではバンドの演奏シーンのほかに真琴のダンスシーンも見どころです!深夜から早朝まで何度もダンスシーンを撮影したのですが、疲れをみせることもなく最後までがんばりました!
ぜひ、ご覧ください!
「vector」MV

<サインの様子はこちら!>

【プロフィール】
​E.scene(イーシーン​)
2018年結成。新潟を拠点に活動する、真琴(Vo)、CHIPPI(Ba)、Yoshinao(Dr)からなる平均年齢24歳のスリーピースバンド。
メロウでスモーキーなボーカルに、R&B/Funk/HIPHOP/ネオソウル/ジャズ/フュージョンのテクニックを取り入れたメリハリとグルーヴのあるリズム隊のプレイが濃厚に絡み合う。
2019年には結成からわずか1年でFuji Rock Festival「ROOKIE A GO-GO」への出演を果たし、そのパフォーマンスが話題を呼んでいる。

取材・文/東田俊介
写真/藤咲千明


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