大貫勇輔、2年目のハリー・ポッターに抜擢!新たなチャレンジを通して“壁”を乗り越えようとする彼の覚悟
大河ドラマ『どうする家康』に浅井長政役で出演するなど、ミュージカル、ドラマ、声優など様々なメディアで活躍する俳優・大貫勇輔。圧倒的肉体美を持つ彼が、上演2年目に入ったロングラン舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の主役ハリー・ポッターに抜擢! ハリーという役と作品への思いを中心に、俳優としての生き方、覚悟を語ってもらった。
■これから魔法が使えるようになるのか……という実感
先人たちが築いてきた評価や信頼をどのように受け取り、それをどのように未来へと繋いでいくのか。一回限りの作品に対して全力を尽くすのも俳優の役割であるが、古典やベストセラーをベースとした壮大なプロジェクトの中で歴史の1ページを刻む存在になるというのも、また俳優の仕事である。
ダンサーとして10代の頃からプロデビューし、現在は舞台やTVドラマなどでも活躍する大貫勇輔。彼は、自身が幼い頃から親しんできた小説『ハリー・ポッター』シリーズの派生作で、オリジナルストーリーが展開される舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』において、ハリー・ポッターという大役を任されることになった。
「まさか自分が“ハリー・ポッター”になれるチャンスが訪れるとは! と驚きました。もちろん、昔から作品は読んでいましたし、オーディションでも絶対に役を勝ち取ってやるという強い意気込みを表そうと、所有している中で一番長いコートを着て、丸眼鏡をかけて行きました(笑)。ただ、実際に決まってからはあまり実感がなく、こうやっていろんなプロモーションに参加させてもらう中で、ようやく“本当にやるんだな”、“これから魔法が使えるようになるのか……”と思えるようになりましたね」
誰もが知る超人気原作のオリジナルストーリー、しかも藤原竜也、石丸幹二、向井理という名優たちが演じてきたハリー役を、こちらも2年目から参加する藤木直人と共に引き継ぐ立場となった大貫。そのプレッシャーは大きかったのではないだろうか。
「今のところ、あまりプレッシャーや不安は感じずにここまで来ていますね。まだ稽古場に入って2週間ちょっとですが、『ハリー・ポッター』は様々な国で上演が行えるように、舞台を作るまでのメソッドが非常に良くできているんです。また、今現在も上演が続いているので、実際の舞台と同じ場所、同じ照明で稽古ができる。1年目から参加されている方が2年目からのキャストにアドバイスできる体制もありますし、本当に恵まれたカンパニーです」
■作品の大きな歯車のひとつとして、責任をまっとうすることが大事
舞台の演出を行うのは本場イギリスの演出家であり、実際に映像を繋いで役や演技に関するディレクションを受けるという。大貫は『ハリー・ポッター』における演出家の演出方法に全幅の信頼を置いており、「自然とハリーになれるという感覚がある」と語る。
「演出のコナー(コナー・ウィルソン。演出補でクレジットされている)は、スタイルを固定せずに自由にやらせてくれるタイプなんです。今回の物語は特に、本来8時間あるものを4時間弱にまとめているので、セリフでの説明が省かれているところも多く、特に、時間の経過やそれに伴う場面転換においては、いかに身体で表現するのかが重要になります。それでも、各シーンの基本設定や動き以外は、思うままにやらせてもらっていますね。例えば、こちらがハリーの親子関係について質問しても、“このとき、ハリーはアルバス(ハリーの息子)のことをどう思っただろう?”と、安易に答えを出さず、こちらの考えを引き出すような質問で返してくれる。言い方を変えれば、毎回のシーンがそうした演出家との勝負になりますし、そのやり取りがすごく楽しいですね」
大貫が今回、ハリーを演じる上で意識しているのは、俳優としての個性を出すのではなく、作品の世界に溶け込むこと。それが、物語の意図を伝える一番の方法になると信じている。
「もちろん、俳優・大貫勇輔を見に来てほしいという欲もありますが、原作からのファンとして、『ハリー・ポッター』の世界を邪魔したくない気持ちがありますね。作品の大きな歯車のひとつとして、責任をまっとうすること――今回であれば、子供を持つ親として、さらに人間として成長していくハリーの姿に感情移入してもらうことが一番です」
■転機は、“自分はダンサーだから”という無意識の奢りが解消された瞬間
大貫は、ダンサーとしてデビューしたのち、舞台やミュージカルで見せる演技や歌が大きな注目を集め、劇場映画にもなった地上波TVドラマ『ルパンの娘』の円城寺輝役でさらなる知名度を獲得。現在放送されている大河ドラマ『どうする家康』でも浅井長政役を好演しており、その活躍の幅は広がり続けている。彼のそうした活動の転機はどこにあったのだろうか?
「『ロミオ&ジュリエット』(2011年)に「死のダンサー」役として出演したことがひとつのきっかけになったと思います。僕はダンサーになってからも、ミュージカルに対して苦手意識があったんです。ただ、実際に参加してみて今までにない感動を味わいましたし、自分もこういうことができるようになりたいと舞台の世界に飛び込みました。もうひとつは、『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』(2017年)に参加したことですね。この時にはもう、お芝居もミュージカルもどちらもやるつもりでいたのですが、どこかで“自分はダンサーだから”という無意識の奢りがあったんです。ただ、ビリー・エリオットという少年がバレエダンサーとして成長を遂げていく姿を描いたこの舞台では、ビリー役に選ばれた少年たちが一から演技や歌、ダンスを懸命に努力して、見事に難役を演じきっていったんです。その姿を間近で見て、“人間、正しく努力をすれば何にでもなれる”と教えてもらいました。僕はそこでダンサーとしての自信や肩書が甘えになっていることに気づいて、意識が変わりましたね」
■フィジカルの強さとコントロールできる技術は自分の長所
現在は映像作品と舞台を軽やかに行き来する大貫。舞台『ハリー・ポッター』のみならず、11月からは出演する舞台『ねじまき鳥クロニクル』の再演が決定し、12月には大阪、愛知での公演も決まっている。そこには自信や余裕もあるのかと問えば「いや、毎回大きな壁にぶつかっています。これ、得意! なんていう仕事なんて一切ない(笑)」と笑い飛ばす大貫。だが、その“壁”を楽しんでいるように見えるのも確かだ。こうした貪欲な姿勢を支えているのは、やはり彼がキープし続けている健全な肉体と精神があってこそだろう。大貫本人も、その身体能力から見える景色が、俳優としてのストロングポイントになっていると感じている。
「もともとダンスをやっていたので、踊る要素の多いミュージカルや、『ハリー・ポッター』のように、身体をめいいっぱい使う演劇に多く呼んでもらっています。そういった僕の視点から言えば、フィジカルの強さとそれをコントロールできる技術があれば、それは俳優としての長所になりますね。フィジカルが充実していれば、自分の感情を役に反映させながら、お客さんがどのようにこちらを見ているのか客観的に判断できる余裕が生まれる。そのことで、演技により深みが出ると思いますし、身体の充実は言葉と同じくらい重要だと感じていますね」
『ハリー・ポッターと呪いの子』での主演デビューは、8月26日が予定されている。内容としても、スケジュールとしても、大貫勇輔にとっても大きなチャレンジになりそうだが、この新しい“壁”を超えたときに、どのような成長や進化があるのか――それを楽しみにしているのは誰よりも本人なのではないだろうか。
「これだけ長期の公演ははじめてですが、基本的には1週間に3回、出演するスケジュールですね。ここに『ねじまき鳥クロニクル』の稽古が入り、本番が入ると(本番が)重なってくるので、そこからはチャレンジです(笑)。でも、ここを乗り越えたときには、舞台や演じることへの新しい思いが生まれると信じています」
【リーズンルッカ’s EYE】大貫勇輔を深く知るためのQ&A
Q.もし、「タイムターナー」のようなもので時間が戻せるとしたら?
A.5~6歳に戻って、すべてのことをもっと貪欲にやりたいです。幼い頃からピアノと英語を習っていて、運動もやっていたのですが、もっとストイックにやることで、将来の可能性を広げたいですね。
Q.リラックスするためのルーティーンはありますか?
A.最近気づいたのは、僕は運動しないとダメなんです。なので、休みの日には3時間くらいジムに行くようにしていて、そこで運動をするとやっぱり精神も整いますね。何もしていないといろんなことを考えてしまいますが、運動するときには運動のことだけを考えるので。料理も似たようなところがあると思いますが、ひとつのものに意識を向ける時間が重要だと思います。
〈編集後記〉
この日は取材・プロモーションデーであり、とあるテレビ局に一日滞在していた大貫さん。リーズンルッカの取材は最後ということでしたが、疲れたそぶりは一切見せず、質問に対して熱いメッセージを返してくださいました。また、近くで聞いても、その声のハリとトーンは抜群。ハリーとして大貫さんの声が劇場に響く日がもうすぐ来ると思うとゾクゾクしますね。
〈マネージャー談〉
先日、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」のパンフレット撮影があり、初めて額のキズメイクをして、やっとハリー・ポッターになれた!と本人もスタッフも大興奮でした!
よっぽど嬉しかったのか、キズメイクを落とさずに帰宅していました(笑)いよいよ8/26にデビューとなります。
ぜひ多くの方に劇場で楽しんでいただけたら嬉しいです。
応援のほど宜しくお願い致します!
〈撮影の様子はこちら!〉
取材・文/森樹
撮影/溝口裕也