公共空間を解放する(その2) 占拠して声を上げる
古代ギリシャの都市国家にはアゴラと呼ばれる広場がつくられていました。そこは人びとが集まって議論する場所でもあり、哲学が生まれる場所でもありました。21世紀の現代も人びとは集まり、語り合い、表現し、時には不正義に抗議する公共空間をあちこちで創り出そうとしています。
2011年1月、エジプトでは人びとがタハリール広場(カイロ)に集まりムバラク政権を退陣に追い込みました。5月には、スペインでのプエルタ・デル・ソル広場(マドリード)を福祉予算の削減、汚職、失業などに抗議する人びとが占拠しました。
「選挙じゃない占拠だ」と報じられた「ウォール街を占拠せよ」(Occupy Wall Street:;OWS)運動。2011年9月、人びとはニューヨークのズコッティ公園に数多くのテントを設置して寝泊まりしながら多彩な社会的実践を始めました。人びとはこの公園を「自由の広場(Liberty Square)」と呼びました。ごく一部の富裕層に富が集中する状況に対して、「私たちは99%だ」と抗議の声を上げたのです。
硬直した方針を前提としない、また特定の指導者に依拠しない自主管理的・直接民主主義の方法にOWS運動の特色が示されています。運動全体の動きは全員が参加できる集会で合意によって決められます。発言希望者は順番に意見を述べることができます。必要に応じて、小グループで話し合い、その結果が全体に伝えられます。また、さまざまなテーマのグループにおいて、ワークショップや討論会が行われました。こうした社会的実践の場は、TAZ(Temporary Autonomous Zone;一時的自主管理空間)と呼ばれています。
2014年9月には香港で行政長官選挙の方法をめぐって、民主化を求める人びとが路上を占拠して抗議行動を始めました(「雨傘運動」)。
2016年3月から、フランスの人びとはパリのレピュブリック広場(共和国広場)に集まり、労働、教育、住宅、差別などの社会問題について意見を出し合う集まりを始めました。「夜に立ち上がれ(nuit debout)」と呼ばれています。
ミャンマーでは2021年2月1日、軍がクーデターを起こしました。クーデターに抗議する人びとは街頭に出て、集会、デモ、座り込み、ダイ・インなどを行いました。路面に抵抗のメッセージを書き記したり国軍司令官の画像を印刷したポスターを貼り付け、赤いペンキ(武力弾圧された人びとの血を象徴)を路上に流しました。路上を抗議の意思表示をする空間へと解放する実践が果敢に粘り強く続いています。
感染症の流行が続く中で、人びとの分断や社会的孤立が深刻な問題になっているように思います。社会的連帯意識を身体感覚で経験できる場としの公共空間の役割を取り戻したいものです。
下記の動画もご参照ください。
ウォール街占拠2011(日本語字幕、動画約14分) labornowvideo
参加者のインタビューを通じて、OWSの意義が伝わってきます。
歌「私たちは99%だ」(日本語字幕、動画約4分) BeneVerba
Occupy Wall Street 2012(動画約76分) Full Documentary
Scenes from Tahrir Square(動画約2分) Al Jazeera English
タハリール広場(カイロ)に集まり、ムバラク政権に抗議する人びと。
Spain's "Indignados" and the Globalization of Dissent(英語字幕、動画約11分) The Real News Network
スペインにおける占拠運動の状況を伝えています。
「夜に立ち上がれ」運動(パリ、2016年4月) (動画約9分)
雨傘運動:路上を占拠する人びと、警察による弾圧(香港、2014年10月) (動画約6分)
路上を埋め尽くしてプロテストソングを歌う人びと(ミャンマー、2021年) (動画約1分)
路上で楽器を演奏し、歌い、踊る人びと(ミャンマー、2021年)(動画約3分) South China Morning Post