文明がもたらす不健康
文明の発展とともに、衛生状態や栄養状態が改善し医療が普及しました。その結果、人類は乳幼児死亡率の低下などの恩恵を受けています。しかしその一方で、人工的な環境を形成してその中で生活することで、さまざまなかたちで健康状態を悪化させています。
虫歯
ヒトは火を使った調理によって、穀物やイモ類などを柔らかくして食べるようになりました。その結果、食べ物が歯に付着するようになり虫歯の原因となりました。
近視
言語を獲得したヒトは文字を発明し、さらに活字印刷を普及させました。細かい文字が印刷された紙やIT機器の画面を近距離で長時間にわたって見ることで多くの人びとが近視になっています。
難聴
「スマホ難聴」という言葉があります。IT機器につないだイヤホンやヘッドホンを長時間にわたって使うことが習慣化すると難聴になるリスクが生じます。そして、難聴は認知症の原因のひとつであるとされています。
感染症の流行
多くの人びとが密集して生活するようになり、遠距離を移動する人びとが増えました。その結果、さまざまな感染症の流行に悩まされるようになりました。
薬剤耐性菌の増加
抗菌薬の不適切な使用などによって、抗菌薬が効かない細菌が増加しています。今後、さまざまな感染症の治療が困難になることが懸念されています。
アレルギー疾患の増加
乳幼児期に過度に清潔な環境で暮らしていると、細菌やウイルスに対する免疫力が充分に育たないために、アレルギーを発症しやすくなります。
環境汚染
工業生産、農業、化石燃料の使用などによってさまざまな化学物質が環境に放出されるようになりました。現在も、例えば有機フッ素化合物、ネオニコチノイド系殺虫剤などの危険性が指摘されています。
運動不足
機械を使った生産、交通機関の発達などによって、ヒトは体を動かすことが少なくなりました。座っている時間が長いと、さまざまな病気を誘発すると指摘されています。また、メンタルヘルスを悪化させる要因にもなっている可能性があります。
体内時計の乱れ
夜遅くまで明るい照明をつけていたり、IT機器やテレビの画面を見ていると、脳が睡眠モードにはいりにくくなります。その結果、睡眠の質が低下して、体内時計の乱れが生じます。
このほかにも、経済格差の拡大が健康格差を生んでいるというデータが報告されています。また、人びとの社会的孤立が心身の健康を悪化させることも明らかになっています。
私たちが文明のあり方をどのようにコントロールすればよいのかということは人類の大きな社会課題です。「健康」という視点からも、この課題を考える必要があると思います。