光を失う時とは〜&ルフィン「月蝕 lunar eclipse」
2022年7月29日から31日までの3日間、BankART Stationにて、振付家・遠田誠のプロジェクト、&ルフィン(エンドルフィン)の新作公演「月蝕 lunar eclipse」が開催された。
場内に入ると、BankART Stationのカフェのカウンターが照明で照らされている。
しばらくすると一人の女性が現れ、忙しく掃除を始める。
場内が暗くなるとラジオからは爽やかな音楽とDJの声が流れてきて、景色のいいオープンカフェにいるかのようだ。
DJは、日常のささやかな不満などを綴ったリスナーの投稿を読み上げる。
二人の男性が遠田誠ならではのコミカルな動きをしつつ、二人は椅子に座り何かを真剣に話している。
三人の女性がそれぞれの動きで加わるが、それは抑制的で動きよりも止まることに意味があるかのようだ。
ストップとムーブを繰り返す様は、生物の死の瞬間あるいは生命の誕生の瞬間のようにも感じられる。
一人が椅子に座り一人が立つ姿はまるで家族写真のようで、否応なく私たちの記憶を刺激してしまう。
そして照明はシルエットとなり、人の顔を消し去り、ネガのように世界を逆転させてしまう。
人間的な空間は一気に消え去り、監獄のような閉ざされた「どこか」にこの五人を閉じ込めてしまう。
3メートル四方の床の白いラインに照明が入り、否応なく「隔離」を想像させるが、この五人は何かに抗っているかのようなエネルギーを発散している。
メランコリックな音楽がヴィリュームを上げるにつれ、一人がそのラインを引き剥がし、五人はまるで初めて自由を得たかのように躍動し、抑圧を逆転させた時のようなカタルシスを生み出した。
しかしラストシーンで私たちが見たものは、カフェの椅子に座りこんだ、疲れ果てた人間の姿だった。
光を蝕まれたかのような、虚しさと痛さが残った。
遠田誠のこのプロジェクトでは、閉鎖空間を芸術的要素で多層的に再構成することが試みられている。
明確なトラマツルグをベースとしたこの作品は、ダンサーの身体と照明が様々な表情を見せてくれ、スチール写真の様に私たちの心に焼きつく。
また音楽と音響も立体的な音像を築き上げ、BankART Stationの空間の新しい可能性を見せてくれた。
今後の遠田誠、そして&ルフィンに注目したい。