務川慧悟さん2022年3月コンサート②フルート八木瑛子の世界
怒涛の<2022年3月務川強化週間シリーズ>の第二弾。超お忙しい務川さんの次の公演はフルートの八木瑛子さんをメインに前回のデュオの二人を加えたトリオ演奏会。以下の日程で行われた。
●反田恭平プロデュースJNO Presentsリサイタルシリーズ フルートの八木瑛子の世界
・2022年3月7日(月)19時開演 DMGMORIやまと郡山城ホール
・2022年3月9日(水)19時開演 浜離宮朝日ホール
このうち私が伺った3月7日やまと郡山城ホールでのコンサートについてのレポートです。
●リハーサル動画
●八木瑛子さんについて
さて前週金曜日から早くも三日。またやって参りました、やまと郡山城ホール。もう慣れたもんですよ。近鉄の乗車時間の長さも、近鉄郡山駅からの道順も、ホールの雰囲気も……って、え、ここ私の席じゃない? すみませーん、うっかり先週の席に座ってましたー! なんてゴタゴタしているうちにも開始時刻となりました。
⑴ライネッケ フルートソナタ「ウンディーネ」Op.167
舞台に現れたのは、まず八木さん、そして我らが推し務川慧悟さん。1曲目はお二人によるフルートとピアノのデュオ。
ピアノの前に立つ、フルートを手にした八木さんの美しいこと。ダークターコイズ色で胸元に刺繍、裾がヒラヒラと何層にも細かくカットされたノースリーブドレスだが(語彙)、光で裾がスチールブルーやグレーに反射して見え、まるでウンディーネ(水の精)のよう。
務川さんは黒のスーツに今日はボルドーのシャツ、胸元のチーフも同色で。ウィーン原点版(と思ったがインターナショナル・ミュージック・カンパニーかも)の赤っぽい色の楽譜を広げます。今日の譜めくりは女性の方。軽く音合わせしてからスタート。
第1楽章 アレグロ ホ短調 ソナタ形式
フルートが奏する哀しげなテーマにピアノが寄り添う。
この曲はライネッケがフーケのドイツロマン派小説『ウンディーネ』を元に作曲した、フルートに数少ないロマン派の曲だそう。
人里離れた漁村で、勇敢な騎士が一人の可憐な少女ウンディーネに出会い恋に落ちる。翌日から大水や洪水が続き騎士はそこに留まらざるを得ない。しかし怪我の功名というか、その間に愛が育まれ、遂に二人は結婚する。
これはフルートをウンディーネと捉えて聴くのが正解ですよね? となると堂々たる演奏を聴かせてくれている八木さんは、もうまさにウンディーネそのもの。フルート奏法の知識が無いので(他はあるのかというツッコミは置いておいて)よく分からないのだが、トリルとかタンギングとか素晴らしくて、フルートという楽器自体に驚嘆しながら見つめてしまった。
務川さんは、とても歯切れの良い演奏。相変わらずノリが良いというか、えくぼが可愛いですよね、あ何を言っとるのか私は。
第2楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ ロ短調 スケルツォ
結婚の翌日ウンディーネは自分が水の精で、今までの洪水とかは自分のせいよと告白するが、騎士はそれを受け入れ、変わらぬ愛を誓うのであった。
冒頭からピアノとフルートの激しい応酬。あーこれは告白したところだね、揉めてるわーと思ったら、ピアノ(騎士)が太っ腹なところを見せて朗々と歌い上げる。しかしここの超高速パッセージはフルートはめちゃ大変なのではないのかな。ピヨっとか変な音も一切なく、美しい表情で演奏し続ける八木さん、本当に凄いな。その後また揉めたりもしたけど、最後は落ち着いたみたい。
第3楽章 アンダンテ・トランクィッロ ト長調 三部形式
トランクイッロって何? と思ったら<静かに>だそうな。果てしない凪のような穏やかで大きな曲。
町に戻ると、待っていたのは騎士を慕っていた貴婦人A。一旦はウンディーネと打ち解けたものの、結局大喧嘩になってしまう。
その場面かな。いきなりピアノが突っ走り出して、フルートが追随。早弾きの推しがまた素敵で。
喧嘩の行く末を見ていた騎士は、結局Aを選んでしまい、失意のウンディーネは去っていく。ということは、ラストの穏やかさがかえって哀切だ。
第4楽章 Allegro molto agitato ed appassionato quasi Presto ホ短調 ソナタ形式
激しい始まり。そりゃそうでしょう。結局騎士はAと結婚してしまい、ウンディーネは彼の命を奪わねばならんのだから。
静寂はほぼなく、不信、荒ぶる心、そして途中のピアノの超美しい旋律も含めあんな事やこんな事があり、最後は騎士の腕の中で息絶えてしまうウンディーネ(←唐突)。
フルートが途中で音を止めピアノが終止形を完了させる。その後の穏やかなピアノと優しいフルートが可哀想なウンディーネの心と彼女のいない世界を表すよう。
息の合った素晴らしい演奏でした。拍手。
⑵ウェーバー 三重奏曲 ト短調 Op.63
チェロの水野さんも入ってきた。水野さんは黒のプリーツシャツに黒スラックス。ピアノを前にフルートが下手側、チェロが上手側に着席。
ちょっともうここからは、細かく書きようがないので(笑)、まとめての感想。汽車のようなリズムを刻むピアノにまずチェロが入り、続いてフルート。第1楽章はリエゾンで奏されるタタラタラタラッという下降するアルペジオの箇所(←だから表現っ)が印象的。
第3楽章は「羊飼いの嘆きの歌」という副題がついているそうで、どこか懐かしいような、学校唱歌のようなほのぼのしたメロディーだ。愛する少女に旅立たれてしまった羊飼いの少年の傷心を詠ったゲーテの詩をモチーフにしているとか。そう言われてみると、遥々と見渡す草原の風景や、ある種の悲しみが感じられる。ラストはフルートが嘆き、その感情をピアノが高めてから3人で静かに引き取る。ちなみに同名のシューベルトの歌曲がある。
第4楽章はまさに大団円というような明るい曲。好きなフレーズがいっぱい。
しかしチェロが入るだけで、曲がより複雑に細かく表現されるようになったというか、音の世界が広がった感じする。水野さんの演奏にはこの間初めて接したわけだが、それだけでもうちょっと推したくなっている自分がいるのだよね。そう思うと、このソロリサイタルシリーズ凄くいい試みだなあと、改めて反田社長の手腕に感服するわけだった。そして務川氏がキレキレピアノだったことは記しておく。
ここで一旦休憩。20分。
⑶モーツァルト:ファゴットとチェロのためのソナタK.292
務川さんはお休みで、チェロとフルートのみ。お二人の丁々発止の演奏。とても息が合っていて、楽しそう。しかしこうして聴いていると、なんとなく隙間があるというか、ピアノがいかに音と音の間を繋いでいるかを痛感させられる。
⑷カプースチン:トリオOp.86
今日のメイン! 務川さんも大変楽しみにしていた曲。カプースチンは1937年生まれのウクライナ出身のロシアの作曲家だ。楽譜はSCHOTT社?
ピアノから入り、いきなりジャズ。ベースの刻み、いやベースって言っちゃったじゃん(笑)、もう水野さんのチェロが本当にベースみたいで、こんな奏法もあるんだねえ。そしてピアノ! 左手がベースラインを保持しての右手トレモロがジャズ全開、からのグリッサンド! もうここでカッコいい〜〜と私は心で叫んでおりました。いやあ務川さんってバロックからラヴェルから<僕のキャラじゃない>とか言いながら、こんなジャズも弾けるんだね。もう死角なしでしょ。カッコよすぎるわ。3人ともノリノリで、スゥイングしてる。何、何、とっても楽しい。
第2楽章は、ちょっと大人なムード漂うジャージーな曲。まさにジャズバーとかでしけこみながら(←死語)聴いている雰囲気。
第3楽章は打って変わって高速で駆け抜ける青春! 超爽やかなピアノのイントロから始まるこの楽章はちょっとジャズぽくないというか、どっちかというと50年代60年代の映画音楽ぽくない? 知らんけど。そしてそれを熱い炎を散らしながらサラッと演奏する3人の凄さを見せていただいた。楽しそう。実は私、客席でも相当ノリノリになりましたよ。いっええええい!
満場の拍手に嬉しそうな表情の3人。何度も出入りの後、男性陣はなぜか後ろに離れて控えて立ち、八木さんだけが前に出てマイクを握る。以下八木さんのご挨拶の再現だが、もちろんそのままのお言葉とは違います。
「今日はありがとうございました。自分がやりたいと思うことをアレもこれもと詰め込んだら、こんなに幅広い曲になってしまって、お二人にはご迷惑おかけしました」会場笑。いやいや、と手を振り笑う男性陣。
「次回は3月10日にこの会場で、ヴァイオリンの島方瞭さんのリサイタルがありますので、ぜひいらしてください」
なんでしょう。次回番宣をせよというルールが課せられているの?(笑)岡本さんがこのようなことを仰ったときは「おっさすがコンマス! JNOのリーダー的存在の方は責任感があるなあ」と感心したが水野さんも仰ってたし、皆さん営業にも長けてらっしゃる。じゃなくてリスペクトし合ってのことよね、きっと。でもね、八木さんのご発言ももちろん素晴らしかったけど、(もっとお姫様いや女王様然としていらしてもいいのよ〜美しい方なのだし)と密かに思ってしまった。そんなことしたら人間関係悪くなるか(笑)。あ、それに今回はウンディーネだった。とにかく八木さんの揺るぎないフルートの演奏と可憐なお姿に、すっかり魅せられました。
アンコールは、前半のウェーバー三重奏から第2楽章。スケルツォ。アレグロ・ヴィヴァーチェ。弾むような演奏がどんどん速度を増していく。推しのピアノの弾み感が半端ない。こういう時の務川さんはちょっと上の方から指を下ろして跳ねるというか、よく外さないな。本当になんでも弾けて素敵(←そこか)。拍手。
(余談)
2日後の3月9日の浜離宮朝日ホールでの演奏会も大盛況だったようだ。アンコールもピアノとのデュオでダニーボーイと、さらにもう1曲トリオと、なんと2曲も! わー贔屓贔屓! …いやいいです。奈良でもう1曲やっていただいてたら、もちろん嬉しいですが、家にたどり着けなかったでしょうから(笑)。そんな綱渡りな遠征ですの(汗)。
というわけで奈良公演終了。時刻は20時55分。素晴らしい演奏会の余韻を心にまといつつ、そこからの帰路が長いんだーこれが。
この会場は素敵なんだけど、マチネにしたらもっとお客さんも入るんではないのかなとか、色々思っていたら、そこは運営側も考えたようで、なんと3月10日「ヴァイオリン島方瞭の世界」からは、会場がJR奈良駅前の「なら100年会館中ホール」に移動するらしい。これならお客様も来やすくなりますね、と思ってさて自分の場合はと見たら……遠くなっとる。詰んだ……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?