アメリカ経済が崩壊する瞬間
「歴史は繰り返されるのだよ」
かの共産主義思想が蔓延していた1960年代、神とまで崇められていたカール・マルクスの残した言葉である。
共産主義思想はソ連の崩壊によって荒地と化した。
2000年代は資本主義の時代になり、共産主義は忘れられた、はずだった。
しかし2016年に資本主義が大きく揺れ動く事態が起きた。トランプの当選である。
連日メディアは彼の動向を伺い始めた。
新世代のポピュリストとして世界中に名前が知られた瞬間だった。
その後、トランプは民主党のバイデンに敗北する事態になる。敗戦理由は様々だが、彼のポピュリストとしてのカリスマ性は全く失われなかった。なぜならば、2024年の大統領戦で圧勝と言える勝利を勝ち取っているからである。
そんなトランプの掲げるマニュフェストは大きく2つのポイントがある。
・貿易関税の増税
・移民の制限、送還措置
である。
この政策で狙うのは利下げの停止とドル高によって物価の低下である。
そしてトランプの支持者は米国のラストベルトと呼ばれる「プロレタリアート」の人々だった。
ニュースで連日報道される大統領選では「富者」vs「貧者」で扱われているのが象徴的だった。
さらに、バイデン政権の移民融和による犯罪を止めるため再び国境を制限させることを提示している。
トランプの政策を一言で表すならば「保守」の代表格ということができる。
しかし、トランプの政策はアメリカ経済にいい風を吹かせることはできるのだろうか?
1930年のアメリカ大恐慌はトランプ政策
アメリカは過去に「暗黒の木曜日」を経験している。
歴史の授業では「アメリカの大量消費社会の終わり」というのが決まり文句ではあるが、大恐慌の背景をみると現代社会の鏡写しのように感じる。
まず、フォードのベルトコンベア式生産によって「大量生産」が可能になった。さらに、アメリカは周辺諸国(南アメリカ諸国)の植民地化を進め「大量消費」を可能にした。
この時代のアメリカは「最強の循環式経済」を作ることに成功したのである。
だが、企業の拡大は成功したが、消費には限界があった。
車や土地、建物といった財産は循環するのに時間がかかり過ぎた。限界に達した消費と拡大する生産に齟齬が生まれ一気に弾けたのが大恐慌だった。
ご存知の通りアメリカ経済はさらなる崩壊に向かっていき「フーヴァー村」と呼ばれる働く場所も帰る場所もない人々が生まれてしまう事態に発展する。
その時の希望の日差しと思われたのが「貿易関税の増税」である。
アメリカ政府は海外からの輸入に対する関税をかけることで国内産業を保護しようと目論んだ。要するに20世紀の鎖国である。
保護貿易は、アメリカだけでなくイギリスも「ブロック経済」として実施する。
既に20世紀はグローバル社会である。世界中で大型船が行き交いエネルギーから穀物、工業製品が貿易商品だった。
当時のフーヴァー大統領は「国内の生産消費に切り替えれば支出の人間が可能になる」と考えたに違いない。
「スムート・ホーリー法」として打ち出された保護貿易政策は国内GDPを2%押し下げ、アメリカの保護貿易に牽制する形でオランダ、イギリスも同様の措置を実施することになる。
その後、世界は第二次世界大戦へと発展していき、日本も大東亜共栄圏、本土上陸など300万人もの尊い命が失われることになる。
今の世界が同じような状況になるとは言い難いが、同じような保護貿易による支障は起こる。
例えば、現在ヨーロッパでは経済協定であるEUが発足され、各国の赤字収支や貿易を互いに支え合っている状況だ。
このEUの中でも違う雰囲気なのがドイツである。ドイツはEUの予算1500億ユーロの内、300億ユーロを補填している。さらにEU内で最も黒字額が大きく、2000年にEUを襲ったユーロ危機(別名、ギリシャ危機)はドイツによる支援によって難を逃れた。
ドイツはEUの頂点に立つ独裁者の立場にある。
そのドイツは今大きな局面に立たされている。
ドイツの第7代連邦首相ゲアハルト・シュレーダーは親ロシア派としてノルド・ストリーム建設に同意している。そこからドイツはロシアのエネルギーに依存する状態に陥っており、ロシアはエネルギーの安定供給先を見つけることができたのでる。
さらに第8代連邦首相アンゲラ・メルケルはさらなるドイツ一国化を目指した。ユーロ危機を期にEU諸国の中で圧倒的な存在感と「借り」を作った後、シリア難民の受け入れを行った。
ドイツ国内では移民の流入による治安の悪化が批判されることになるが、ドイツの少子高齢化問題を一気に解決させる最善策だった。
自国内に大量のプロレタリアートと債券を持つドイツは正にヨーロッパの支配者になったと言っても過言ではない。そのドイツが今後の世界を大きく帰ると言っていい。
話をアメリカに戻そう。
1930年代のアメリカはスムート・ホーリー法によって自国経済を守ろうとしたが結局自滅することになる。
それは2024年の現在も変わらない。トランプのメキシコ移民の制限と対中貿易はアメリカの経済を破壊することになる。
特に大豆を生産する農村地域への影響が大きい。
これはアメリカの大豆の主要輸出国を表したデータになる。
データを見て分かる通りアメリカは中国に対して141億ドルもの大豆取引を行っている。もし、トランプ大統領が中国との貿易関税を大幅に引き上げるならばアメリカ内で莫大な大豆が行き場を失うことになる。
トランプは国内に海外の輸入品が流れ込んでおり自国の生産性を損ねていると豪語するが、その効果が一時的なものですぐにグラつき始める。
移民制限は国内の産業を破壊する
さらにトランプの掲げる移民制限は米国内の産業を衰退させることになる。
今は21世紀。日本企業もヨーロッパ企業も全てが海外に工場を持つ時代である。その代表例が中国であり、現在は東南アジア諸国に手が伸びている。
理由は簡単であり先進諸国は安い賃金を求めて南下しているのだ。ロシアもEUの穀倉地帯と呼ばれたウクライナを占領し年貢を納めさせてきた。(その後重すぎる年貢に餓死する人々が大量に出てくるようになりホロコーストに並ぶ最悪の人権侵害として名を連ねる「ホロドモール」)
我々も常日頃こうした地域に住む人々が格差に苦しんでいる映像を見ている。多くの人が「格差は良くない」「貧しい人を助けるべきだ」と思うだろう。しかし、胸に手を当てて考えてほしい。
「普段、どんな服を着ているだろうか」「スーパーではどんな食材を買っているのだろうか」
人は品質の良くて安いものを買いたい。それが真理である。格差がが無くなればタクシーに乗る人は消える、ユニクロは閉店し、コーヒー1杯飲むのに躊躇しなくてはならない世界になる。
経済において、人間生活において格差は重要な材料なのだ。
移民を受け入れることは安い賃金で働く人材を手に入れることができる。先進国のよう日本少子高齢化で頭を悩ませる国にとって移民は重要な国家運営の柱になる。
そのため、アメリカが移民を制限し貿易関税を上げるということは実質的に資本主義の終焉と経済の破壊を意味するのである。
圧倒的なカリスマ性
2016年の大統領選でトランプの出馬はどこのメディアも注目していなかった。実際、選挙予想ではヒラリー・クリントン氏に軍杯が上がると予想されていた。
では誰がトランプに票を入れたのだろうか。
トランプの「Make America Great Again」は多くの人々を魅了させた。その最たる例が「忘れられた人々」と呼ばれたラスト・ベルトの人々だった。
ラスト・ベルトはアメリカ建国後の産業の中心地として栄えアメリカの工業化はここで行われた。
その後、アメリカ企業は成熟した経済をさらに成長させるため海を渡っていく。
使われなくなった工業地帯は結果、ラスト・ベルト(錆びた街)と呼ばれるようになった。
偉大なアメリカを作るために尽力した人々は今やプロレタリアートの代表例に堕ちてしまった。
そこに現れた救世主はアメリカを建て直すと言ってアジした。
当時のプロレタリアートにとってトランプの存在がどのように見えたのかは分からないが、ヒラリーに勝てる程の支持を集めたことを考えれば想像は容易い。
破壊されたアメリカ経済は日本も破壊する
このアメリカ経済の崩壊は日本にも大きな影響を与える。2008年のリーマンショックでは日経平均7,000円代まで低下し1ドル=110円のレートは11年には75円まで下落する。
時はグローバル時代、現代でも同じような状態に陥れば日本経済は2008年以上に最悪になる。
日本政府は現在、国債として1,000兆円、地方債では200兆円を発行している。対外純資産として1,400兆円を保持する日本は世界最大の債権国となっている。
これだけでもギリギリの国家運営だということは分かる。アメリカの崩壊でさらなる危機が来た時、日本は危機を乗り越えるだけの力を持っているとは言い難い。
さらに、日銀は2016年にマイナス金利という禁断の果実に手を出している。だが、日本国内の貯蓄は変わらず、経済は完全に機能しなくなっている。
国債の発行額から考えて金利の引き締め政策は決断できない。さらには緩めることもできない。
笑うしかないが八方塞がりの状態なのが今の日本なのである。