「アメリカの大学生はよく勉強する」説は本当?
「アメリカの大学生はよく勉強する」「日本の大学生は勉強をしない」、それに関連して、「アメリカの大学は入るのが簡単だが卒業するのが難しい、日本の大学は入るのが難しいが卒業するのは簡単」という話は聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。実際に1学期を過ごしてみて「単純にそうとは言い切れない」と感じたことをまとめてみます。アメリカでは東/西海岸や国/私立で違いが大きいという話もよく聞きます。私が経験しているのは西海岸の国立大学なので東海岸の私立大学とは異なるかもしれません。
留学前の認識
まず、私もこれらの話を信じていました。ただ、どちらが良い悪いという話ではなく、就職と絡んだ仕組みの違いによるものだと考えていました。アメリカはスペシャリスト型かつ中途採用が活発な構造なので大学での専門的な学びが就職に直結する、そのためには将来の就職先に繋がる学部できちんと学び、良い成績を取ることが求められる。対して日本ではジェネラリストが求められ新卒一括採用が一般的なこともあり、大学の学部と就職先に関係が求めれることは少なく(特に文系)、”ポテンシャル採用”とも言われる通りその時の能力というよりは地頭の良さやコミュニケーション力のようなスキルを基準に採用されるので、大学時代の成績は重視されない。そのため、日本の大学生が勉強に力を入れていないとしても、それはそれで(自分がよければ)合理的な判断だと考えていました。実際に、大学ではそつなく単位を取って無事に卒業すればいいという程度に勉強して、部活に力を入れる・長期インターンをする・起業する…様々なことに集中している人はいて、就職にはその方が有利という意見もあります。
私も「大学で勉強を頑張ったからといって就職に直結するわけじゃない(特定の資格や免許が必要な職業以外)」ということを大学に入ってから感じ、何を中心に大学生活を送るかを悩む時期もありました。ただ、私は経済学部なのですが、その理由を思い返すと、高3の時に「経済学を学びたい」と思ったからで、私は「就職に直結しないとしても、大学での学びに集中したい」という判断をしました。だからこそ、「アメリカの大学生はよく勉強する」という話を信じていたので、交換留学という手段を利用して、アメリカの大学生がいかに勉強するのかを肌で感じたいと考えました。まさに留学を決めた1番の理由です。
1学期過ごして感じたこと 要約
始めにも書いた通り、「アメリカの大学生が(日本と比べて)よく勉強する」と単純には言い切れない、少なくとも、学生自身の学びに対する意欲には日米で違いがないというのが私の結論です。以下で順に述べますが、根拠として自主学習時間・授業時間、学習環境、勉強する習慣、などの違いが挙げられます。
学びに対する意欲は日米で大差ない
まず、学びに対する意欲の話ですが、勉強が好きな人・熱心な人は意欲的に勉強する(want to study)し、それ以外の人は必要だから勉強する(have to study)という感じで、当然のようにその人次第なので、それはまさに日本と同様です。ただ、このhave to の意識が日本の学生よりも強いという部分はあります。その理由として私が事前に認識していたように就職の際に成績が重視されることも関わっています。またアメリカでは様々なタイプの奨学金を利用している学生が多く、それを獲得・継続するために良い成績が必要となるというケースも多いです。
自主学習時間と授業時間
私がこの説を信じていた根拠もここにあるのですが、アメリカの大学生は「自主学習時間が長い」という調査結果をよく目にします。実際こちらに来て、必要な自習は確かに多いと感じました。授業の前に読むべき教科書の量が多く、宿題が出されることも多いからです。しかし、その分、授業時間は日本と比べてかなり少ないです。私は日本では前/後期のセメスター制(ほとんどの日本の大学)の大学、アメリカでは秋/冬/春学期のクオーター制の大学なので、1学期の長さが違いますが、1年トータルで考えると比較できます。私は日本では平均、1学期あたり2単位を15科目なので計30単位、つまり1年で30(単位)×2(学期)=計60単位くらいを履修していました。対してアメリカでは1学期あたり4単位を4科目で計16単位、1年で16(単位)×3(学期)=計48単位を履修するペースです。しかも、アメリカでは主流なのか、私の大学では履修単位数の上限が1学期あたり20単位と定められていて、成績の優秀な学生は特別に申請して上限を取り消せるようです。実際にこれほど取っている学生は珍しく、私の周りの交換留学生は3科目12単位がほとんど、留学生ではない現地生でも3科目取る人が5割・4科目取る人が4割・5科目取る人が1割くらいに感じられます。日本と比較して履修単位数は少ないと思います。
具体的に時間割を紹介するとわかりやすいと思いますが、私は前の学期では月水金は午前休(授業があるのは15時〜18時)、火木は午後休(授業は8時〜11時)というイージーモードです。今学期は、火木が11時〜17時まで空きコマなしできついですが、水金が全休(!)、月曜は午前休(授業は14時〜18時)という偏りイージーモードです。ただ、半休でも全休でも、それを自習に費やすことになるので結局イージーではない、という感じです。
以上をまとめると、アメリカは日本と比べて授業時間が短いが自習時間が長い、ということです。単純に学習に関わっている時間(授業+自習)は日米で同じくらいだと思います。
学習環境が整っているアメリカ
学習に対する学生の意欲には大差がないと述べましたが、「学習したい」と思ったらしやすい環境はかなり整っていると感じます。これは本当に来て良かった点です。具体的には、コツコツ学習させる仕組み、テスト対策のしやすさ、質問しやすい環境、シラバスが明確、フィードバックが多いなどの点が挙げられます。1つずつ述べていきます。
コツコツ学習させる仕組み
授業の評価方法は、「期末テスト一発」という授業は滅多にありません。テストで評価する形式の場合、基本的には中間テストが最低1回、多いと2,3回あるものもあります。それ以外に宿題として練習問題やレポートなどが出され評価に含まれます。クオーター制で10週という短い1学期の中でこれだけテストや課題があると、毎週なんらかの勉強をする必要が出てきます。授業が普段からディスカッション形式のものだと、テストではなく最終レポートや授業への参加(出席ではなく、参加)、複数回の小レポートや様々なプロジェクトなどで評価されます。こちらも毎週なんらかの課題や準備に取り組む必要があります。否が応でも日頃から学習をする仕組みになっている授業が多いので、日本にいた時ほどテスト前が大変ではありませんでした。
テスト対策のしやすさ
上述したように1学期のうちにテストが複数回ありますが、その度に多くの授業でテスト対策が行われます。中間・期末ともに、過去問や教授自身が要点をまとめたガイド、論述問題のテーマなどがアップロードされ、各自でテスト対策できます。さらに授業時間やディスカッションセクションというTAによる復習の授業(後でも述べます)で解説してくれたりします。
質問しやすい環境
質問や発言については大きな文化の違いに気づいたので、また詳しく書きたいとは思うのですが、簡単に言うと、イメージ通りアメリカの学生は本当によく授業中に質問します。教授も授業中に一区切りがつくと「質問ある?」ときいてくる人が多いです。さらに、授業中の質問は恥ずかしくてできないという学生でさえ、質問できる機会は多いです。上述したディスカッションセクションは、博士課程の学生がTA(Teach Assistant)として担当する授業です。主に、その週の授業内容の復習ですが、授業自体がどんなに大人数のものでも、これは40人以下の1クラスになっていて、TAとの距離はかなり近く、教授の授業よりも気軽に質問できる環境です。さらに、教授・TAともにオフィスアワーを設けています。日本でも教授が初回の授業でオフィスアワーを紹介してくれることはありますが、私の周りではほとんど活用されていませんでした。アメリカだと多くの教授・TAが毎週のようにオフィスアワーのことに触れ、「わからない箇所があれば来るように」とリマインドしていて、多くの学生が利用している印象があります。
シラバスが明確
日本の大学でもシラバスはあり、丁寧な教授は初回の授業で読み合わせをしながら評価方法や注意事項を述べてくれます。ただ、履修する授業を迷っている段階や受け始めた時期に読んでも、それ以降は見ない、ということがほとんどでした。アメリカのシラバスについてまず感じたのは、成績の評価方法が明確に記されていることです。評価が期末テスト一発ではなく複数の組み合わせであることから、それぞれが何%配分されるのかが明確だったり、相対評価なのか絶対評価なのか、点数と最終評価(A,B,C,F等)の対応表などが記されています。また、授業のスケジュールが細かく書かれていて、いつまでに教科書のどこを予習しておけばいいかわかったり、その授業で必要な資料のURLが添付されていたりします。また、授業のホームページ上にこのスケジュールを載せている授業も多く、授業の進度によってこまめに更新されることもあります。
フィードバックが多い
私が日本で大学に入ってから気づいたことの1つが「フィードバックがない」ということでした。語学の授業は、正解/不正解がはっきりしている内容だからか、少人数のクラスだからか、小テストや期末テストなどで採点結果の返却や、作文の添削があった気がします。が、それ以外では、「期末テストを受けて受けっぱなし」「レポートは出して出しっぱなし」で後になって最終成績だけ知る、という授業が多かったです。テストの模範解答はなくても自分で調べる力が大切なのか、という考えもありましたが、テストの問題用紙さえも提出してしまい問題さえ手元にない、という場合もあります。レポートも「そうか、あれはBのクオリティだったのか」と感じるだけで、何が良くて何がダメだったのか、考えるにも至らないことが多いです。アメリカでは、テストが選択式の場合は模範解答が共有され、平均点や最高点などクラス全体の情報が公開される授業が多いです。また、レポートについては事前に細かく評価基準が公開され、その基準に従って採点された点数を知ることができます。例:論理的な文章構成 4.5/5, 文献の正しい引用 4/5, ...etc.という具合です。それぞれの項目ごとにコメントがあることもあり、私はアメリカでのレポートの形式に慣れていなくて間違えていた時には有用なサイトのURLを添付してくれました。やはりフィードバックの有る無しで、内容の定着度(テスト)や文章の技術の上達(レポート)は大きく違う気がします。ある種高校までの”勉強”のようにも感じられ、大学には馴染まないという意見もあるかもしれませんが、私は非常に有り難い仕組みだと思っています。
まとめ
以上、私がカリフォルニア大学で1学期を終えて感じたことを日本での経験と比較してみました。大学生自身の勉強へのモチベーションは日本と変わらないと感じ、授業/自習時間の配分の違いや授業システムの違い、そして学習環境に違いがあると述べてきました。日本でもアメリカでも、勉強する人はするし、しない人はしない、結局学生次第、というのはなげやりな結論のようですが…
私自身が大学に入ってから「アメリカの大学生はよく勉強する」という話を耳にする度に、「日本の大学でちゃんと勉強してるつもりで満足してはいけない」という焦りや劣等感を覚えていました。だから、同じように感じている方がいたら、その必要はないと伝えたいと思いました。ただ、「勉強したい」という思いに応えてくれる環境は日本以上に整っていると感じます。私は環境に感謝しながら、しっかりと学んでいきたいと改めて思います。
写真は、カリフォルニア大学 (UC)システムの中でも有名なBerkeley校の門です。
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