(百)楊万里の代表作「月下傳觴」を読む
「月」は詩詞の最も重要なテーマの一つである。月の歌と言えば、先ず李白の「月下獨酌」を思い出す。
月下獨酌
花間一壼酒,独酌無相親。
挙杯邀明月,対影成三人。
月既不解飲,影徒随我身。
暫伴月将影,行楽須及春。
我歌月徘徊,我舞影零乱。
醒時同交歓,酔後各分散。
永結無情遊,相期邈雲漢。
北宋の文人蘇軾はこれを受けて、次の詞を作った。
念奴嬌(中秋)
憑高眺遠,見長空萬里,雲無留跡。
桂魄飛來,光射處,冷浸一天秋碧。
玉宇瓊樓,乘鸞來去,人在清涼國。
江山如畫,望中煙樹歴歴。
我醉拍手狂歌,舉杯邀月,對影成三客。
起舞徘徊風露下,今夕不知何夕?
便欲乘風,翻然歸去,何用騎鵬翼。
水晶宮裡,一聲吹斷橫笛。
唐代までは、大陸の人達は月をよく見たが、宋代になると、月に対する情熱は既に下がっていて、月を見る人も少なくなった。
しかし、詩人は異なる。蘇軾でなくとも、酒を飲んで、空想の世界に入り、月や自分の影と友になったり、大鵬に跨り、自由に行き来することを夢想したりするのは詩人の常である。
南宋吉州吉水(現江西省吉安市)の人、楊万里は更に発展させて「新月下独酌」とも言うべき詩を作った。時に、67歳であった。その年令を感じさせない力強い表現力を有している。
自らを「老夫」と呼んでいるが、それに反して、「酒入詩腸風火發,月入詩腸冰雪潑」と若々しさを見せている。これを以って、楊万里の代表作としてもよかろう。
重九后二日同徐克章登
萬花川谷月下傳觴
老夫渇急月更急,酒落杯中月先入。
領取青天并入来,和月和天都蘸湿。
天既愛酒自古傳,月不解飲真浪言。
擧杯将月一口呑,擧頭見月猶在天。
老夫大笑問客道,月是一団還兩団。
酒入詩腸風火發,月入詩腸冰雪潑。
一杯未盡詩已成,誦詩向天天亦驚。
焉知萬古一骸骨,酌酒更呑一團月。
「月」という字を9回も用いている。詩詞の伝統は彼も十分承知しているが、詩興を生かすための止むを得ざる選択の結果であろう。
詩人と月の交遊を細かく描いて、詩興を盛り上げている。「更呑一團月」で終わらせて、読者に次への期待を持たせている。
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