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第6章 科研費を獲得する−科研費はコンペである(4)フィールドワークを行う

科研費は、研究者から提出された計画調書に記された研究計画に対して支払われる国の補助金です。

科研費計画調書の「本文」の中の「(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」の項目で具体的な年度ごとの研究計画を記載するのですが、ここでは「学術的問い」に対応していることを審査員に理解して頂けるようなクリアな文章で研究計画を記載します。

研究計画の具体的内容としては、フィールドワーク(フィールド調査)の実施計画を書くことになります。

フィールドワークとは、研究者自らが調査対象地を訪問して、観察、映像や音声の収録、当事者への聞き取り調査、アンケート調査、資料収集などを行う活動のことです。

立教大学の実松克義名誉教授は、「フィールドワーク ―人類学の方法論とその課題―」と題した論文の中で、フィールドワークについて次のように述べています。

フィールドワークとは文字通り、研究テーマが対象とする地域、現場、あるいは集団において直に調査研究をすることである。フィールドワークはまた現地調査、実地調査とも呼ばれる。あるいはその特色を強調して「現場主義」と呼ばれることもある。また学問分野によって は地域調査、実態調査、野外調査、巡検、臨床調査等という表現も使われる。

実松克義「フィールドワーク ―人類学の方法論とその課題―」『国際行動学研究』第12巻、2017年10月 

実松さんが説明している通り、学問分野によって呼び方は様々ですが、研究者が現場に赴いて何らかの調査を行う点では共通しています。

実松さんは、フィールドワークの方法として、下記を列記しています。

(1)(非参与)観察((Non-participant)observation)
(2)参与観察(Participant observation)
(3)インタビュー〈聞き取り調査〉(Interview)
(4)アンケート調査(Questionnaire survey)
(5)映像による記録(Visual data)

実松克義「フィールドワーク ―人類学の方法論とその課題―」『国際行動学研究』第12巻、2017年10月

(1)~(5)について、さらに次のように説明されます。

(1)非参与観察とは現地において外から観察を行うことである。部外者として振舞い、 直接現地の人々とは関係を持たない。明らかな限界を持つ静的な方法であるが、客観性と いうメリットがある。

(2)参与観察とは、現地の人々とその活動に関わり、内側から観察を行うことである。活動の参加者、あるいは社会の一員として振舞い、より本格的な理解 を目指す。この方法は、行事、祭事、儀式等への一回限りの参加から、長期間にわたる人々 との交流、社会参加まで、多くの種類、ヴァリエーションが存在する。大きなメリットを持つ、ダイナミックな方法であるが、主観的理解というデメリットもまた存在する。

(3)インタビュー(聞き取り調査)は文字通り現地の人々に質問をし、必要な情報を聞き出す 行為である。質問項目を決めた構造化インタビュー、まったく決めない非構造化インタビ ュー、またその中間の半構造化インタビューがある。インタビュー調査の最大のメリットは、テーマに関する意見を対面コミュニケーションによって知ることができることである。実際には、インタビューの形態は、目的また状況によって千差万別である。

(4)アンケート調査は設問用紙を配布し、その回答を回収して情報収集を行う。回答は四択または五択方式と、自由記述方式の両者がある。前者のメリットは直に数量化が可能であることである。しかし多くの回答が正確ではない可能性もある。後者はその欠点を補うために必要で、より深い内容の回答を得るのに役立つ。アンケート調査は一度に多くの対象者を相手に実施できるというメリットがある。しかし同時にまた回収率の問題があり、積極的な協力が得られない場合は有効さを欠く。

(5)また最近注目されているのが映像という情報媒体の多用である。景観、建築、人物、作業、行事、儀式等をビデオ、写真等として記録するも ので、(1)~(4)の情報を補完し、あるいは(1)~(4)では記録できない情報を取得することができる。

実松克義「フィールドワーク ―人類学の方法論とその課題―」『国際行動学研究』第12巻、2017年10月を一部修正の上、引用

また、文学や歴史学などの分野では、あらゆる地域の図書館などに出向いて、資料を探し、必要に応じて、写真撮影などにより記録・収集します。この活動もフィールドワークの一形態と言えます。

話を科研費計画調書に戻しますと、研究計画の具体的内容としては、フィールドワーク(フィールド調査)の実施計画を書くのですが、科研費はこうした学術調査に対して補助金を与えるものです。

日本国内および海外に赴いて調査を行うには、多額のお金がかかりますので、そうした調査研究に対して国が研究者を支援する訳です。

基盤研究(C)では3年間の研究計画に対して補助金が交付されます。採択されるためには、「(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」において綿密なフィールドワークの計画を記す必要があります。

私の計画調書「『観光振興プロジェクトの地域連携パス』の開発と体系化」の「(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」では、次のように記載しています。

本研究では、地域のSH(ステークホルダー)への聞き取り調査を通じて、PT(観光振興プロジェクト)の事業評価指標(定量データおよび定性データ)の統合と、地域のSHと実績値と目標値を共有する仕組みとしての「連携パス」の開発と体系化を進める。以下、図1に基づいて研究手順を説明する。なお、各年度にアンケート調査の実施の一部業務と集計を業者に委託する。

大塚良治「『観光振興プロジェクトの地域連携パス』の開発と体系化」
『基盤研究(C)』計画調書

聞き取り調査のために、いくつかの地域を訪問し、地域の地域のSH(ステークホルダー)に話を聞くことになります。

私の上記の計画調書では、初年度の計画として、次のように記しました。

【2023年度:大井川鐵道沿線地域および西武グループ・埼玉県所沢市への聞き取り調査】
(A)存続問題が発生した大井川鐵道沿線地域を訪問し、沿線自治体、鉄道事業者からSL運行経費や利用促進に関して聞き取り調査を行う。併せて、沿線学校に対して大井川鐡道に関する意識調査を行う。また、西武グループ各社および所沢市を訪問し、西武グループが埼玉県所沢市で進めるPT1遊園地やプロ野球球場の改修などの一連の事業に関して聞き取り調査を行う。これらの調査に基づき、(B)大井川鐵道および西武ホールディングスのPTに対する財務分析を行う。さらに、観光資源の実態に関する定性データを入手した上で、SWOT分析やBSCへの指標の落とし込みを行い、(C)聞き取り調査協力者と調査結果を共有してさらにディスカッションを行う。そして、これらの調査研究の成果を基に、(D)継続的な事業改善(PDCAサイクルの実施)の議論を通した「連携パス」の開発と体系化を進める。

大塚良治「『観光振興プロジェクトの地域連携パス』の開発と体系化」『基盤研究(C)』計画調書

どのような調査を行うのかを簡潔ながらも具体的に説明します。

審査員に「この研究計画は投資に値する」と思って頂けるようなフィールドワークの計画をしっかり書くことが大切です。

審査員に、学術や社会の発展に意義があること、多額の費用がかかること、そして投資を実行するに値する研究計画であることを納得して頂くために、フィールドワークの計画をしっかりと記入することが採択のカギを握っていることを意識して計画調書を書くようにしましょう。

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