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第6章 科研費を獲得する−科研費はコンペである(3)応募する学問分野・テーマの先行研究をレビューする

科研費計画調書で記入が必要な「学術的問い」を設定するためには、普段から仮説検証の習慣をつけることともに、普段からご自身の専門分野の先行研究をなるべく多く入手し読む作業を習慣化することが必要です。

研究とは、先行研究にない新たな知見を付け加える営みであり、「学術的問い」の設定は研究のスタートラインとなります。

先行研究に足りないところ(未解明の問題)を見つけることが、「学術上の問い」を設定する上で必須です。

このように、「学術上の問い」を設定するために、先行研究をレビューする作業を普段から丹念に行うことが望まれます。

論文執筆のための研究書や論文、報告書、新聞・雑誌記事、さらには授業資料作成のための教科書類など、研究に必要な資料は山ほどあります。

かつてインターネットがほとんど無かった時代、論文を入手するには、学術誌が収蔵されている大学図書館まで出向いて、書庫の中にあるバックナンバーを探し出し、コピーを取らせてもらうしか方法がありませんでした。

それが、現在では、J-STAGE(1998年プロジェクト開始)やcinii(2004年サービス開始)、Google Scholar(2004年サービス開始)などの論文・文献検索サイトが非常に充実しており、自宅で手軽に論文を入手できるようになりました

特に、J-STAGEは無料ダウンロードできる論文が豊富に表示されますので、大変使い勝手に優れていると思います。

ただし、過去のバックナンバーは電子化に対応していない場合が多く、また最近の論文であっても、電子化非対応の学術誌は数多くあるので注意が必要です。

私も加入している「日本ホスピタリティ・マネジメント学会」は和文と英文の学会誌をそれぞれ年1回発行しているのですが、2020年度発行分まで冊子版のみの発行で、電子版は未発行でした。

2021年度発行分から電子版に移行し、学会ホームページに2021年度分のみ全論文を掲載しています。現在、J-STAGEへの搭載に向けて、手続きを進めています。将来的にはバックナンバーの電子化も進める計画もあります。

一方、最も入手が簡単なのが、書籍です。リアル書店に出向くことなく、インターネットから簡単に検索し購入することができます。

図書館で借りるという方法もありますが、論文に引用した書籍はできれば購入し、手元に置いておくことが望ましいと思います。

数年前に亡くなった私の大学時代の恩師は、英米独の会計学の原典を数多く集め、「論文に引用するからには、必ず手元に置いておく必要がある。博士論文の審査の時*に、審査員から『参考文献リストに記載の文献を一部持ってくることはできますか』と問われた時、『全部持参することができます』と答えて、審査員を納得させたこともあった」とよく話しておられました。

*恩師の先生は大学での勤務を続けながら、文献研究を主体とする論文を数多く著し、50代後半の時に研究の集大成としてまとめた書籍を刊行されました。そして、その約2年後に、還暦近い年齢で母校の明治大学から博士(商学)の学位を取得しました。博士号取得まで、明治大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学から、実に30年近い歳月を要したことになりました。恩師の先生はかねがね「論文博士だから乙号だ。(課程博士の)甲号の方が響きはいいよね」とボヤいておられたことを今も懐かしく思い出します(しかし実際は、甲号と乙号は単なる授与区分の違いに過ぎず、博士号の価値に違いは全くありません)。文系の博士号は、大学院博士後期課程の終了時に授与されず、単位取得退学後に大学教授となって「研究の完成」に対して授与されるある種の「名誉称号」としての側面があったと思います。なお、大学院博士後期課程単位取得退学など博士号をめぐる事情については、「第5章 「好きなことを仕事に」上級編−アカデミックポストを獲得する(2)博士号をめぐる諸事情」をご参照願います。

ただ、実際に、冊子版の書籍をすべて保管することは大変なことです。首都圏郊外にあった鉄筋コンクリート造の恩師の豪邸では、書棚に収まりきれなかった書籍が階段にまで積まれていました。

そして、冊数が増えると、お目当ての書籍の行方がわからなくなることもよく起こります。

恩師は、大学の研究室で「あの○○という書籍を引っ張り出そうと思い探しているが、自宅では見つけられなかった。研究室にあると思っていたが、ここでも見つからない。思い切って、もう一冊購入することにした」と私に話したこともありました。

私が大学生の時分でしたので、四半世紀も前の出来事です。その当時、Kindleは影も形もありませんでした(Kindleのサービス開始は、2007年11月)。

近年のKindleの充実ぶりには、目を瞠るものがあります。電子書籍で購入するタイトルは、かなり増えました。

研究の手始めは、専門分野の書籍を講読することです。できれば、興味関心を持った専門書や研究書がよいと思います。

研究書の多くは、先行研究を踏まえて、問題意識(問題背景、仮説、および「学術的問い」)→検証・調査・分析→考察→結論という順序で構成されています。

研究書は、先行研究の講読対象として利用するだけでなく、自身の研究を進めつつ研究の構成を考える際の手本として活用します。

研究書には、章末や巻末、あるいは脚注の形で、引用または参考とした文献名が記載されます。また、大抵は、巻末に参考文献リストが記載されています。参考文献リストから自身の興味関心に合った文献を見つけることができます。

上記で見つけた文献が書籍であった場合は購入または図書館から貸出を行い、論文であった場合はJ-STAGEなどで検索をし、紙媒体でしか発行されていない場合は所属機関から紹介状を書いてもらって収蔵している研究機関の図書館などに出向くか、あるいは論文の複写を依頼し郵送してもらうことになります。

研究書の参考文献リストから見つけた文献の巻末に記載された参考文献リストを確認し、さらに興味関心をひかれた文献を見つけ、さらに書籍購入や論文入手へと進みます。

以上をまとめますと、以下の手順となります。

①研究書の参考文献リストから興味関心をひかれる書籍や論文を見つけて入手する→②新たに入手した書籍や論文の参考文献リストから興味関心をひかれる書籍や論文を見つけて入手する→③以下、同じ手順を繰り返す

以上のように、芋づる式に次々と書籍や論文を見つけて入手する作業を繰り返していくと、次第に先行研究の書籍や論文のストックが積み上がっていきます。

そして、入手した先行研究の書籍や論文をひたすら読んでいくことになります。読み終えた書籍や論文はいつでも引用できるよう、何らかの形でリスト化しておくとよいでしょう。

できれは、上で記したように、大量の書籍や論文で部屋が埋もれてしまわないようにするため、電子書籍や電子ジャーナルの形で入手するのが理想です。

こうした地道な作業が、論文の執筆や科研費計画調書の作成に役立つのです。

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