第6章 科研費を獲得する−科研費はコンペである(3)科研費に採択される「学術的問い」の立て方
科研費を獲得するためには、科研費システムから計画調書を提出しなければなりません。しかし、計画調書を書くのは論文1本分と同じくらいの労力を要するというのが、採択経験者がほぼ口を揃えることです。
2022年度計画調書では、大きく「概要」「本文」「応募者の研究遂行能力及び研究環境」および「人権の保護及び法令等の遵守への対応」をそれぞれ記入することになります。
「本文」はさらに、以下の5項目に細分化されています。
[1]本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
[2]本研究の目的および学術的独自性と創造性
[3]本研究の着想に至った経緯、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
[4]本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか
[5]本研究の目的を達成するための準備状況
上記[1]が問題意識に当たる部分です。研究を始めるに当たって、初めに考える部分です。
[1]本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」では、 研究を行う学術的背景やリサーチクエスチョンを記入します。
以前の記事でも書きましたが、論文を書く際には、仮説を立てることから始めて、その仮説に基づいて「学術的問い(リサーチクエスチョン)」を設定します。このことは、科研費の計画調書を書く時も同じです。
仮説と「学術的問い」を立てるには、普段からあらゆる問題に興味関心を持つことが大切です。常に問題意識を持って物事を見るようにしたいものです。
仮説と「学術的問い」は、問題意識と表裏をなします。
つまり、問題意識を持っているから、仮説と「学術的問い」を立てる作業を通して問題意識がよりクリアになるという側面もあると言うことです。
それでは、どのようにすれば計画調書に書ける「学術的問い」を立てることができるのでしょうか。
それは、普段からあらゆる問題に興味関心を持ち、仮説検証を繰り返す癖を身につけるということに尽きると思います。
たとえば、以下のようなイメージです。コロナ禍の運輸収入減少と不採算路線の存続問題の関係についての仮想例です。
もう一つ、経営学のポピュラーなテーマであるコーポレートガバナンスや株式の相互保有(政策保有)に関する仮想例を見てみしょう。
以上の仮想例からお伝えしたいことは、普段から自身の専門分野に関係のある問題を深く掘り下げることが、「学術的問い」につながるということです。
クリアな問題意識を持つためには、自身の専門分野の先行研究を日頃から丹念に探し、読むことが求められます。
数多くの先行研究(論文および研究書)から、それぞれどのような問題意識から仮説および「学術的問い」を立てているのかを学ぶことができます。
それでは、私の計画調書をお示し、一緒に考えていきたいと思います。
私の計画調書を示す前に、2つの仮想例をお示しましたのは、なるべく多くの仮説検証の例を考えることが大切だからです。一つの例に留まらず、たくさんの例に触れることが、より良い発想につながります。
ここからは、私の計画調書に基づいて、「研究上の問い」の立て方を具体的に考えてみます。
上記の計画調書では、前半部分が問題意識(学術的背景)で、後半部分が「研究上の問い」です。
私は数多くのまちづくりや観光の現場に足を運んできました。そこでは、観光事業者、行政、市民団体、市民などのステークホルダーがバラバラな方向に向かい、なかなか一致協力することが少なかったことがあり、そのことに対して常々「まちのステークホルダーがもっと協働できる仕組みを作れないものか」と考えていました。
「これまでPTの事業評価が実施主体(行政や観光事業者等)により行われてきたものの、その結果を地域のSHと共有する十全な仕組みが存在しない状況が続いてきた」問題に対して、「こうした状況を改善することで、観光振興をより効果的に進める必要がある」と考えたのです。これが本研究の学術的背景(問題意識)です。
以上の問題意識を踏まえて、本研究における学術的「問い」を、「PTの財務分析および経営戦略分析の統合的評価指標をどのように『見える化』するのか」に設定しました。
そして、「見える化」の手法として、本研究では「連携パス」の開発と体系化を試みることを本研究の目的に設定しました。
繰り返しになりますが、私が上記の問題意識を持つようになったのは、まちづくりや観光の現場を数多く訪問し、地域の方々からお話しを伺ってきた経験から、地域のステークホルダーのベクトルがなかなかまとまらないと感じたことが背景にあります。
それに加えて、経営学をベースに、観光学やまちづくりに関する先行研究にも多く目を通してきたことも生かされたと思います。
次回は、応募する学問分野・テーマの先行研究を総ざらいするやり方について見ていきます。
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