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ツヤハダクワガタという存在

極相原生林。

それは森が成熟し、先駆植物よりも''陰樹''とよばれる、日陰を好む樹種が優先する森のこと。

鬱蒼とした森の中は、
空気がどことなく重たい。

ジメジメとした、
独特の空気が漂っている。

この森は、トクサというシダ植物がよく生えていて、脇からエゾアカガエルがぴょんぴょんと、飛び跳ねて僕の前に現れたりする。

時折倒れている太い倒木は、この森がいかに放置されているかを物語っていた。

今年もその周りに目をやると、
なにやら黒い虫がたくさん歩っていた。

オニクワガタである。

岩の上を歩くオニクワガタのオス


普段森で倒木の上を眺めたり、
ひっくり返したりをよく行っている僕にとってオニクワガタは、夏の象徴のようなもので、こうやってみられることができるだけで、ほっとする。


夏、苔むした倒木の上をよく歩いている。(2020年撮影)


やっぱり夏に彼らがいないと、
北海道の森という感じがしない。

2021年に撮影したオニクワガタのメス。観察されるのは、ほとんどオスが多いため、ちょっと珍しい。


もちろんミヤマクワガタも歩いている。
(産卵を迎えたメスばかりだが)

北海道の暑さのピークは、
8月の頭が定石であるから、
もう風のどこかには、秋の気配を感じる。

今年は去年と違って、
夏が平年並みの暑さでおさまって嬉しい。

去年、
クマゲラがよく鳴いていた場所まできた。

この森は僕が野鳥の撮影でよく訪れるところ。

倒木がやけに多いので、きっと夏にくるのも面白いだろうと密かに思っていたのだが、その時に突然出会ったのが、この虫だった。


ツヤハダクワガタ(Ceruchus ligunarius)


それはなんと、僕がずっと北海道で見てみたかった原始的なクワガタムシ、「ツヤハダクワガタ」だった。

遠目で見た時、
最初はオニクワガタだと思っていたのだけど、
近づくと、しっかりと大きなお尻と特徴的なアゴが目に入った。

ツヤハダクワガタは一生のほとんどを朽木の中で過ごす。

普段無闇に環境を破壊したりすることを避けている僕は、この手の生き物を見つけるのには、とても弱い。だから嬉しかった。

もはや、蚊が身体中に纏っている状況も全く気にならなくなり、まじまじと観察してみた。

なんだろう、この独特なツヤ感は。

昆虫をあまり知らない方にとっては、この手の生き物は、ゴキブリや、コオロギと一緒に見えるのかもしれない。(いやもちろん、僕はどちらも大好きだが)

しかし半翅目の、翅が柔らかい甲虫が持つ黒い反射と、彼ら甲虫がもつ「装甲」のようなピカピカ感では、やはり革靴と車ほど、違うのである。

和名で「ツヤハダ」と名づけた人は、昆虫の外骨格を「肌」と表現するほど、昆虫が好きだったのだろうと思われる。

ツヤハダクワガタは、「クロツヤムシ」と呼ばれる甲虫の仲間にも近く、クワガタとクロツヤムシの中間とも呼べる、そんな生き物である。

昆虫、植物、鳥類、どんな生き物を見ても、
最近は分類から、「進化の歴史」を垣間見て、感慨深くなる。

そして、なんでも分類したがりな人間に、
面白さを見出したりもする。

「ツヤハダクワガタ」という神秘。

僕にはまだまだ、
写しきれない。

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