ツヤハダクワガタという存在
極相原生林。
それは森が成熟し、先駆植物よりも''陰樹''とよばれる、日陰を好む樹種が優先する森のこと。
鬱蒼とした森の中は、
空気がどことなく重たい。
ジメジメとした、
独特の空気が漂っている。
この森は、トクサというシダ植物がよく生えていて、脇からエゾアカガエルがぴょんぴょんと、飛び跳ねて僕の前に現れたりする。
時折倒れている太い倒木は、この森がいかに放置されているかを物語っていた。
今年もその周りに目をやると、
なにやら黒い虫がたくさん歩っていた。
オニクワガタである。
普段森で倒木の上を眺めたり、
ひっくり返したりをよく行っている僕にとってオニクワガタは、夏の象徴のようなもので、こうやってみられることができるだけで、ほっとする。
やっぱり夏に彼らがいないと、
北海道の森という感じがしない。
もちろんミヤマクワガタも歩いている。
(産卵を迎えたメスばかりだが)
北海道の暑さのピークは、
8月の頭が定石であるから、
もう風のどこかには、秋の気配を感じる。
今年は去年と違って、
夏が平年並みの暑さでおさまって嬉しい。
去年、
クマゲラがよく鳴いていた場所まできた。
この森は僕が野鳥の撮影でよく訪れるところ。
倒木がやけに多いので、きっと夏にくるのも面白いだろうと密かに思っていたのだが、その時に突然出会ったのが、この虫だった。
それはなんと、僕がずっと北海道で見てみたかった原始的なクワガタムシ、「ツヤハダクワガタ」だった。
遠目で見た時、
最初はオニクワガタだと思っていたのだけど、
近づくと、しっかりと大きなお尻と特徴的なアゴが目に入った。
ツヤハダクワガタは一生のほとんどを朽木の中で過ごす。
普段無闇に環境を破壊したりすることを避けている僕は、この手の生き物を見つけるのには、とても弱い。だから嬉しかった。
もはや、蚊が身体中に纏っている状況も全く気にならなくなり、まじまじと観察してみた。
昆虫をあまり知らない方にとっては、この手の生き物は、ゴキブリや、コオロギと一緒に見えるのかもしれない。(いやもちろん、僕はどちらも大好きだが)
しかし半翅目の、翅が柔らかい甲虫が持つ黒い反射と、彼ら甲虫がもつ「装甲」のようなピカピカ感では、やはり革靴と車ほど、違うのである。
和名で「ツヤハダ」と名づけた人は、昆虫の外骨格を「肌」と表現するほど、昆虫が好きだったのだろうと思われる。
ツヤハダクワガタは、「クロツヤムシ」と呼ばれる甲虫の仲間にも近く、クワガタとクロツヤムシの中間とも呼べる、そんな生き物である。
昆虫、植物、鳥類、どんな生き物を見ても、
最近は分類から、「進化の歴史」を垣間見て、感慨深くなる。
そして、なんでも分類したがりな人間に、
面白さを見出したりもする。
「ツヤハダクワガタ」という神秘。
僕にはまだまだ、
写しきれない。
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