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三国ワルキューレ 幻想・空想チーム観劇

台風で中止になるという事態に見舞われたが、どうしても観たくてチケットを取り直して観劇。予定では、幻想→空想だったが、逆の順番で観ることになった。

三国、といっても種別の違う3種類の”人間”が争う世界。ヒューマン、エルフ、ドワーフ。すべてを人間と呼ぶが、それぞれに対立している。

そこに伝説の「勝利の剣」が発見され、途端に奪い合いが起きる。武力で天下をとらないと勝てない世界。それを象徴するかのように、勝利の剣が絶対的な力として描かれる。
奪い合う中、稲光があたりを照らし、そして次の瞬間、勝利の剣は消え、同じ場所に赤ん坊がいた・・そしてその赤ん坊が今作品の主役。

争う者同士が手を組むのは、共通の敵ができた時。これは多くの世界で、当たり前のようにある出来事。この作品でも、最終的にはそうなっていくが、それよりも前に、赤ん坊という存在、いわば守るべき存在も人と人を結びつけるということを示す。
三国の長が、赤ん坊を自分が育てると言い張る。しかしそうなると赤ん坊は泣き、三人で協力しようとすると笑顔を見せる。
その赤ん坊の奪い合いは、後で噂されていると描かれる「勝利の剣かもしれない」というものではなく、純粋に赤ん坊に対する愛から来ているというのも興味深い。

もしこれが、男同士だったらどうだっただろう。勝利の剣の化身として真っ先に思い、そして我が手に収めようとしたのではないか。子を産める女性とは違ったかもしれない。
作中、遺伝子レベルでお互いを敵視しているという言葉があるが、まさに、遺伝子レベルで子を産める女性には、愛の方が大きいのかもしれない。そんなことを考えさせられる大きな愛を感じると、人間、捨てたもんじゃないと言いたくなる、女神に。

そう。争う三国とは別の軽力、いわばラスボスとして人間へ審判を下す女神の存在が現れる。100分という中では、割と早めにラスボス感を出していたので、もしかして、まだどんでん返しがあるのかなと思ったほど。さらなる共通の敵が出て、女神とも手を組む・・みたいな。書いていて思ったけど、5年後に再び人間への審判が下された後、今度はサタンでも出てきて、女神とも一緒に戦う・・なんてならないかな。

ガールズ演劇だからといえばそれまでだが、この世界の男性はどうしているのだろう。種が続いてきたということを考えると、やはり”雄”の存在もあるのだろう。少なくともヒューマンは卵を吐き出して子孫を残すことなど出来なさそうだ。この”雄”の存在との戦いも、そこには大きなテーマを持って描くことができそうだと感じた。

今回、役とかは関係なく、楽しみにしていたのが七凪こなさん。幻想チームだった。
以前、「童話革命」で初めてその演技を観て、気になった存在。ところがその後、演技を観ることも叶わず、そしてその他のところでも直接会うことは叶わなかった。
いつもすれ違う中、ようやく今回掴んだチャンスも台風で休演に。でも、ここで会えないともう会えない気がして、チケットを取り直して観劇へ。

演じた役は、ドワーフの先頭に立つ戦闘隊長。いわば、戦闘力が一番あり、そして人望も厚いのだろう。今回、チケットを取り直した影響で、観る順番が変わったため、最初に観た空想チームのロインのイメージが頭にあった。事前にあまり情報を入れなかったため、こなさんがどの役かは、空想チームを観るまで見ないようにしていた。観劇後に思ったのは、新人ドワーフかと思っていた。ところがパンフを見て戦闘隊長だと知り、なかなか面白いなあと思った。
実際に観劇すると、役的には文字通り力技で押すタイプ。こなさんは真逆のように見える。しかしまっすぐ前だけを見て進むという内面、変なことを画策せず、信頼するものに言われれば実行する。見たままの相手を信じる。
そういうひたむきで一生懸命な様子が、見事にハマる。
周りで話している時、難しい話をしている時、自分なりに理解しようとし、そして話している人の方を見る姿が愛らしくさえ見える。ほんの少しの仕草だが、真剣さ・まっすぐな性格を表すにはこれ以上はない。
言葉はいくらでも繕える。だが仕草には、必ず繕えないほころびが出る。
少なくとも、こなさんの見せるひたむきさは、観ている人にそれは嘘ではない、つくられたものではないと感じさせるものがあった。
そしてその細い腕でパワーある姿は、人間見た目じゃないんだよという隠れたメッセージすらあるように見えた。
空想チームの方は初見だったが、おそらく、その役に合うようなひたむきさを普段から感じるような人なのだろう。そういう人たちは、周りにも力を与えてくれる。だから応援したくなる。
今、書いていてふと思った。せっかく二人で同じ役をやっている。パラレルワールドが繋がり、この二人が出会ったら、いったいどんな展開になるのだろう。理解できず壊れるのか、いや、きっとその状況を楽しむだろう。そんな適応力さえ持ったのがこの役で、そう感じさせる二人の演技を観られて良かった。

同じ幻想チームでは、今回初めて会えたのが三吉織乃さん。
空想チームに出演している菜乃華れみさんがつないでくれた縁で、他の舞台で拝見。その時の印象が強かった。
温かく見守るという場面で、視線・セリフのスピード・間が素晴らしく、聖母のような温かさかとオーラさえ感じた。・・確かに、その時はスポットライトが当たっていたが。
そして今回はエルフの族長という立場。
聞けば舞台はまだ4作品目とのこと。しかし、そうとは思えない雰囲気を纏っていた。エルフは魔法が使えて、どこか高貴な雰囲気。当人たちも3種族の中でそういう意識があるのだろうと思わせるのに十分すぎるほどだ。

舞台4回目というのに、セリフの一つ一つがとても聞きやすく、間も良く、それらが前述した雰囲気を出しているのかもしれない。彼女の演技を語るには、もう少し違う役で観たい。なにしろ、SNSでもあまり絡んでいなかったため、まだその人柄もよく知らない。
だがチェキ会で会った時、そして今回の公演間に少しやりとりをした感じでは、彼女の人柄はとても親しみが持てる。そして想像以上にストイックなのかもしれないと感じた。
役と本人は違うと言っても、やはりその人の雰囲気などもあり、それが役の決定に大きく左右する時もあるだろう。
織乃さんは実年齢は若いのに、その演じる役にはある程度の人生経験を積んだ役が与えられている。それだけ背負わなければならないし、自分に落とし込む必要がある。それをできて違和感がないのは、感受性が豊かなのだろう。
これからも応援していきたい。もっと色々観て、織乃さんの事も知ったとき、きっと観劇の感想は止まらないくらい厚いものになるだろう。これが最初で最後の感想になる、なんてことは間違いなくない。

その織乃さんをある意味紹介してくれた形になる菜乃華れみさん。
これまでも数々の特色ある役を演じてきた。最近も、この作品のように複数の勢力がぶつかる中で、その狭間に属するような役を演じた。
そして今回、まさかのラスボス。
これまでの役では、可愛らしさ、あどけなさが残るような表情をする役が多く、その表情の面白さも魅力の一つだったが、今回は、それがほぼ封印。
集中する人に時々見られるという舌を出すしぐさも、彼女がこれまで演じていた役にはハマっていて、コミカルに、時にシリアスに演じてきた。
しかし今回、女神であるということが分かってからの彼女は、そんな仕草を一度も見せず、それどころか背筋の伸ばし方から立ち方まで、グッと変わる。
変わったのはこの作品だからではなく、女神と判明してからというのも実に巧み。
世界樹の研究をしているという立場の時は、また少し違う。3種族の狭間で、彼女たちをつなぐ役割として、少し落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
それが女神と判明した後は、そのまとう空気が一変する。
上着を脱ぐことで一つのスイッチともなっているが、

この役は、嫌われ役にならないといけない。
それは決して「悪」と言える単純なものではなく、まるでその存在自体が試練と見えるようにならないと、つまらない戦いになってしまう。ただの強者による粛清。虐殺。
しかしそれでは救いがない。
仮にそれで人間が勝ったとしても、ただ武力でねじ伏せたとなってしまう。
そうならないためにも、「悪」でなく「嫌な奴」である必要があった。

この役を菜乃華れみさんはもちろん、逆班の美月まりもさんも実に巧みに演じていたと思う。
菜乃華さんは、その笑顔が含みを持たせたように感じさせ、美月さんは完璧な女神という印象を与える。どちらも、圧倒的な力を持つのに、人間を全滅させようとしているのに一切悪に感じさせない。
配信で改めて観たが、やはり二人の女神は好きだ。どちらも過去にその演技を観たことがある二人だが、今回は今までの中で一番印象に残ったと言っても過言ではない。それだけ難しい役だったと思う。

そして三国に順番に育てられた主役・フレイを演じたのは、それぞれのチームで永瀬がーなさんと伊藤綾佳さん。がーなさんは何度も演技を観ているが、伊藤さんは今回が初めて。でも、ずいぶん前にXでフォローしてもらっていて、実は今回、楽しみにしていた。

がーなさんは、何度か主演舞台を観ているが、正直、どんな役でもこなしてしまうという印象。それは人間に限らない。元々「悪」といえる存在というよりは、無垢な存在の方が多い気がする。
やはり、どうしても可愛らしい、愛らしいビジュアルからすると、なかなか悪には結びつかないかもしれない。今回も赤ん坊から驚異的な人間離れした成長を遂げる女神役だが、全て記憶を失い、相容れない三属性を取り持つ無垢な存在にはふさわしい。

幻想チームで同じ役を演じていたのが伊藤綾佳さん。
フォローされていたのになぜか縁がなかった伊藤さんだが、今回、初めて、ようやくその演技を観ることができた。
伊藤さんは、がーなさんより、より人に近い存在のように見えた。がーなさんが人間離れした役を演じているのを観たことがあるからではなく、無垢というよりは人間に育てられ、より人間に近づいたように見えた。
ダブルキャストでの主演。同じ役なのに少しそれぞれの色が出ているのを観るのは楽しい。そこには、役の存在を自分にどう落とし込むか、どう背負うか、その解釈の微妙な違いなどが影響するだろう。
今回観て感じたのは、これからもこの二人は観て応援していきたいし、なにより、この二人が「純粋”悪”」を演じた時が観たい。屈託のない笑顔で、悪しかない姿。
立場により正義は変わり、悪も変わる。それでも、どうしようもなく「悪」に見えるそんな役。もしそんな役が来たら・・と想像してみたが、彼女たちの純粋に見えるその笑顔が逆に恐怖にしか感じない。そんな役は、たいがい、劇中で明かされるだろうから、これからもどんどんと観に行こう。

伊藤さんは、SNSをたまに見ていたが、反応するタイミングを逃してズルズルと来てしまい、今回も会うチャンスがありながら、なんとなく逃してしまった。この感想を上げたら、少しずつ反応してみようかと思う。
そしていつか、きちんと挨拶をしに、面会やチェキ会に行こうと思う。

三国での主張。
今の世界と違い、同じ人間でも大きく能力の異なる種類の人間が存在する世界。
主張が異なるのは当然だが、何で憎みあっているかという理由も劇中で明かされた。
でも、それはちゃんと対話をすれば、お互いを同じ人間として認め合って話をすれば、もっと早く回避できていたのではないかと思われた。
そして憎みあう理由に、昔からだから、遺伝子レベルで植え付けられている、というような表現があり、それはまさに、この世界でも同じではないか。
過去にお互いを傷つけることはあっただろう。でもそれは、今生きている自分たちではない。祖先が嫌な思いをした、憎むべきことをされたという。それでは、そんなに愛国心、先祖たちへの敬いはあるのだろうか。ただ昔からだから、そう言わないとおかしいから、そんな悪しき慣習ではないのか。
もしそうなら、それを断ち切らねばいけない。
しかしそれをするには勇気がいる。自分が命を賭けても変わらないかもしれない。
でも、三人いれば、それができるかもしれない。その一歩を踏み出せるかもしれない。
彼女たちの勇気は素晴らしい。
この作品は、まさに政にかかわる人たちに見てほしい。そんな気にすらなった。

配信後まで感想のアップデートを待っていたが、その間に続編の公演が発表された。
果たして今度はどんな展開になるのか。この世界に何を投げかけくれるのか楽しみに待ちたいと思う。

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